【秘密のアドレス公開】作家・下重暁子が軽井沢に通う理由とは?

孤独の効用を語り尽くした近著『極上の孤独』(幻冬舎新書)が27万部を突破した作家の下重暁子さんの別荘に訪れた。吉村順三氏の名建築は、自然と同化して過ごせるような場所だった。

「優雅だけど豪華ではない、贅沢な孤独を愉しめます」

壮大な絵画を眺めているよう。文筆家・下重暁子(しもじゅう・あきこ)さんの別荘は皇居新宮殿や八ヶ岳高原音楽堂も手がけた建築家、吉村順三氏の設計。リビングの南側は愛宕山(あたごやま)の緑に向けて大きなフレームのように開いている。

お気に入りのソファで寛ぐ下重さんの目の前に広がる彩り豊かな〝作品〞は、季節とともに、時間とともに、色が変わり、香りが変わる。軽井沢の自然に包まれ、景色に溶けこんでいるこの山荘には、日本の若者たちに西洋音楽を伝えようと尽力した音楽家、エロイーズ・カニングハムも暮らしていた。

歴史ある音楽ホールを再生したカフェ「エロイーズ・カフェ」。「希少な建築を眺められ、接客も温かい」。 音楽家エロイーズ・カニングハムが造ったハーモニーハウスが2015年、カフェに再生された。TEL:050・5835・0554 住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢1067-9 営業時間:8:00~15:00 休み:無休 ※1月中旬~ 3月中旬は休業。

この日、旧軽井沢から北へ、土と緑の匂いを愉しみながら細い道を上がっていくと、虫たちの合唱が迎えてくれた。

「にぎやかなこの声、なんだかわかりますか? 実は、蝉です。小さくて、翅(は ね)が透き通っていて、夏ではなく、梅雨入り前と梅雨の晴れ間に鳴くから、春蝉。彼らの声が響く時季の軽井沢が、私は一番好き。穏やかな心になるからです。春蝉が泣き止むと、ここにも夏が訪れます」

下重さんが軽井沢に親しむようになったのは学生時代。信越本線で碓氷峠(うすいとうげ)を越え、ただただ寛ぐために訪れた。

「重要文化財の旧三笠ホテルにまだ宿泊できたころです。駅前の軽井沢プリンスホテル ウエストの場所には晴山ホテルがありました。軽井沢は本来、欧米の宣教師が開いたので、豪華ではなく、簡素さを失わずにいるところが魅力です。1990年代にこの別荘を手に入れたのも、軽井沢だからこその自然に溶けこんだ美しさを感じたから。初めてこのリビングに入った時、心がすうっと落ち着いて、お値段も訊かずに決めました。あの吉村順三さんの設計だと知ったのは、実は決めた後でした」

今は東京と軽井沢を往き来しながら執筆をしている。

「ここには10日くらい滞在したり、数日で帰ったり。書きものはとてもはかどります。軽井沢では時計も見なくなって、時の流れからも解放されます。孤独を贅沢に楽しめます。原稿を書いていたら、いつの間にか日が暮れていることもしばしば」

ふだんの食事は土地の食材を工夫して夫が用意してくれる。

「でも何軒か、お気に入りのお店でも食事をします。オゴッソとか、エロイーズ・カフェとか。エロイーズ女史が若い人たちに音楽を教えた建物を残しているのがエロイーズ・カフェ。ここも吉村順三さんの設計です。軽井沢だからこその香りがあるお店が、私は好きです」


軽井沢ツウ・下重暁子の秘密のアドレス

Akiko Shimojyu
NHKのトップアナウンサーとして活躍後フリーに。民放でキャスターを務めた後、文筆家としてエッセイ、評論、ノンフィクションなど幅広く執筆。孤独の効用を語り尽くした近著『極上の孤独』(幻冬舎新書)は27万部を突破。

Text=神舘和典 Photograph=鈴木拓也