【松浦勝人】「どんなことがあっても、僕は人事を尽くして大物を待つ」

とてつもない大物が釣れることを期待して、ひたすら待ち続ける

新型コロナウイルスによる自粛が続いた約3ヵ月、僕は自粛をしているという感覚がほとんどなかった。もちろん、仕事はリモートワーク、人とも極力会わない、外出も控え、会食もしない。大人数が集まるパーティもやっていない。毎日、自宅にいたけど、それでつまらない、我慢をしているという気持ちがまるで起こらなかった。

つい最近まで、僕は「毎日がイベント」のパリピだと言われていた。パリピにとって、コロナ禍は最悪の事態。でも、じゃあ、僕がパリピだったのかというと、どうも違っていたのかもしれない。仲間と羽目を外して大騒ぎするのは嫌いではない。でも、自分のためにパーティをしたことはほとんどない。すべて、誰かのためにパーティをやっている。みんなが喜んでくれるからやっている。

ずっとこもっていて、充電ができたとまでは思わないけど、ずっと放電をしている感じ。デトックスじゃないけど、自分のなかの精神的に不純なものがどんどん抜けていっている。

ある飲食店の女性から連絡をもらった。いわゆる接待を伴う飲食店。「営業を再開したので、ぜひいらしてください」と言われた。飲食業はどこもコロナ禍で大きな打撃を受けているから、少しでも売り上げに貢献してあげなければと思う反面、ふと「僕はもう一生行かないかもしれない」という思いがよぎった。

もちろん、仕事上の接待もあるし、連れていってほしい、来てほしいと言われることも多いから、行くとは思うけど、自分から進んで行くことはもうないかもしれない。

人を楽しませること以外で僕自身が楽しめる時間というのは、何かに熱中している時だ。僕にとっては、それが釣り。釣船で海上に出るので、三密なんか関係ないし、釣りの最中は人と話もしない。ただ、他県からの移動を減らすために、多くの釣船が営業自粛をしていた。我慢しなければならなかったのはそれぐらい。

釣りは魚とのやり取りが面白い。僕が狙うのは深海魚が多く、例えばアカムツなら水深300mぐらいにいて、かかって上がるまでに5、6分はかかる。電動リールが巻き上がるのをじっと待ちながら、その動きを見て、狙いどおりの魚がかかっているのか、サイズはどうだろうか、無事に釣り上がるのか、などいろいろなことを思う。この時間が楽しい。それで、とてつもない大物が釣れると最高の気分になる。それを味わいたくて、また釣りに行きたくなる。

会社にはまったく行かなくなってしまった。ほとんどの仕事はリモートで済んでしまうし、そもそもエイベックス全体がほぼリモートワーク。6月のある日の出社率は10%台だと聞いている。それでも仕事は回る。

会社には行かず、都内にあるファクトリーに行って、音楽制作をしている。この施設にはレコーディング設備があって、ここに作曲家チームを集めて音楽を作っている。

僕が楽曲の方向性などを決めて、作曲家チームに課題を出す。それで、全員がそれぞれにまずサビを作ってみる。できあがると、すべてを聴いて、いいものを選ぶ。サビが決まると、今度は全員で、そのサビに合うAメロ、Bメロを作り、また、僕が選んで、曲に仕上げていく。

選ぶ時は、どれを誰が作ったのかわからないようにしている。選んだ後に、たずねれば誰が作ったのか教えてくれるとは思うけど、敢えて聞かない。だから、曲ができあがっても、僕は誰がどの部分を作っているのかまったくわからない。結果として、ほぼひとりで作った曲もあるだろうし、チーム全員のアイデアがたくさん入っている曲もあるだろう。

作曲家チームには、常に新しいメンバーが参加してくる。人選はチームに任せている。僕は、他の作曲家チームというのをよく知らないので判断がつかないけど、メンバーは皆、とてつもなくレベルが高いチームだというプライドを持って仕事をしている。このチームに参加しようという作曲家はチャレンジになる。チャレンジして、砕け散って、来なくなってしまう人もいるし、通用してチームに固定をする人もいる。

世界ではこういう音楽制作がもはやスタンダードになっている。日本で他に同じやり方をしている人がいるのかいないのか、僕はよく知らないけど、僕たちのファクトリーではこの新しいやり方に挑戦をしている。

アーティストやアイドルのデビューの仕方も変わっていくことになるだろう。今までは、エイベックス・アーティスト・アカデミーの練習生やスカウトした子のなかから才能がある人を選抜して、楽曲を提供して、メジャーデビューして初めて世の中に発表するというやり方がほとんど。

でも、デビュー前の練習生にもどんどんレコーディングさせて、世の中に出してみようと考えている。練習生といっても、インスタグラムのフォロワーが1万人、2万人という人もいるので、レコーディングした楽曲を配信してみればいい。何が起きるか。人気が爆発するかもしれないし、何の反響もないかもしれない。どんどん歌わせて、どんどんSNSで露出する。そこから何か新しいことが始まるかもしれない。

僕の仕事は、作曲家チームにお題を出して、後はひたすらどんなものが上がってくるかを待つこと。アーティストをどんどんSNSで露出させて、何かが起こるのを待つこと。まだ、このやり方でいいのか、どう改善していけばいいのかと悩む時間が多く、まだ音楽制作に戻ってきたという実感までは持てていない。多分、このファクトリーから生まれたものが、売れるとか話題になるということが起きて、初めて僕も音楽制作に携わっている楽しさを感じられるようになるのだと思う。

このファクトリーから生まれた音楽は目立たないかたちで、すでに世間に出し始めた。とてつもない大物が釣れることを期待して、僕はひたすら待つ仕事を続けている。

Text=牧野武文 Photograph=有高唯之

松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。
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