ロボットデザイナー松井龍哉 家の中心にロボットがいる未来~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

松井氏がロボットデザインを手がけるうえで軸にしている考えは 「スマートホーム」だ。自然な形で人の暮らしを助けつつ機能的。 昔描いた未来の生活が実際のものになろうとしている今、ロボットの役割とは?

ロボットをつくりながら新しい家をデザインしている

松井 今お隣にいる少女型ロボットのポージーは、実は滝川さんの先輩なんですよ。

滝川 先輩? 

左:少女型ロボットのポージー。右:滝川氏 ブラウス¥27,000(ヤストミ エズミ/リ デザインTEL03・6447・1264) ピアス¥52,000(ALEX MONROE)、 リング¥20,000(DELPHINE CHARLOTTE PARMENTIER/ともにアッシュ・ペー・フランスTEL03・5778・2022) スカートは本人私物

松井 2016年開催のオリンピック・パラリンピックの招致プレゼンで、オバマさんに手を振るなどしたんです。

滝川 あら、知りませんでした。

松井 すぐに負けてしまって全然話題にならなかったから……。ポージーはフラワーガールをイメージした、おそらく世界最初の少女型ロボットです。技術力と同時に日本的な優しさもアピールしたい、ということで抜擢されたんですけどね。

滝川 10年くらい前の話ですよね。早すぎたのかも。来たる2020年には、ロボットの見せ場もかなりあるでしょうね。

松井 先日ベルギーで各国のロボットを200体くらい集めた展示会があり、現地の子供たちとも話をしたんですが、東京は夢の国みたいなイメージでした。ニンテンドーも大人気。

滝川 実際に一般家庭用ロボットの開発も目覚ましい勢いで。

松井 これまで日本のロボットはアカデミックな印象が強くニート的な存在感でしたが(笑)、今は世界で勝負できるような産業への発展を期待されています。20世紀の産業が自動車とコンピュータだとして、21世紀前半は間違いなくロボット産業が台頭するでしょう。培ってきた技術やノウハウ、特許をより一般の生活に応用できるよう、今ががんばりどころですね。

滝川 BtoBからBtoCへ。松井さんの膝にのっているパタンも、一般向けに開発されたAI搭載自律型ロボットですね。

松井 ええ。オムニホイールという面白いタイヤで自在に走ります。ロボットが空間を認識するのは難しいんですが、3年かけて、目的に沿った走行ルートを考えられるようになりました。

滝川 ポージーもパタンも優しい雰囲気がありますよね。外見のデザインではどんなところを意識されているのでしょう。

松井 ポージーはわりとアイキャッチーですが、パタンは機能美を意識しつつ、あまり目立たないように心がけました。というのもパタンは、スマートフォンにアプリを入れるような感覚で、オプション的にいろいろな機能を足せるんです。照明器具とか、空気清浄機とか、プランターとか。大切なのはあくまでも人の生活ですから、邪魔にならずかつ心地よい、引きのデザインであることが重要かと。

滝川 植物も育てるんですか。

松井 LEDでプチトマトなんかを栽培するんです。自走して太陽光の近くに行ったり、水が足りなくなったら通知を送ったり。あとは多分、植物にも気持ちってあると思うので、そのあたりも研究していけたらと。

滝川 植物の気持ち……。

松井 開発を始めた4年前に上に盆栽をのせる案をつくりました。360°から観賞できて、かつ盆栽の気持ちを汲んで動くとか。

滝川 盆栽って、海外では若い人にも人気ありますしね。

松井氏は現在、業界の垣根を越えたIoT連 携を行う、日本の名だたる企業の連合「コ ネクティッドホームアライアンス」のデ ザインディレクターとしても活躍。日本 では各企業が個別で製品開発するので、 暮らしのIoTサービスが充実しておらず、 それを打破するものという。例えば、深 夜に地震があった場合、ネットワークに つながった緊急地震速報を受信し、テレ ビの電源が入り、照明が点灯、避難経路 のドアが開き、コンロなどの火を使う機 能が停止するといった具合。松井氏はそ のスマートホームの中心に、「Patin」(写真) のようなAIを搭載したロボットを備える ことで生活の利便性が上がると語る。

松井 無機質なものと生物的なものを融合させていきたいっていうのは、自分の将来的な目標のひとつです。夢物語を語っているのではなく、植物学者の方にも今いろいろ相談しているところなんですよ。今後100年はロボットの時代であると同時に、生命の時代だと思うので。

滝川 どういうことですか?

松井 バイオテクノロジーが普及して、仮に寿命が200歳まで延びたら、人生観、生命観、教育、時間の感覚すべてが変わりますよね。そうしてあらゆる価値観が移りゆく社会において、僕たちはどのようなものをつくり、どのようなものと共存共栄していくべきなのか。おそらくより自然と調和した生活になっていくでしょう。となると、生命の定義そのものも捉え直す必要があるんじゃないかと。

滝川 そこまで考えながら。

松井 今はまずビジネス、産業として広めていくことが先ですけれど。ただ2001年に私が立ち上げた会社「フラワー・ロボティクス」の名には、ロボットが花のような│傍にあって生命を感じられて、心が豊かになるような存在になれたらという願いを込めました。特に小さなお子さんを持つお母さんは「ロボットは戦争で使われるのでは」と警戒されることが多いのですが「僕らがつくっているのは花です。戦争に花は持っていかないでしょう」と説明すると、安心してくれます。この会社名は、僕の最高傑作かなって思うほど気に入ってます(笑)。

滝川 松井さんとは以前、フランス料理関連のイベントでお話ししたことがあるんですよね。その時は猫派犬派の話題で盛り上がって。一般的なロボット工学のイメージとは違う方だなと。

松井 猫は世界を救いますからね。レオナルド・ダ・ヴィンチも「唯一、人間につくれないものは猫だ」と言っているほどで……とそれはさておき(笑)。たしかに僕の立ち位置は日本ではちょっと特殊かもしれません。工学系ではなく建築系の出身なので、常に人の生活が頭にあるんです。パタンも単体で存在するというよりは、スマートホームという家に入っていくもの。たぶん僕はロボットをつくりながら、新しい家をデザインしているのかなと思います。

滝川 発想のはじまりから、生活に密着しているんですね。

松井 かつて工業化が進んだ時代に、ル・コルビュジェは「建築は住むための機械だ」と言いました。それを受けて言うならこれからの建築は「住むためのロボット」になるでしょう。必ずしも先鋭的なイメージではなく。優しく思いやりのある快適さも、技術でつくれますから。

滝川 ソフト面でも人を幸せにするような。そういった観点でのロボット開発は、海外でも進んでいるんですか。

松井 あまり進んでいませんね。欧米ではあくまでも機械の延長というイメージです。スイスでは医療の現場を想定したコミュニケーションロボットの研究が盛んかな。姿かたちだけでなく、コミュニケーションのあり方も大事なデザインの要素ですよね。例えば音もそう。意外と軽視されているけれど。

滝川 最近はバルミューダも、音を研究しているようですね。

松井 だと思います。スター・ウォーズのR2 -D2のピポピポという機械語って感情みたいなものが伝わりますよね。逆に流暢に人間の言葉を喋られると、録音以上のものに聞こえなかったりして。ロボットにはロボットの役割や気持ちがあるのだから、必ずしも人の真似をする必要はないと思ってます。

滝川 面白いです。海外での展示会も増えているんでしょうか。

松井 今年は多いですね。仕事以外でも思い立ったらすぐ行動するたちなので、A4が入るトートバッグひとつで世界中どこでも行きます。この対談の連絡をもらったのもスペインにピカソのゲルニカを見に行っている時でした。突然「見たい!」と思って、予定をキャンセルして。一昨日フランスから帰ってきて、再来週からアメリカ出張なのですが、昨夜ふとニューヨークに寄りたくなったのでスケジュールを組み直しました。またチケット手配したところです。

滝川 すごい行動力。

松井 服もずっと無印良品の同じ服を着ていますからね。汚れたら現地で買い替えます。

滝川 フットワークの軽さも発想の源になるのでしょうね。

松井 ひとりで集中する時間を意識的に確保していて、移動時間も大切です。仕事は集中力がすべてですから。寛容な妻のおかげで成り立つ生活ですが、猫には居候扱いされてます(笑)。

滝川 自分のタイムキーピングが必要なんですね。

松井 だから組織、束縛、強制は受け入れがたい。窮屈に感じたらきっと窓を破って逃げてしまう。

滝川 猫と一緒(笑)。

松井 そうそう。自分の感覚を守らなければ、誰も幸せにできないと思うんですよ。

Tatsuya Matsui
1969年東京都生まれ。建築家・丹下健三氏に師事したのち、コンピュータ、情報の世界へ転向。2001年フラワー・ロボティクス社を創立。小鳥型「Polly」、ヒューマノイド「PINO」などを発表、幅広いロボット普及に努めている。

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Text=藤崎美穂 Photograph=豊田和志 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=野田智子


滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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