資本主義の未来が見えない! ケインズなき時代をどう生きるか~ビジネスパーソンの言語学94

トップリーダーたちのコメントには、新時代をサバイブするヒントが隠れている。当コラムでは、ビジネスパーソンのための実践言語学講座と題して、注目の発言を独自に解釈していく。94回目、いざ開講!

「1930年代と決定的に異なるのは、今はジョン・メイナード・ケインズがいないということです」ーーードイツの社会学者ヴォルフガング・シュトレーク氏が朝日新聞のメールインタビューに答えて

ヴォルフガング・シュトレーク氏は、2012年の著書『時間かせぎの資本主義』で金融緩和による問題の先送りを批判した社会学者だ。同書は丹念に歴史を追いながら、資本主義と民主主義の未来に警鐘を鳴らした名著として知られている。その著者である彼が新型コロナウイルスに“蹂躙”されつつある世界経済について、朝日新聞のインタビューに答えた内容が興味深い。彼は、リーマン・ショック以降の世界経済は「『ステロイド注射』によって生きながらえてきた」だけであり、「ウイルス危機は、元から抱えてきた矛盾をさらに深刻にする」と説く。

日本では緊急事態宣言が延長され、経済へのさらなる不安が増大している。一方で世界を見ると、感染拡大を半ばあきらめたかのように市民活動の通常化を急ぐ国もある。どちらが正解なのか、誰にもわからない。ただ確実なのは、このコロナ禍が過ぎ去ったあと、そこにはこれまでとは異なる世界が広がっているということだ。シュトレーク氏は国家の巨額の財政支出と金融緩和が進むことに対してこう疑問を投げかける。

「それがどれだけ持続可能なのか、どのように終わりを迎えるかはだれも知りえません」

現在の危機と比べられることの多い1929年の世界恐慌は、アメリカ・ルーズベルト大統領によるニューディール政策で立ち直ったと言われている。その基礎となった理論がジョン・メイナード・ケインズによるいわゆる「ケインズ経済学」だ。

「1930年代と決定的に異なるのは、今はジョン・メイナード・ケインズがいないということです。彼が構想したような、グローバル資本主義を持続可能に組み替える輝かしい思想が、今は存在しないのです」

時代は新しい経済思想を求めていた。それが見つからないために「時間かせぎ」をしてきたのだが、新型コロナウイルスによってその時間かせぎすらできなくなったというのだ。恐らく誰もが薄々感じていることだとは思う。もう、僕らが安穏と過ごしていたあの時間は、もとには戻らないのだ。危機は恐らく大会社に務めるビジネスパーソンにも等しく訪れる。飲食業や観光業を「大変だな」と思っている間にも地面が崩れ始めているのだ。

とはいえ、私たちはケインズでもルーズベルトでもない。輝かしい思想もそれを現実化する実行力も持たない人間にできることは、油断せず、覚悟を決めて危機を迎え撃つことだけだろう。いたずらに悲観しても仕方がないが、楽観することも許されない。気がつけば、時代は新しいフェーズに突入しているのだ。


Text=星野三千雄