伝説のソムリエと呼ばれる男が語る究極のワインとは?

伝説のソムリエ――「Wine Maison Bask・J 」の店主、江川和彦さんを人はそう呼ぶ。世界中の銘酒や古酒にふれてきた江川さんに究極のワイ ンについて語ってもらった。


人とワインをつなぐことに全身全霊をかける

「究極が何かは人それぞれ。つくり手は各々が自分なりのワインを究めようとつくっている。一方、飲み手は状況に応じたワインを愉しむ形(スタイル)を求めている。私の仕事は両者の間をつなぎ、お客様に究極の1本を提供できるよう道を究めることです。ファインワインには表情がある。味の表現というより顔の表情。怒ったり笑ったり、悲しんだり。ボトルごと、開けたタイミングによっても、まるで山の天気のように表情がくるくる変わる。これが自然の恐ろしさであり偉大さ。それを見極めたサービスが大切です。ワインを注ぐことなんて誰でもできる。でもソムリエはそれではいけない」

かつて同一ヴィンテージのロマネ・コンティを現地で100本買いつけ、そのすべてをサーブした(ワイン1本につき、グラス6杯としても、最低600回以上もの試飲を繰り返し行っている)という経験に裏打ちされた、江川さんならではのワインとの真剣勝負。

ワインごとに注ぎ方は変わる。例えば、ブルゴーニュの若い白ワインは、液体を回転させてから跳ねないように注ぎ、豊かな風味を保つ。

「ワインには物語もあるでしょう。ニューワールドなら開拓者の、ボルドーなら一族の歴史の、ブルゴーニュならこの人は誰の背中を追いかけたのかという個人の思いとか。1本1本に宿るそういう歴史や人生を飲み手に伝えることも、大切な役割だと思っています」

「Wine Maison Bask・J」のワインリストには、ムートンの1945年や、アンリ・ジャイエのリシュブール’85年など、伝説級のワインが並ぶ。師と仰ぐマスター・オブ・ワインのマイケル・ブロードベントやアラン・グリフィスなどの紹介で親交を得た独自のルートで購入したものだ。

その一方で、「ユーザーが今、何を求めているかは、量が売れているワインに表れる。ワインの世界は広い。毎日が勉強です」と、自宅ではあえてスーパーの自社輸入ワインばかりを試飲している。

駆けだしの頃、手の届かない高級ワインを勉強するために、ゴミ集積所で空瓶の底に残っていたワインを本と突き合わせながら飲んでいた、あの必死さを忘れたくない、と江川さん。

「ワインと時間は人に感動を与える。常に一期一会の姿勢で飲み手とワインをつなぐ。これが私の使命。私は死ぬまでワインを守ります!」


江川和彦さんセレクトの注目ワイン

■「リシュブール1985/アンリ・ジャイエ」(左)
江川さんの勧めでワイン党になった顧客のために36本入手し、アンリ・ジャイエにハマるきっかけとなった。

■「ミュジニー1961/ルロワ」(中左)
ジャイエがその背中を追いかけたであろうルロワの先代アンリ・ルロワが手がけた名品。

■「シャトー・シュヴァル・ブラン1947」(中右)
20世紀を代表するワインの1 本であり、史上最高の傑作と誉れ高い。

■「アウトポスト・ジンファンデル・ハウエル・マウンテン2012」(右)
江川さんのアンテナは希少ワインのみならず、ニューワールドの新しい産地やつくり手もキャッチ。人気のない山奥のワイナリーまで足を運んだほど惚れこんだという。


10年以上愛用する貝印のソムリエナイフは、常に2本携帯。「手にフィットし、芯が細めでどんな状態のコルクにも合う」。
Kazuhiko Egawa
「Wine Maison Bask・J 」店主。2016年、東京・銀座にワインレストラン& バー「Wine Maison Bask・J 」をオープン。

Text=西田 恵 Photograph=鈴木規仁