【Relux篠塚孝哉】「いまの時代こそ、泥臭く、やり切った人間が強い」<前編>

「宿泊予約サイトは情報量が多過ぎて、どこを選べばいいのかわからない」。そんなカスタマーの悩みを解消すべく、2013年に誕生した宿泊予約サービス「Relux」。宿泊施設の掲載に厳しい審査基準を設け、一流ホテル・旅館のみを厳選して紹介するシステムは、上質な旅を望む人々の心をとらえ、会員数約190 万人を数えるまでに成長した。老舗の大手代理店が強く新規参入が難しいとされる旅行業界で、なぜReluxは成功をつかめたのか? インタビュー前編では、同サービスを運営するLoco Partners代表の篠塚孝哉氏に、Relux立ち上げの経緯を聞いた。


リクルートで営業力を養う

旅が好きになったのは、祖父のおかげです。夏になると、旅行に連れて行ってくれました。参加者は家族やいとこなど、総勢10人以上。旅館に泊まり、海やお祭り、花火大会などを満喫する。とても素敵な祖父だったんです。

その後、大学時代にバックパッカーを経験。バックパックを背負って、世界20ヵ国以上を訪ねました。世界の素晴らしさを感じるとともに、日本のよさにも改めて気づかされました。日本は四季に恵まれ、地域ごとに異なる特性があると。一方で、日本の弱点も見えてきたんです。外国では、日本の認知度が圧倒的に低い。外国人に日本のイメージを聞くと、てんぷらとか、寿司とか、そういう答えが返ってくる。日本各地の魅力をえられる人は少なく、あまり知られていないんですよ。

そこで地方の魅力を発信するような仕事がしたいと思い、新卒でリクルートに入社しました。配属先は志望通り、日本最大級の旅行予約サイト「じゃらん」です。入社1年目は、いわゆる“ドブ板営業”。一軒、一軒、地道に旅館やホテルを回って営業をかけ、契約を取ってくる仕事です。朝6時台の新幹線に乗り、現地に入って、夜22時頃まで働く。ワーカホリックといえる生活です。きつい日々でしたが、営業力が身についたと実感できましたし、1~2ヵ月で受け持つエリアが変わるため、日本各地の観光や宿泊施設に詳しくなるのがうれしかったですね。

震災をきっかけに起業を目指す

2011年、東日本大震災が発生しました。福島県を担当していた時にお世話になったホテルや旅館、ペンションが震災後に次々と経営難に陥っていく様子を見聞きし、意識が大きく変わりました。自分自身の死生観も変化しましたね。「もし、いま僕が死んだら、何も挑戦しないで死ぬことになる。何も残していない人生になる」と。

何かに挑戦したい――。それまで、僕には「起業したい」という思いはまったくありませんでした。でも、東日本大震災をきっかけに「何かをやりたい」という漠然とした気持ちが高まったのです。もうひとつ、震災時に目の当たりにしたのが「情報の錯綜による混乱」です。正しい情報が発信できずに、風評被害で東北地方の観光が大打撃を受けました。じゃらんで培ってきた能力を、こうした部分に役立てられるのではないかと考えました。

ぼんやりとやりたいことはあったものの明確なゴールもなく、200万円の資本金で株式会社Loco Partnersを立ち上げました。当初の事業はSNSコンサルティングが中心。当時、アメリカの企業はすでにFacebookを活用していましたが、日本ではまだ黎明期。そこで、企業や宿泊施設のFacebook作成のサポートを始めたところ、収益が上がり始めたんです。資本金が少なく、キャッシュフローも悪かったため、資金が4万円くらいになった時期もありました。お金に苦しみましたが、1年目は5人、2年目は10数人と、会社の規模も徐々に大きくなっていきました。

業績は伸びて通期利益も出てきましたが、事業を進めるうちに、疑問を感じるようにもなりました。「似たようなサービスは誰でもやれてしまうだろう。これが僕の本当にやりたかったことなのか」と。もっと日本の魅力を世界中に発信していきたい。得意分野である“旅”をベースに、さらに上のサービスをつくり上げるべきだと考えるようになったのです。

2013年、Reluxをローンチ

こうした仕事をしていると、僕のところへ友達がよく相談に来ます。「奥さんと結婚記念日に旅行に行くんだけど、どこがいい?」とか、「彼氏の誕生日なんだけど、いいところはない?」とか。「自分で予約サイトを見ればいいのに……」と思いつつ、いくつか条件をヒヤリングしたうえで毎回3軒ほど宿泊施設を紹介すると、みんな、その少ない選択肢の中から選んでくれる。そうした経験から、「人は情報が増えすぎると選べない」という結論に至りました。キュレーターのような厳選するファンクションがないと、一般のユーザーはかえって扱いづらいのです。これを仕組みにしたサービスをつくればいいのだと、宿泊予約サービス「Relux」を立ち上げました。

紹介する宿泊施設は、Reluxの審査委員が現地へ出向き、部屋、風呂、料理、おもてなしなどをチェックし、厳選した宿泊施設のみです。同時に、インターネット上のすべての口コミ情報をデータ化し、評価の一つの要素にしています。社内には僕のほかにも、元じゃらんの社員で全国各地を泊まり歩いてきた“宿泊施設の目利き”がいるので、慎重かつ厳しい審査が可能なのです。

いま、全国には約3万軒の稼働している宿泊施設があります。その中からReluxの審査で上位10%程度に入った宿を紹介しています。10%を軒数でいうと、約3000軒。現在、約2500軒に加入していただいているので、これからさらに増やしていきたいですね。

宿泊施設を増やしていくのは、地道な作業です。「加入してほしい」と申し出ても、すぐにOKしてもらえるわけではありません。では、なぜReluxは軒数を増やすことができているのか? それは、人間的な“泥臭さ”を大切にしているからです。旅館と対話するには、論理だけではダメ。膝を突き合わせて、お酒を飲んで、夢を語り合うような営業スタイルも必要になってきます。そんな営業スタイルには、粘り強さが欠かせません。

例えば、新規の旅館に出向くと、1回目は「来んな」と怒られる。2回目は「お前、来んなって言っただろ」と怒鳴られる。それが3回目になると、相手も半笑いになって、「来んなって言っただろ。まあ、仕方ないなあ」という感じで話を聞いてくれる。そんな泥臭い積み重ねが必要なんですよ。

最近、スタートアップした企業は「スマートであること」を重視し過ぎていると感じます。美しいビジネスを構築しようと、泥臭い部分に手を出しません。でも、ビジネスには誰もやりたがらないドロドロが付きもの。それをやり切れた人が、成功をつかめると思います。いまの時代に、こうしたフィロソフィーは「時代錯誤だ」と言われるかもしれません。でも、そんな時代だからこそ、泥臭くやり切った人が強いのです。

後編に続く


Takaya Shinozuka
1984年生まれ。東洋大学経済学部卒業、東京大学EMP修了。2007年、リクルートに新卒入社し、旅行カンパニーに配属。2011年9月、27歳でLoco Partnersを創業し、代表取締役に就任。2013年4月、宿泊予約サービス「Relux」をローンチ。趣味は、旅行、ランニング、ギター、ワイン。著書に『整理の習慣』がある。
https://rlx.jp/


Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生