「それ、会社病ですよ。」社会が何でも「白か黒か」では国が衰える子供の正義に同調するな Vol.15


食品の表示偽装問題でホテル業界や百貨店業界が揺れています。確かに、ちょっとやりすぎと思えるケースもありましたが、質の悪い車エビより、新鮮な他のエビのほうが美味しいこともある。では、メニューの素材をいちいち「今日は○○に替わって××が」と説明されるのも煩わしいでしょう。
 案の定というべきか、メディアは大きく騒ぎだしました。それが「けしからん」という社会の空気を加速させていくことになるのは間違いありません。この先には、何が起こりうるか。過去にも何度も同じような事態が起きました。“子供の正義”を振りかざした政治家が、罰則化や法制化を提案する。規制を強化するために役人が組織を作る。政治家は選挙のための点数稼ぎになり、役人が新たな天下りポストを手に入れる。つまりは、焼け太りです。過去の構造計算書偽造問題しかり、派遣法しかり。事業者側は、新たな規制に対応しなければなりません。それはコストアップにつながり、結果的に消費者がそれを負担せざるを得なくなる。
 払うコストに比べて、消費者が手に入れられる恩恵は微々たるものです。偽装は確かに問題ですが、食中毒が出たわけではない。私自身、ある高級ホテルで、フレッシュジュースと銘打っているのに、「これは違うだろう」と思わざるを得なかった経験があります。そんなことをしていたら、結果的に信頼を失うだけ。もう行かない、という選択をするだけのことです。偽装の事実さえ明らかにしたら、ペナルティーはマーケットが下すのが基本です。

何か大事件が起きた時、“子供の正義”に向かって空気が生まれやすいのが、今の日本です。すぐに白か黒かにしたがる。世の中は黒と白だけではなく、グレーが必要です。もしグレーがなければ、高速道路で制限時速を1キロでも超えればアウト、AO入試のような曖昧な方式の試験もNGになります。困るのは私たちなのです。そして、グレーゾーンのない融通の利かない社会は国として衰える。
 西洋はグレーを上手に制度化しています。例えば、欧米の超一流大学でも寄付金しだいで入学可能なことは周知の事実です。
 大事なことは、まずは冷静になる、ということ。とにかく頭を冷やしてから考えるという意識を強く持つことです。出来事の衝撃度の大きさゆえに、解釈を間違えることは少なくないからです。津波が堤防を乗り越えたから、津波より高い堤防を作ろう、などという発想がまかり通ってしまう。冷静になれば、実は堤防が下から崩されていたことや、津波が到達するまでには数十分の時間の余裕があるから逃げ場所の確保のほうが重要、ということにも気づける。
 そもそも、わかっていても熱くなってしまい、大事なことすら忘れてしまうのが、人間です。1899年に生まれたフランスの劇作家サラクルーは、こんな言葉を残しています。「人間は判断能力の欠如で結婚し、忍耐力の欠如で離婚し、記憶力の欠如で再婚する」。あらゆる場面で、冷静になりすぎることで困ることはないのです。


Text=上阪 徹 Illustration=村田篤司
*本記事の内容は13年11月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい