星野リゾート 星野佳路 勝ち残る企業の新しい形

各界の仕事人が持っている絶対に譲れない仕事における「こだわり」を教えてもらう。「この5年間で最も活躍したビジネスマンを応援する賞」受賞者の、星野リゾート代表取締役社長星野佳路さんの熱い戦略、成功のコンセプトを語っていただいています。

星野佳路のこの5年

 軽井沢の老舗温泉旅館を、日本各地でリゾートを運営する企業へと飛躍させた星野佳路さん。再生困難といわれた物件が、彼の手にかかると次々と見事に蘇る。今や日本の観光やインバウンド(訪日外国人)ビジネスは社会的に認知され、しかも大きく注目を浴び始めている。そのことが何より嬉しいという。

愛車「COLNAGO」には6年乗っている。息子さんとは自転車でよく遠出する。

「ここまで来るのに、ずいぶん時間がかかりましたからね」
 とりわけこの5年は、星野リゾートにとっても大きな転換期だったという。2005年に4拠点だった運営拠点は、今や23拠点に拡大。
「しかも、ゴールドマンサックスやグローブなど、本当の意味で世界のメジャーな投資家が、日本の観光に投資し始めました。日本の観光産業の潜在力が認めてもらえたということです」
 運営拠点の急拡大を可能にしたのは、星野さんが早くからビジョンを明確にしてきたから。“リゾート運営の達人になる”――そのために必要だったのが、“運営の仕組み”の構築だった。
「誰かの特殊な能力がないと運営ができないという状態にするのではなく、仕組みに依存する。それが、'90年代からずっと推し進めてきたやり方でした。だからこそノウハウも蓄積されたし、人材も育った。ビジョンを貫いたことで、今があるんです」
 大きなチャレンジもあった。青森県『青森屋』の再生である。
「正直、自分が手掛けるにはまったく自信がありませんでした。大型の宴会・団体旅館は、難しいと考えられる分野でしたから。ところが、青森ならではの独自の文化があることを知り、それを旅館に取り入れることで、ポテンシャルがあるのではないかと思うようになりました」

『青森屋』では方言使用のほか、こたつつき馬車での遊覧、南部民謡・津軽三味線ショーなど、郷土色豊かな演出が。

 だが、かなりの気合いを入れて取り組みを進めたものの、どう再生するか、シナリオがなかなか浮かばなかった。'90年代から作り上げてきた“仕組みの成功モデル”があてはまらなかったのである。ところが、ひょんなことから突破口は見つかる。
「今の若いスタッフは、地方でも標準語が話せるんです。ところが、お客様のいないところでは津軽弁で話す。この言葉がさっぱりわからない(笑)。でも、面白いと思いました」
 旅行者は何を求めて地方に来ているか。その地方ならではの非日常感だ。ところが、新幹線は今や、どの駅もほとんど同じ造り。ホームにいたら、駅名を見ないとわからない。駅前も、似たような光景が広がっている。
「だからこそ旅館は重要。その地方の文化的エッセンスを演出できないと、わざわざここまで足を運ぶ理由がなくなってしまう。ところが、地方はそれが価値だということに気付かないのです。実は地域らしさを肌で感じることこそ旅の本質なのに」
 だが、星野さんは自ら答えを出し、命じることはしない。再生のコンセプトはスタッフが作るのだ。議論を推し進めるなか、やがてスタッフは、地方独自の文化の価値に気付いていく。こうして、標準語を使わず津軽弁だけで接客サービスをするという独自の方針が生まれた。
「日本の地方に来ているのに、スタッフが何をしゃべっているかわからなくて、まるで外国にいるみたいになる。でも、これが日本の地方の生きた姿なんです。お客様には日本という国の奥深さも感じてもらえる」

 このコンセプトは大ヒット、今や年間80%以上の稼働率を誇る旅館となった。
「僕自身、それまでに作り上げた“運営の仕組み”に対する思い込みが強すぎました。地域らしさや地域文化は、思った以上に求められている。大きな可能性を確信した案件でした」
 三重県『タラサ志摩』でも今、大ヒットしている商品がある。“神様と縁を結ぶ朝御飯”だ。

『タラサ志摩』の“神様と縁を結ぶ朝御飯”。伊勢神宮への参拝前に早くも神様に近づける、と好評だ。

「伊勢神宮を含め、昔から使われていた地元の食材を朝食に取り入れました。これも、“志摩の魅力を出せばいい”ということに気付いたスタッフのアイデアでした。地方ならではの生活の価値観や食べているものが、旅行者にとっては大きな魅力につながる。ヒントは自宅だったり、おじいちゃん、おばあちゃんの昔ながらの知恵にあったりします」
 地方の旅館やリゾートホテルというのは、ついつい都会の旅館やホテルを目指そうとする。だから、自分たちの日常を隠そうとしてしまう。言葉であったり、生活感であったり、だ。
「でも、それは逆だと思います。自分たちの地域の生活にこそ、ヒントはあるのです」
 星野さんが発した新しい観光ビジネスの形が、日本のスタンダードになろうとしている。

星野佳路 成功のコンセプト

Q  どれくらい日本中を飛び回っているんですか?

A  1ヵ月の半分くらいは東京にいないですね。運営拠点に行ってミーティングをしたり、研修を行ったり、試食会をしたり、イベントに参加したり。新たにできる拠点に行って地鎮祭に出たりすることもありますし、施設の周辺環境をチェックしたり、パートナーや関係する取引先と地方で打ち合わせをすることもあります。毎週のように、全国あちこちを飛び回っていますね。
 メールは1日に200通くらい来ます。移動している合間、例えば飛行機の中や新幹線の中でパソコンは開いていますが、基本的に携帯(iPhone)をいじってます(笑)。本当に大事なメールは自動的に必読フォルダに入るようにしてあります。おかげで社員は、どうしても僕に読んでもらいたい時には、「社長大変です」とか、「事件です」などという過激なタイトルを付けて送ってきます(笑)。パソコンも携帯も電源を落としているのは、それこそ飛行機の離発着の時くらい、ですね。

新幹線での移動中、部下たちと並んでメールチェック。

 東京にいる時は、ミーティングやパートナーとの会合でスケジュールがびっしりです。一日に8件、会議が入ることもありますし。それでも運営拠点に行ってこそ感じる空気があるので、東京にいるだけでは仕事は賄えません。だから全国を飛び回っているのです。
 今後の大きなテーマは、『星のや』の展開です。軽井沢、京都に加え、竹富島、富士など、外国人観光客はもちろん、日本人にとっても一度は行ってみたい場所に展開していきます。
 海外からのお客様も増えていますが、僕たちは日本のお客様をしっかり意識していたい。日本のお客様というのは、最も厳しいお客様です。要求度も高く、満足のハードルが高い。日本人にしっかり評価していただくことで、海外の人にも受け入れられる進化を目指していきたいと考えています。
 そんな状況だからこそ、僕が一番こだわっているのは、組織の質を保つことです。質を変えてまで何かをしようということは考えません。この組織で仕事ができてよかった、やめずに頑張ってきてよかった、と感じる社員をたくさん作っていく。それこそが僕にとっての成功の定義であり、目指すものだと思います。


星野佳路 成功のコンセプト

Q  テンションを保つために心がけていることは?

A  たぶん、僕はもともと仕事が好きじゃないのだと思います(笑)。モーレツに仕事ができたらよいけど、ついついサボってしまう。だから、僕は自分でコントロールしたい。好きな仕事を好きなようにするようにしています。 スーツも着ないし、ネクタイも締めません。社長になった20年前、ストレスで血圧が上がってしまったことがありました。それで、スーツとネクタイをやめたら、血圧がすーっと下がった。考えてみれば、ネクタイは首を絞めているわけですから、血圧が上がるのは当然でしょう。
 でも、そのうちまた血圧が上がるようになってしまって。そんな時、グロービスの堀義人さんの「3無主義」を知って、教科書どおりに実践してみました。会わない、行かない、しない、ですね。そうしたら、また血圧が下がって。あと、もうひとつ心がけがあるとしたら、睡眠を7時間は確保することでしょうか。
 僕の仕事は、かなりの部分がコミュニケーションであり、会議のファシリテーションであり、その場でのアドリブでの対応です。創造性をあるレベルで維持することが大切です。「3無主義」や睡眠7時間を実践したほうが、パフォーマンスは高いんです。
 逆に、好きなことは積極的にやります。自宅で仕事のメールを見たり、書くことはあまりありません。アドレナリンが出て眠れなくなってしまうから。でも、社内向けのブログは書きます。情報発信になって、かつ楽しいですから。そういう仕事は最優先です(笑)。

テンションを保つための5箇条
1 会いたくない人とは会わない
2 行きたくない所へは行かない
3 やりたくない仕事はしない
4 睡眠時間は7時間とる
5 スーツを着ない

Q  忙しいなかでメリハリをどのようにつけてますか?

A  僕はけっこうサボるのがうまいと思います(笑)。確かに一日ぎっしり予定が入っているような日もありますが、バックカントリースキーが大好きなので、1年間で50日はスキーをすると決めています。忙しい時もあるけれど、楽しむ時はしっかり楽しむという、メリハリを意識していますね。

年間50日はプライベートで雪山に足を運ぶ。学生時代はアイスホッケーに夢中だった。

 都内の移動は自転車ですが、これは爽快感があって気持ちがいいからです。効率がいいから、というのは建前(笑)。いくら効率がよくても、嫌いなものはやらないですから。
 ゆとりがあるという印象が自分のなかにあるのは、夜の会食をしないのも大きいかもしれません。誘われても行かないので、誘われなくなりました。友達も少ないし(笑)。ビジネスランチや朝食はよくします。夜ほど時間が割かれないですから。夜、早く帰るとゆったりできますよ。

Yoshiharu Hoshino
慶應義塾大学経済学部卒。米国コーネル大学ホテル経営大学院で経営学修士号を取得後、シティバンクなどを経て1991年、星野リゾート代表取締役社長。観光リゾート業界の風雲児として頭角を現し、日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目されている。

Text=上阪 徹 Photograph=有高忠之

*本記事の内容は11年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい