ストーリーのない旅はつまらない。小池アミイゴが選んだ「旅する日本語」

羽田空港の出発チェックインロビーの頭上の壁面を飾る巨大なアート。それは放送作家の小山薫堂が旅にまつわる小さな物語を執筆し、イラストレーターの小池アミイゴが絵を描いた作品「旅する日本語」だ。その展示に合わせ、一般の方からも作品を募集。約4000件の応募の中から、小山薫堂、小池アミイゴ、そして前回の「旅する日本語2017」で絵画を描いた片岡鶴太郎が、それぞれお気に入りの1作を選出した。


「私の旅する日本語2018投稿キャンペーン」小池アミイゴ賞

「ストーリーのない旅は、つまらないものです。旅先で人々とふれあい、その人がなぜその街に住んでいるのか、その街でどのような経験を積んできたのか。そうしたストーリーが、風景を魅力的に見せてくれたり、せつなさを感じさせてくれたりするのです。

今回の応募作には、心に響くストーリーがたくさんありました。それぞれによさがあり、全員に賞を贈りたいくらい。その中から、リズムがよく、体にすっと入ってくる作品を選びました。

小池アミイゴ賞は、吉玉サキさんの『姉妹の昧爽』です」

障子を開けると、窓の外に広がる海辺の町は薄い青に染まっていた。

濃紺の夜をたっぷりの水で薄めたみたい。

「外、明るくなってきたね」

私が言うと、畳に寝ころんでいた妹が顔だけこっちに向ける。


「ほんとだ」

旅館の浴衣がすっかり着崩れ、顔はむくんでいる。一晩中飲んでいたせいだ。

「朝日、見に行かない?」

「えー、めんどくさい」

うだうだする妹を説き伏せ、桟橋に来た。

早朝の空気はひんやりと冷たい。妹が酒くさい大きなあくびをすると、息が白かった。

少しずつ明るくなり、水面が輝きはじめたかと思うと朝日が顔を出す。

「きれい……!」

水平線を眺めたまま、妹がつぶやく。

「私めんどくさがりだからさ、お姉ちゃんが誘ってくれなかったら今も部屋でごろごろしてたよ。朝日なんて見に来なかった」


「来て良かったでしょ?」

「うん。お姉ちゃん、ありがと」

私はもうすぐ、妹と違う苗字を名乗る。

だけどたまには、このめんどくさがりの妹と旅をしたい。

「この作品の魅力は、設定の明快さ。結婚を控えた姉が、妹と二人旅をするというストーリーです。でも、シンプルで明快でありながら、想像する楽しさも与えてくれる。

例えば、『旅館の浴衣がすっかり着崩れ、顔はむくんでいる』という表現からは姉妹の親密さが伺えるし、妹は前の晩"そうとうやらかしたんだろうな"と思わせてくれます。尽きることのない姉妹のおしゃべりの様子が、目に浮かんでくるようです。

そんな姉妹が、朝日を見に出かける。この朝日というのが、効いていますよね。酒臭い空気が、一瞬で清潔な凛とした空気に変わる。朝日の特別感とでもいうのかな。朝日によって、作品全体が清々しい印象になりました。

早朝の柔らかな光と、心地いい風の吹き抜け。そして、そこに佇む姉妹の姿。そのまま絵になりそうですね。

個人的にも、僕は朝日が大好きです。特に、朝日が昇るか否かのほんの一瞬の景色。夜でもない、朝でもない、際の瞬間に広がる曖昧なぼやけた情景に独特の美しさを感じます。

日本人は外国人から『YESともNOとも言わない人種』と言われますが、それが日本人の良さだとも感じます。曖昧さの中に、意義や美を見つけられるって素晴らしいと思いませんか? 日本人はもっと胸を張っていいんです。

私は文筆家ではないので、文章上達の秘訣は語れません。でも、絵と通じる部分はあると思います。私は絵を自分の心を映す鏡だと考えています。だから、まずは心をきれいにする。毎日の経験を通して、人間を磨いていくことですね。絵にも、文章にも、正解はありません。テストではないので、下手でもいいから、自分だけの言葉を紡ぐべきです。

旅も、同じですね。最近の旅は、情報コンプリートを目指し過ぎているような気がします。みんなが『いい』と言っているから行くのではなく、自分の心に素直に従う。それが旅の醍醐味でもあるのです」

Amigos Koike
イラストレーター  1962年生まれ。長澤節主催のセツモードセミナーで絵と生き方を学ぶ。1988年よりフリーのイラストレーターとして活動。併せて音楽家や地方発信のムーブメントをサポート、展覧会や音楽イベント、ワークショップ開催を重ねる。2011年3月11日以降日本各地を巡り個展「東日本」に結実。絵本「とうだい」(作:斉藤倫、福音館書店)作画担当。東京イラストレーターズソサエティ理事。

Text=川岸 徹


【小山薫堂×小池アミイゴ】羽田空港ロビーで目にする「旅する日本語」まとめ


小池アミイゴ
小池アミイゴ
1962年群馬県生まれ。長澤節主催のセツモードセミナーで絵と生き方を学ぶ。1988年よりフリーのイラストレーターとして活動。併せて音楽家や地方発信のムーブメントをサポート、展覧会や音楽イベント、ワークショップ開催を重ねる。2011年3月11日以降日本各地を巡り個展「東日本」に結実。絵本「とうだい」(作:斎藤倫、福音館書店)作画担当。東京イラストレーターズソサエティ理事。
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