香川真司に抱いた危機感 球道 即(すなわち)仕事道 宮本慎也


香川真司に抱いた危機感

昨シーズンのオフの時のこと。アマチュア時代の後輩が、髪の毛を茶髪にしてきたことがあった。どことなく清潔感もなかったし、ずっと気にかけている選手なので、これは僕が言わなければいけないと思って忠告した。
「奥さんに聞いてみ。自分の子供が、将来、香川(真司)選手とお前と、どっちのようになってほしいか、って」
 そう言ったら、彼は黒く染め直してきた。
 なぜ、ここでマンチェスター・ユナイテッドの香川選手の名前を出したのか。それには理由がある。
 子供たちの憧れのスポーツといえば、僕たちの時代はダントツに野球だった。そこにサッカーが加わり、両者が比較されるようになったのは、いつ頃からだったのだろうか。ただ、サッカー人気がいくら高まっても、それほど気にはしていなかった。
 やっぱり野球がいい、子供たちも親も野球をきっと選んでくれる。根拠はなかったけれど、日本人なら野球でしょう。そう思っていたというのが正直なところだ。

ところが、ここ数年、状況は変わった。特に香川選手や、長谷部(誠)選手などが日本代表に選ばれるようになって、その凛々しさとスケール感に「これは(長い目で見て)野球界にも影響があるぞ」と危機感を抱くようになった。
 新聞などでインタビュー記事を読むと、自分の言葉でしっかりと答えている選手が多い。野球と違って、サッカーは競技国の幅が広いだけに、「世界」を舞台に堂々と戦っている印象が極めて強い。
 また、日本代表の試合になるとチケットは即完売。スタジアムは女性や子供たちで満員になるなど、活況を呈していて、正直うらやましい。
 一方、野球はここ数年、どのくらい進化できただろうか。子供たちに夢を抱いてもらえるような目立った活躍はできているのか? 胸をはって「野球も進化しているぞ!」と言えるのか?
 日本ハムの大谷翔平選手による二刀流などは話題になっているけれど、先般より、統一球が昨年とは(実は)変わっていたという問題で野球界が大きく揺れるなど、ゴタゴタが目立つ。
 スポーツ新聞を見れば、試合があったというのに、コミッショナーの人事のほうが記事の扱いが大きい。選手にとってせつない状況が、ここ最近続いてしまっている。
 勘違いしないでいただきたいのは、僕はサッカーが嫌いだというわけではない。野球とサッカーで、いいライバル関係を保ちながら、日本という国をスポーツから盛り上げたいと心から願っている。
 そのためには当然、野球界もサッカー界のいいところから、多くを学ぶべきではないだろうか。加えて、競技レベルも当然上げていく。やれることは無限にあるのだ。

Composition=上阪 徹 Illustration=きたざわけんじ
*本記事の内容は13年7月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい