粋人・加藤和彦がサヴィルローで仕立てたスーツは約100着【伊達男のオーダー列伝②】

古今東西のウェルドレッサーと称される男たちをつぶさに観察すると、ある共通点に気づく。誰しも服のブランドが前面に出ることなく、いっときの流行とも無縁ということだ。そして、そんな彼らが必ずと言っていいほどたどり着く到達点がオーダーメイドなのである。


「服はお金で買えるが精神は買えないのである」

加藤和彦がこの世を去ってから、今秋でちょうど10年になる。同氏が遺した数々の名曲は聴く者の魂を揺さぶり続けているが、同様に現在も魅力を失っていないのがその装いだ。 

音楽と並行し、早くからファッションにも傾倒した加藤氏。とりわけ英国の服飾文化に魅了され、40代でハマったロンドン・サヴィルローのテーラーによるビスポークスーツは、名門ファーラン&ハーヴィーなどで10年間に約100着も誂えた。

そんな加藤氏は自著でこう述べている。

「服はお金で買えるが精神は買えないのである」

同氏は英国らしいクラシックなスーツやジャケットを好んでオーダーしたが、ブルーのスエード靴やヴィンテージジーンズを合わせるなど、着こなしはエレガントながら自由奔放であった。

その流儀はフォークやブルースという情念の音楽が生んだロックをベース=精神的支柱としつつ、同じことは二度としないという信条に従って新しい音を追求し続けた、同氏の音楽活動と重なる。

こうした揺るぎなくも自由な精神こそ、加藤和彦の音楽と装いに永遠の生命を吹きこんだのではないだろうか。

Kazuhiko Kato
1947年京都府生まれ。ボブ・ディランの影響でフォークに目覚め、1965年ザ・フォーク・クルセダーズを結成してデビュー。以来、ミュージシャンだけでなく音楽プロデューサーとしても、日本の音楽業界に多大な影響を与える。2009年に死去。


Direction=島田 明 Text=竹石安宏(シティライツ) Photograph=三浦憲治