アカデミー賞受賞! ポン・ジュノ監督インタビュー『パラサイト 半地下の家族』で描いた現代社会の格差とは?

本年度アカデミー賞で、非英語作品で史上初となる作品賞受賞など4冠を達成した 『パラサイト 半地下の家族』。ギレルモ・デル・トロ、是枝裕和など世界中の名だたる映画人から絶賛され、 2019年カンヌ国際映画祭で韓国映画初のパルムドール(最高賞)に輝いた話題作。その作品を手がけたポン・ジュノ監督に話を聞いた。


「今の社会に求められるのは、寄生ではなく共生」

物語の舞台はソウル。さしたる収入もなく日の当たらない半地下住宅で暮らす貧しいキム一家が、ある偶然から新興IT企業のパク社長宅へ潜り込み、徐々にパラサイト(寄生)していく様子が、強烈なブラックユーモアとサスペンスを交えたタッチで描かれていく。さまざまな要素を見事融合させたポン・ジュノ監督は、「着想そのものは非常にシンプルでした」と振り返る。

「最初にアイデアが浮かんだのは6年ほど前。2つの家族が登場する物語をふと思い付いたんです。とびきり貧しい方の一家が1人ずつ、次々と金持ちの家へ入り込んでいく。プロットは本当にそれだけで、後半の展開についてはまるで展望がありませんでした(笑)。ただ、持たざる家族が富める家に侵入するというイメージに、なぜか強く魅了されたんですね」

観客を不条理なトラジコメディへと引きずり込み、衝撃のラストへと加速していく圧巻のエンタテインメント。根底に流れるのは、社会の分断を見つめるリアルな視線と、映画という表現ならではの想像力と寓話性だ。

「描きたいのは、あくまでも人間の姿。ある特定のテーマから物語を逆算するわけではありません。ただ、現在の資本主義を生きているクリエイターなら、自分たちの社会が直面している格差の問題は、どうしても通らざるをえない。むしろストーリーに反映されない方が不自然だとも思います。例えば是枝裕和監督の『万引き家族』、イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』、ジョーダン・ピール監督の『アス』など最近の話題作を観てもそう。どれも作風や設定は全然違いますが、根底のところでは何かがつながっている気がするんですね。ある意味それは、創作者の宿命なのではないでしょうか」

貧困と富裕の二項対立を映画的空間として造形してみせる手腕は今作でも発揮されている。2013年に撮られたSFアクション『スノーピアサー』では、雪と氷に閉ざされた地球を走り続ける列車を舞台に、前方車両に住む支配層と最後尾で重労働を強いられる貧困層の闘争を描いてみせたが、今回は水平ではなく垂直の構図を多用。映像自体が強いメッセージとして観る者に迫ってくる。

「撮影にあたって、上昇と下降という動きは強く意識しました。例えば映画の冒頭。カメラがクレーンダウンすると、半地下の住居にいる長男の姿が次第に見えてくる。このような縦のカメラワークは、ストーリーテリングと密接に関わりつつ、最後まで幾度となく繰り返されます。ちなみに半地下の住居は韓国ではごく一般的形態なんですが、見方を変えると、日の当たる地表と真っ暗な地下の境界線的なポジションともいえる。金持ちにパラサイトして、そこから抜け出そうとするキム一家は、一歩間違えば奈落に転落するという際どい状態にもあるわけですね。その意味で〈半地下の家族〉という日本語の副題は的確だと思う。他国での公開名はすべて『パラサイト』で、サブタイトルを付けてくれたのは日本だけですが、作り手として非常にありがたいなと(笑)」

主人公のキム一家が暮らす貧しい街から、新興富裕層のパク社長一家がセレブな生活を送る豪邸まで、物語の90%以上を大規模なセットで撮影。脚本の段階から登場人物たちの動線を綿密に計算し、屋内の間取りに反映させることで、観客を引き込む完璧な構図を実現している。だが圧巻は何と言っても、奇想に満ちた物語にリアリティを与える俳優陣の演技アンサンブルだろう。うだつのあがらないキム一家の父親ギテクを演じるのは、韓国を代表する名優ソン・ガンホ。長編2作目である『殺人の追憶』(2003年)以来、『グエムル -漢江の怪物-』(2006年)、『スノーピアサー』(2013年)など何度もポン・ジュノ監督とタッグを組んできた文字どおりの盟友だ。

「ネタバレになるので詳しい内容は言えませんが、後半のクライマックスで、ソン・ガンホさんの表情が大きくクローズアップされるカットがあるんです。さまざまな解釈がありうる、いわば多義的なシーンで。どうすれば観客を説得できるか、実は撮影前はすごく悩んだんですね。でも実際はほとんどテイクを重ねることなく、あっという間に撮ってしまいました。それくらいソンさんの演技が圧倒的だった。おそらく時間にすると0.1秒くらい、1cmにも満たない表情の動きで、大げさに言うと人間の尊厳だったり、それが崩れ落ちる瞬間を表現してくれた。これはもう演出ではなく、俳優の偉大さだと思います」

普通はどこかネガティブな語感を持つ「パラサイト」という言葉。だが、本作から伝わってくるのはそんな救いのない響きだけではない。厳しい現状認識を突き抜けて滲むのは、富める家庭にいつの間にか侵入し、内部から食い破ろうとする貧しき者のオカシミとしたたかさ。ポン・ジュノ監督は、「貧困層が富裕層に寄生していると言うのなら、富裕層もまた、貧しい人たちの労働力を吸い上げる寄生虫かもしれません」と語る。

「この社会に今、本当に求められているのは、一方的な寄生ではなく、共生の関係だと思います。でも、それが成り立つためには、人間という存在に対する敬意がなければいけない。この映画はそういう根本的な礼儀の崩壊と、それによって引き起こされる悲喜劇を描いているともいえます。ある意味ではとても率直で、正直な作品ではないかと、自分では思っているんです」

Bong Joon ho 
1969年生まれ。映画監督。2000年に監督・脚本を務めた『吠える犬は噛まない』で劇場長編デビュー。その後、『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』『母なる証明』などの作品を発表。数々の国内外の映画賞を獲得するなど、世界的に高い評価を受けている。長編7作目となる『パラサイト 半地下の家族』では、満場一致でカンヌ国際映画祭最高賞のパルムドールを獲得している。  


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『パラサイト 半地下の家族』
2019/韓国
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダムほか
配給:ビターズ・エンド
1月10日より全国公開


Text=大谷隆之 Photograph=杉田裕一[POLYVALENT]


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