【Bespo高岳史典】ライブドアを再生させた男が、今度は"ビスポ!"で飲食店を救う<後編>

2006年の「ライブドア事件」により、廃業寸前に追い込まれたライブドア。同社の再生を決意し、同社の黒字回復の一翼を担ったのが高岳史典氏だ。いまだから話せる「ライブドア事件」の舞台裏と、高岳氏が厳しい飲食業界を救うためにスタートさせた新しい飲食店予約サービス「ビスポ!」について話を聞いた。インタビュー後編では、ライブドア退社後から「ビスポ!」立ち上げまでの経緯を紹介する。


ソーセージを求めて、ハワイからニュージーランドへ

ライブドアを再生させた後、ドイツに本社をもつ外資系企業の社長に就任しましたが、まったくおもしろくない。経営戦略が「全体最適」なんですよ。日本の支社が高い売上を出しても、本社の業績が悪ければ、日本の事業資金はあっさりとカットされる。自分の意欲が外資の壁に阻まれていると感じました。

そこで、会社を辞めて起業することを決意しました。アイデアは何もなかったですね。ただ、「世の中を楽しくする事業を興したい」という気持ちだけでした。IT関連の事業はライブドアでやり尽くしたので、それ以外に何かないか……。模索しているうちに、知人から「ハワイにめちゃめちゃうまいホットドッグ屋がある。日本でも流行るよ」と言われ、「とりあえずは食べに行ってみよう」と、軽い気持ちでハワイに出かけました。

ハワイでも知る人ぞ知るローカルなホットドッグ屋でしたが、これが最高にうまい! 日本でも絶対にウケると確信し、「ホットドッグに賭けてみよう」と決意。でも、ハワイ産のソーセージは日本へ輸入できなかったんです。諦め切れずに情報を集めると、ニュージーランドからなら日本へソーセージが輸入できるという。そこで急遽、ニュージランドの最大手の食肉メーカーさんを訪ねました。

ソーセージを求めて社長さんと面会すると「ニュージランドといえばソーセージよりラムチョップだよ」と言われて。僕はラムが苦手でしたが、試しに食べてみると、これがもう絶品。あっさり心変わりしましたね。そんな経緯を経て、2013年、東京・中目黒にラムチョップを提供する飲食店「ウルトラチョップ」を開業することになりました。

「ウルトラチョップ自慢のラムチョップです」

ラムチョップが自慢の「ウルトラチョップ」開店

店の開業準備が進む中、僕は料理学校に通いました。調理に関しては、ド素人でしたから。昼は料理学校で学び、夜はニュージーランド料理の人気店「ワカヌイ」で修行させてもらった。でもキッチンではマニュアルなんかなくて。見て覚えろ、と。営業中はもっぱら皿洗い。閉店後のキッチンで、自分で買った生のラム肉を焼く日々が続きました。

中目黒に一号店を出店して以降、「ウルトラチョップ」は麻布十番、神楽坂、京都先斗町と店舗を増やしました。各店舗とも客はまずまず入るのに、なかなか利益は出ません。一昨年、やっと黒字転換しましたが、一号店オープンの2013年から3年間はずっと赤字続きでした。個人的にコンサルティングの仕事を受けて、赤字を埋めていたくらいです。

「ウルトラチョップ」に限らず、いま、飲食店の経営状況はとても厳しい。客が入っている店も、儲かっているとは限りません。飲食業を始めて、その原因が見えてきました。大きな原因は「ドタキャン」と「集客のための経費」です。

日本の飲食店の多くはドタキャン率の高さに悩んでいます。予約当日に「20人の宴会キャンセル」なんて、よくある話です。同じ日時で3軒の店に予約を入れ、当日の気分で行きたい店に行くといったマナーのない人も、残念ながら存在しています。

集客のための経費も、店の経営状況を圧迫しています。いま、集客のためには「食べログ」や「一休.com」など、ウェブサイトへの掲載が欠かせません。掲載には利用料がかかります。「食べログ」は1ヵ月に2万5000円~10万円、「一休.com」ならサイト経由で予約した売り上げの8%の支払いが必要です。

「ドタキャン」と「集客のための経費」の問題を、テクノロジーの力を使って何とか改善できないものか。そう考えて、昨年、飲食店のための新しいウェブサービスを立ち上げました。それが「ビスポ!」です。

「操作性に徹底的にこだわりました」

苦境にあえぐ飲食店を「ビスポ!」が救う

「ビスポ!」はLINEのチャット機能を使った予約サービス。LINEに「人数、時間、希望の場所」などを入力すると、店の候補が表示され、その場で予約を取ることができます。このサービスは店の予約台帳システムと連携しており、店にドタキャンが発生した時点で次の予約を入れることが可能。客には予約が取りにくい人気店が利用しやすくなるメリットがあり、店にはドタキャンで空いた席を穴埋めできるメリットがあります。

しかも、利用料は必要ありません。飲食店は無料でこのサービスに加入できます。昨年、東京23区内限定でサービスを開始したところ、既に登録店舗が1000件を超えました。やはり無料というのが大きいですね。年内にはサービスを全国規模に広げ、最終的には1万店以上の加入を目指しています。

この「ビスポ!」、立ち上げにあたってLINEの子会社であるLINE Venturesと、サッカー選手の本田圭佑さんが手がける個人ファンド「KSK Angel Fund」から出資を受けました。本田さんには「海外とは違って、日本の飲食店はどの店に入っても、清潔だし、料理もおいしい。でも、経営はうまくいかず、潰れてしまう店も多い。少しでも手助けができれば」と、言っていただきました。ありがたいことです。

「昨年8月28日に行われた記者発表にて。右はLINEの舛田淳取締役、左はトレタの中村仁社長です」

客も飲食店も無料で使えるサービスですが、運営を続けるためには利益を出していかなければなりません。そのためには、LINEの特性を生かした広告展開を行います。スポンサーがビール会社の場合は「この店でビールを飲むと10%引き」、焼肉店だったら「いま、渋谷で焼肉祭りをやっているよ」といったメッセージを表示します。たくさん人が集まる場所には、スポンサーも乗り出してきます。ですから、「ビスポ!」のユーザーと加入店数を増やすことが重要なのです。

今後はLINEの翻訳機能を生かし、日本に旅行に来た外国人の飲食店予約を手助けするような役割も担っていきたい。AI(人工知能)を活用し、利用者の好みを学び、「ビスポ!」から店を提案するような機能も搭載していきたい。激動といえる人生を歩んできましたが、50歳を超えても、まだまだ挑戦したいことがたくさんあるんですよ。

Fuminori Takaoka
1968年生まれ。1991年、京都大学経済学部卒業。日本興業銀行にて金融商品開発に従事するが2年で退職し、P&Gでマーケティングの世界に入る。その後、コンサルティング会社を経て、2006年のいわゆる「ライブドア事件」後のライブドアへ。CMOとして営業・マーケティング全般を統括、売上は事件前を超え会社は再生へ。2013年、飲食業界で起業。ラムチョップを提供する「ウルトラチョップ」など5年間で5店舗を展開。2018年、飲食店の経営状況を改善させるため、LINEを用いた飲食店予約サービス「ビスポ!」をスタート。
https://bespo.tech/


Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生