『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』原作者・宮川サトシ×監督・大森立嗣<前編>

2月22日公開の『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』は、本ウェブの連載『ジブリ童貞のジブリレビュー』の宮川サトシさんの自伝エッセイ漫画を映画化した作品。その公開を記念して、宮川さんが大森立嗣監督と対談。映画について、そしてそれぞれの母親への思いを語り合った。


照れ臭くも特別な、母親への思い

大森 原作ものの映画を撮る時って、一読して自分が感じたものを割と素直に脚本にしているんですよね。宮川さんの作品で特に感じたのは、母親への思いの強さなんですが、それを作品にしているところがまたすごいなと。ほかの作品も読みましたが、これだけが距離感が違う。内容も含めて特別な作品なんだろうなと思いました。

宮川 普段はギャグマンガを描いているんですが、これは母親の闘病中に携帯に記録したメモから起こしたものなんです。当初は発表するつもりもなく、自分の気持ちを整理し、忘れないようにするために書いていたので、やっぱり特別なものですね。

大森 映画化する時に、距離感をどうとればいいのか、ちょっとわかんなかったのがあったんですよ。俺は宮川さんみたいな家庭で育ってないし、宮川さんがそこにあまりに直球で向き合っていたのでちょっとビビったのかもしれない。

宮川 どういう家庭なんですか?

大森 ひどいこと口走りそうですが(笑)。仲はいいんです、友達みたいで。でもいまだに中高生みたいな照れがあって、70歳超えた母親が「私、もう長くないし」とか言うと、「それいいね~」とか言っちゃったりするんですよね。俺も(弟の大森)南朋も、「私も好きなことやるし、あんたたちも好きなことやりなさい」って育てられてるんで、「急に弱った母親ぶるのやめてください」っていうのがすごくある。

宮川 それわかります。僕もそうだったんですよ。ずっと元気だったのに、ガンと診断されたとたんにコロッとキャラクターが変わって、弱弱しく死ぬ準備なんかして……っていう。

大森 そういう場面を(脚本に)書く時に、やっぱり自分の中の母親と向き合わなきゃいけないじゃないですか。例えば母親が写真を整理しているところに、サトシが帰ってきて爆発する場面とかも、サトシの一方的な思いだけでなく、母親が何を考えているのかを想像しながら書いていた気がします。

宮川 映画を見て、全部が腑に落ちたんです。予告編のナレーションで倍賞さんが「サトシ、ありがとうね」という場面には、背中がぞわぞわっとしました。実際の母からは聞けなかった言葉だったから。特にそのことを意識していたわけじゃないんですが、母もきっとそう思ってくれていたんだと。

母の遺骨を食べたいと、なぜ思ったのか

宮川 一番「すごいな」と思ったのは、母との別れのシーンでしたね。ほんとにそのまま切り取ってきたような空気感があって。僕の中に一番残ってるのは病室のにおいと光なんですが、あの時の母親の顔色とか病室のカーテンの色合とかが、映画でまるっきり同じに再現されていて。そうすると、ほんと、匂いがしてくるんですよ。"幻臭”っていうんでしょうか。ひとり4D状態で(笑)。一緒に見た奥さんも、同じこと言ってました。

大森 脚本には書いていますけど、僕の肉体感覚としてはそういうのはないかもしれないですよね。そこはやっぱり俳優さんたちに、その瞬間を全身で感じてもらいながらやってもらったというか。

宮川 ほんとにあのまんまで。お医者さんが時計を見始めて、分かりやすくタイムリミットが来る、母さんが逝ってしまうと思ったら、まるで電車に乗り遅れるみたいな気持ちになって。伝えなきゃと思って、必死で「愛しとるよ! 愛しとるよ!」と。映画を見ても号泣しましたが、自分で描いている時もわんわん泣きながら書いた場面で……なんか一周回って恥ずかしいです(笑)。

大森 今言われて、僕も照れました。映画ではさらに、ド直球なモノローグをかぶせてますからね(笑)。

宮川 でも母の遺骨が出てきたとき、ほんとに一瞬「食べたい」という衝動にかられたのは、今思うと、愛していたからという理由ではないんですよ。たぶん、なんか焦ったんですよね、焼きあがった骨が母と直結しなくて。ゴロンとした骨盤の骨とか見ても、これ何の部品? みたいな感じで。それがなんなのか、調査したかったというか。死ってなんなのかとか、母がいないことを確認したいとか、そういうことで口の中に入れることを思いついたんじゃないかと。

大森 日本って明確な宗教がないじゃないですか。だから例えば死を目前にした家族から「延命治療しなくていい」と言われても、それをどう受け止めたらいいかわからない。こういうのって今の時代に誰もが直面するリアルな問題だと思うんですよ。遺骨の件は、それを観念ではなく肉体感覚として具体的に示したものだと思うし、小さな家族のことに限らない、普遍的なものじゃないかって気がします。

宮川 僕自身、作品にしたから、母親の死を客観的にとらえ、受け入れることができたんだと思います。ずっと悲しみに暮れてたら、今もこうして話せてないかもしれないと思うんですよね。

後編に続く


©宮川サトシ/新潮社 ©2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
心優しいがゆえに頼りないところがある息子・サトシと明るくてパワフルな母親・明子。そんな平凡でユー モラスな宮川一家の日常は、母へのガン宣告によって一変する。サトシは母のために奔走したが、非常にも母との別れが訪れた。その1年後、突然、母からプレゼントが届く。そこには母から息子への深い愛があった。
2019/日本
監督:大森立嗣
出演:安田 顕、松下奈緒、村上 淳、石橋蓮司、倍賞美津子ほか
配給:アスミック・エース
2月22日より全国順次ロードショー


『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
宮川サトシ著
新潮社 ¥1,000


Satoshi Miyagawa(左)
1978年岐阜県生まれ。漫画家。2013年『東京百鬼夜行』で漫画家デビュー。エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』をはじめ、『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』/原作『宇宙戦艦ティラミス』『僕‼︎男塾』を執筆。本ウェブにて「ジブリ童貞のジブリレビュー」を連載中。

Tatsushi Omori(右)
1970年東京都生まれ。映画監督。映画『ゲルマニウムの夜』で長編監督デビュー。二作目の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で日本映画監督協会新人賞を受賞。ほかに『まほろ駅前多田便利軒』『さよなら渓谷』『セトウツミ』『日日是好日』など多くの話題作を手がける。


Text=渥美志保 Photograph=七咲友梨