"キラキラ農業女子"が日本を救う!? 白ハト・永尾俊一【社長インタビュー】

2015年、茨城県行方市にオープンした体験型農業テーマパーク「なめがたファーマーズヴィレッジ」が好調だ。入場者数が増えているのはもちろん、「スタッフとして働きたい」という若者が増加。そうした若い世代は農業に対してCOOLな印象をもち、明るい未来を感じているのだという。これまで"キツく、厳しく、汚い"という3K産業のイメージがあった農業が、なぜ変わったのか? 「なめがたファーマーズヴィレッジ」を運営する白ハトグループ代表取締役社長・永尾俊一氏に話を聞いた。


農業の未来を明るくするために

白ハトグループをご存知ですか? さつまいも菓子の「おいもさんのお店 らぽっぽ」や「らぽっぽファーム」を運営している会社です。冷凍大学芋では約80%の国内シェアをもち、大手メーカーのさつまいものお菓子にも、当社のさつまいもパウダーが使われています。さつまいもは、当社にとってなくてはならない素材。でも、そのさつまいもを生産する農家は長く厳しい状況が続いていました。

若い人たちに農業に対してのイメージを尋ねると、「キツイ、汚い、危険」「儲からない」「ダサい」「結婚できない」といったネガティブな答えが大半を占めます。農家の家に生まれても後を継がず、結果として高齢化が進んでいく。農業離れは加速し、「このままでは日本の農業は本当に終わってしまう」と感じるほどになりました。こうした状況に歯止めをかけようと、政府はさまざまな取り組みを見せています。UターンやIターンを奨励し、地方創生事業に予算を割いている。でも、目に見えた結果は残せていません。

では、白ハトグループにできることはないか? 農産物をベースに事業を行う企業ですから、農家に未来がなければ、私たちにも未来はありません。知恵を振り絞って、必死に考えました。その結果、「農業に対するイメージを変える大規模な事業にチャレンジしてみよう」という結論にいたりました。それが「なめがたファーマーズヴィレッジ」構想です。

場所は茨城県行方市を選びました。行方市は古くからさつまいもの名産地として知られていましたが、東日本大震災の影響を受けて、売上が急激に落ち込んでいました。その大部分が風評被害によるもの。土壌検査によって完全に安全だと証明されたにも関わらず、回復の兆しは一向に見えませんでした。そうした状況をどうにかしたいという思いで、行方市とJAなめがた、白ハトグループの3社共同で、プロジェクトを立ち上げたのです。

若い女性の力を最大限生かす

このプロジェクトの開始にあたり、掲げたキーワードが“キラキラ農業女子”です。農業が抱えている「キツイ、汚い、危険」という3Kのイメージを、若い女性がキラキラと輝きながら働くことで、「キレイ、気持ちいい、カッコいい」という“新3K”に変えようと考えました。

なぜ、女性なのか? それは女性の行動力に期待してのことです。女性は、男性とはけた違いの行動力を持っています。例えば、男性は就職し、その勤務地に家庭をもつと地元へは帰りません。結婚した奥さんも「あなたの実家なんて嫌だ」と反対しますしね(笑)。でも、女性は都市生活に疲れ、地元や両親が恋しくなると、さっと行動に移します。意外なほど簡単に地元へ帰る決断ができるのです。そして、妻が地元に帰ると、夫も付いてくる。これで故郷の街の人口が2人増えるわけです。

それに、最近の若い女性の仕事に対する考え方は、ひと昔前とは変わってきています。以前は名前の通った銀行や大手企業が人気を集めましたが、いまはそれよりも“働きがい”を求めます。クリエイティブな環境で、仲間と楽しく働けて、達成感を得られれば、会社の名前にはこだわらないという人が増えています。であれば、農業にも勝算はあるはず。農業はクリエイティブで、共同作業を大切にし、収穫の喜びを得られる業種ですから。

「なめがたファーマーズヴィレッジ」では社員全員が兼業農家。農作業をしながら、各々の仕事に取り組みます。敷地内には農園のほか、さまざまな施設があります。来場者がさつまいもについて学んで味わえる「やきいもファクトリーミュージアム」、地元産の野菜を販売する「ファーマーズマルシェ」、ショップ、イタリアンレストラン……。そうした施設で社員は、接客や企画、広報、営業など、それぞれの仕事に取り組みます。

この「なめがたファーマーズヴィレッジ」構想を発表したところ、新卒入社希望者が驚くほど増えました。例年、白ハトグループへの入社希望者は約1000人ですが、なんと5000人以上に急増。その大部分が、「なめがたファーマーズヴィレッジ」で働きたいと言うんです。明るいビジョンを掲げることの重要性を改めて思い知りました。

その5000人の入社希望者のうち、女性の応募は80%。やはり、まず動くのは女性なんですよ。でも、徐々に男性も増えてきた。「なめがたファーマーズヴィレッジ」は開業から3年が経ちましたが、やっと男性も追いついてきたんです。女子が多いところには、女子狙いの男子が現れる。その構図は昔から変わりません(笑)。今年の新卒の採用者には、メガバンクやIT大手の内定を断って、わが社を選んでくれた人もいます。うれしいことです。

みなさんに、「なめがたファーマーズヴィレッジ」で働く女性の姿を見せたいですね。本当に輝くようにいきいきと働いている。そんな彼女たちからはユニークな企画もどんどん出てきます。例えば、アクセス用の水陸両用バス。「お客様が施設にアクセスするときに、水陸両用バスを使えば、行方市の自然に親しめて、よりハッピーな気持ちになれる」という声が出て、導入を決めました。これなんか、まさに若い人ならではの発想ですよね。

最近は大手企業から「社内研修で使いたい」という申し込みが相次いでいます。大歓迎ですよ。ぜひとも「なめがたファーマーズヴィレッジ」で働く女性から、クリエイティビティとホスピタリティを感じ取ってください。

行方市に若者の姿が戻った!

開業から3年、行方市は大きく変わりました。さつまいもの売上金額は、震災前の数字を回復したばかりでなく、平成元年に比べて約6倍に増えました。自分で言うのも何ですが、ものすごい、伸びです! それに伴い、街に若い人が戻り始めました。行方市は過疎化が進んでいましたが、「なめがたファーマーズヴィレッジ」開業後は若者世帯向けの新規住宅も着工したんですよ。街を歩くと、以前は高齢者しかいませんでしたが、いまは普通に若い人とすれ違います(笑)。

こうした結果が評価され、農業・水産業の分野で最も名誉ある賞である「農林水産祭天皇杯」を受賞しました。感激しましたね。そして、「あの時、この決断をしてよかった」と、しみじみ思いました。

「あの時」というのは、「なめがたファーマーズヴィレッジ」の事業を始める直前のこと。知り合いから、「銀座に50億円で東京本社ビルを建てないか」という話を持ちかけられたんです。土地の広さは35坪で、白ハトグループの東京でのランドマークになる。将来的な会社の成長を考えても、とってもいい話でした。

悩んだ末、お断りしました。その50億円を「なめがたファーマーズヴィレッジ」を造る10万坪の土地取得にまわしたのです。周りから、「バカな決断をした」と言われました。でも、社員が胸を張れるお金の使い方だろうし、なにより私自身がわくわくした。その判断は、正しかったと思います。

「なめがたファーマーズヴィレッジ」の成功によって、福島県からも「農業を明るくする事業を始めてほしい」と声がかかりました。以前の行方市のように、福島県の農家はいまだに東日本大震災の風評被害を受けています。もちろん、お引き受けしました。農業の未来のために、私はチャレンジを続けます。


●座右の銘
「ワクワクやれば世界が変わる」「できるできる必ずできる」


Toshikazu Nagao
1963年大阪府生まれ。たこ焼の「たこ家道頓堀くくる」、さつまいもスイーツ専門店「おいもさんのお店 らぽっぽ」など飲食ブランドを立ち上げ、国内外合計約100店舗を展開。さつまいもを畑から販売まで一貫して行い、コンビニやスーパーなどで販売する大学いもの約80%のシェアを誇る。2015年には茨城県行方市に農業体験型テーマパーク「なめがたファーマーズヴィレッジ」を設立。「日本の農業をステキにしよう!」とのスローガンを掲げ、地方創生事業にも積極的に取り組んでいる。
Shiro Hato Group
1947(昭和22年)年創業。さつまいもや農作物の生産、加工品の製造、販売を行う食品メーカー。
https://www.shirohato.com/