【オフィス探訪】「自由闊達」なソニーのクリエイティビティの活性化を促す本社オフィス

今年1月、ソニーはイヌ型のエンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」を復活させた。同社の代表執行役 社長 兼 CEOの吉田憲一郎氏は「aiboは、未来に向けて挑戦を続けるソニーを象徴している」と述べた。クリエイティビティの活性化に向け、ソニーは、品川に2007年に設立した本社の一部を‘14年から段階的に改装をはじめるなど、オフィス改革を継続的に行っている。他社が訪問し参考にするとも言われている通称ソニーシティと呼ばれる本社に訪問した。


「情報の拡散」と「エネルギー密度」

2018年3月期、7348億円と20年ぶりにグループの営業益を塗り替えたソニー。好転した理由を、ワークプレイス改革をリードするソニーコーポレートサービス株式会社 役員室の高野昌幸氏とソニー株式会社 経営企画管理部で社内コミュニケーションの活性化に取り組む中谷由里子氏に聞いた。

「’12年から‘14年までの3年間は、大規模な構造改革を行い、業績が回復してきました。また、テレビ事業、ビデオ&サウンド事業、半導体事業、イメージング事業などを次々と分社化しました。その狙いは、事業ごとの経営責任を明確にし、意思決定を速めることにありました」

構造改革によって経営を再建したソニー。一丸となって取り組めたそのカギは、「構造改革が始まった‘12年に掲げられた「One Sony」にありました」(中谷氏)。

堂にて右から今回オフィスを案内してくれた中谷 由里子氏、ソニーコーポレートサービス役員室の高野 昌幸氏、同社総務部の上原 真利氏。

「ソニーの強みは、エレクトロニクス、ゲーム、映画・映像、音楽、インターネット、金融など多様な事業を持ち、シナジーによって新たな事業をつくっていけることです。分社化後もシナジーを失わず、さらに濃くしていくためには、コミュニケーションがひとつの課題でした。ソニーはインターネットがない創業時代から、紙の媒体(社内報)や社内ビデオをつくって社員に発信するなど、コミュニケーションを大事にしてきたカルチャーがあります。構造改革とともに、社内のコミュニケーションを今一度見直す時期に来ていました」(中谷氏)

コミュニケーションの課題を洗い出していくと、トップダウン、ボトムアップ双方とも、情報の浸透が不十分であることやグループ間の気軽なコミュニケーションができなくなっていること、そして、事業間の情報交換がうまくいかずシナジーが発生しにくくなっていることが見えてきた。

「コミュニケーション上の課題解決に向けて、『情報の拡散』と『エネルギー密度を高めること』に着目しました」(中谷氏)

ソニーコーポレートサービス株式会社 役員室の高野 昌幸氏は、「情報の拡散」と「エネルギー密度を高めること」を実現するために、インフォーマル(非公式)なコミュニケーションに着目したという。

「コミュニケーションには会議室やミーティングコーナーで行われるフォーマルなものと、移動中や休憩中などに行われるインフォーマルなものがあります。インフォーマルなコミュニケーションは、日常を活性化します。それが、情報の拡散とエネルギー密度を高めることにつながると考えました」(高野氏)

その考えを強く表すスペースを’14年から段階的に本社の一部を改装し、4つの形にした。食堂エリアの通称「イベント&ライブラリースペース」や執務エリアの通称「ファミレスブース」とエスカレーターの踊り場を利用したリラックススペース「NEST」やオーガニックカフェ「THE FARM」だ。

食堂を巨大な社内メディアに

食事をしたり打合せをしたり仕事を行えるフリースペースでもあるイベント&ライブラリースペース。イベント時著名人が来社した際にサインした著書を残してもらっているという。「いつかこの場所がソニーのメディアとして社員が誇れる場所になればと思っています」(中谷氏)

「毎日5000人が行き交っている食堂は、立派なメディア(情報拡散の拠点)だと気付きました。しかも、さまざまな業種の人が自然と集まり、食事を共にすることでコミュニケーションが生まれる場所です。情報を拡散し、エネルギー密度を高める最適な場所だったのです」(中谷氏)

5000人の社員が利用する食堂エリアの一部を改装し、イベント&ライブラリースペースとした。モニターでソニーグループのCMや事業映像に加え、著名なクリエイターが制作した感性を刺激する映像などを流したり、自社の関連本やアーティストの本を企画して並べたり、人がおのずと集まる利点を利用して、体験イベントや商品発表、セミナーなど従業員であれば誰でもイベントが行える。社内外のトレンドを意識しなくても吸収でき、アピールできるような場所にしたのである。

「イベント&ライブラリースペースは、インターネットで予約できるようにすることでセミナーや商品発表だけでなく、クラブ活動の発表など社員間のコミュニケーションの場にもなっています」(上原氏)

食堂としてご飯を食べる場所でありながらイベントスペースとしての機能も併せ持つ。昼食時や夕食時にイベントを開催すれば、食事をしている社員がそのままお客さんになる。食事をしている社員にとっては、さまざまな刺激を受けたり、情報をインプットできたりといったメリットがある。「イベント時にはエネルギーの密度がぎゅっと高まります」(高野氏)

さらに、食堂という大勢の人が集まる、オープンな場所には大きなメリットがある。

「イベントなどの開催においては、途中参加もしやすく、音が聞こえ、映像が見えることで気になる人が集まってきます。イベントを撮影し、中継することで、外の場所とつながり、規模の大きなイベントを開催することも可能です」(中谷氏)

ソニーでは、広報とブランド戦略、デザイナー、経営企画、総務、人事が共にチームを組み、場所とコンテンツをパッケージにして考え、食堂を経営や自社のブランディング、マーケティングに直結した「価値ある場所」にしているのだ。

メインストリートに並ぶ「ファミレスブース」

多くの社員が行き交うメインストリートの優れた活用は、執務エリアにも及ぶ。

「サッカーコートと同等の広さの執務エリアには、メイン通路が入り口からまっすぐ伸びています。その脇に設置したのが通称ファミレスブースです。以前ソニーでは、ミーティングを予約の必要な会議室やミーティングブースで行っていましたが、予約せず、すぐにミーティングできるように、ファミレスにあるような背の低いパーテーションで仕切られたブース席をつくりました。適度に遮蔽されていながら、外ともつながりがあるため、メイン通路を通った人は、誰と誰が一緒にいて、どのようなことを話しているのか横目で何となく意識することができますし、ブースを使ってミーティングしている人は通りかかった人に助言を求めることができます。フォーマルなミーティングに、インフォーマルなコミュニケーションを取り入れることに成功し、大きな効果を上げています」(高野氏)

ファミレスブース設置によって会議室の使用率は40%減り、社員アンケートでは「すぐミーティングができる」と好評だ。また、ミーティングの様子が見えるようになったことで、部下の仕事の状況が把握しやすくなったり、直ぐアドバイスしやすくなったりとマネージャーにも好評。社内のコミュニケーションに課題を抱えている企業の見学も多いという。

アイデアを膨らますクリエイティブエリア

‘14年、社長直轄組織として新規事業創出部(現 Startup Acceleration部)が設立され、スタートアップの創出と運営化を支援するプログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」がスタート。オフィス1階に「Creative Lounge」を構えている。

「社内外を問わず、新しい事業を創出することに興味を持つ人たちが気軽に集まって交流することができるオープンなスペースです」とグローバル広報グループの多田謙介氏は紹介する。

「Creative Lounge」には、電気基板を簡易的に作る装置や金属加工機、3Dプリンターなどがあり、実際にモノをつくりながらアイデアを膨らませていくことができる。ここから文字盤とベルトを1枚の電子ペーパーでつくった「FES Watch U(フェスウォッチユー)」など、多くのプロダクトが生み出されているだけでなく、IoTプログラミングキット「MESH」を使ったプログラミングワークショップなども開催されており、社内外の交流拠点のひとつとなっている。

左:「FES Watch U(フェスウォッチユー)」文字盤とベルトは1枚の電子ペーパーでできている。右:IoTプログラミングキット「MESH」センサーやスイッチなどの機能と身近なものを組み合わせ、使う人それぞれのアイデアをプログラミングで実現できるツール。

創作スペースを持つ会社は多いが、意図したように活用されないケースもよく聞く。ソニーの「Creative Lounge」が成功している理由について聞いた。

「ソニーのプロダクト開発では、使い勝手の良さにもかなりの力を注いでいます。それはオフィスづくりにおいても同じで、『Creative Lounge』を使ってもらうために、きちんと使いやすい環境を整備しています。機械の使用をサポートするスタッフを配置しているほか、機械を安全に使うための講習を定期的に開催しています」(高野氏)

「ソニーの中には、『机の下活動』ともよくいわれますが、業務の合間や終業後などの業務時間外に担当するプロジェクト以外のものづくりに挑戦している人がいます。ここができたことで、さまざまな工作機械を使って早期にプロトタイプをつくって、よりスピーディーに完成へとこぎつけることができるようになりました。箱などの梱包材までつくることができ、パッケージを含めた試作ができるのもユニークな点です。また、このようなオープンなスペースを通じて、エンジニアをはじめ多くの職種の人が交わることで、よりリアリティーのある開発が可能になっていると感じています」(多田氏)

道路に面した1階に「Creative Lounge」を設置し、オープンイノベーションを意識した。ここで生まれたプロダクトの製品版やプロトタイプが並ぶ。写真手前にあるのがFES Watch。撮影時も外部の人が打合せや製品づくりに訪れていた。

「オフィスづくりは、社員がその場所を使いこなすユーザーリテラシーが大切で、空間だけあっても意味がありません。「机の下活動」でものづくりに挑戦する社員が「Creative Lounge」を利用し商品化を企画できるよう環境づくりをすることも、つくったものやそういった取り組みを発表する機会をつくることも重要であると考えています」(高野氏)

ソニーは今、創業時から大切にしている「ものづくり」と「社内コミュニケーション」双方が活性化できるオフィスづくりを継続的に行っている。そしてそのスペースを活用し挑戦する「ソニーらしい」人づくりを進めているようだ。

SONY
代表者:社長 兼 CEO 吉田 憲一郎
本社所在地:東京都港区港南1-7-1
設立:1946年5月7日
資本金:8,657億円(2018年3月31日現在)
連結従業員:117,300名(2018年3月31日付)
事業内容:モバイル・コミュニケーション、ゲーム&ネットワークサービス、イメージング・プロダクツ&ソリューション、ホームエンタテインメント&サウンド、半導体、コンポーネント、映画、音楽、金融及びその他の事業
https://www.sony.co.jp/

Text=稲垣 章(MGT) Photograph=三浦 康史