日本屈指のコレクターに聞く! 現代アートを集める理由とは?

約500点ものアート作品を収集し、日本屈指の現代アートコレクターとして知られる田口弘・美和親子。現代アートの魅力について聞いた。


現代アートは人を結ぶ社交の鍵

現在、札幌芸術の森美術館で開催中の「タグチ・アートコレクション 球体のパレット」展。草間彌生、杉本博司、村上隆、N・S・ハルシャら世界的な現代アーティストの作品が並ぶが、これらはすべて、父・田口弘氏と娘・美和さんが運営するタグチ・アートコレクションの収蔵品だ。

「現代アートの裾野を広げたいんですよ。ですから、コレクションは展覧会に貸しだすなど、積極的に公開しています。日本には、素晴らしい美術館がたくさんあるでしょう。タグチ・アートコレクションでは美術館を建てたりするのではなく、コンテンツ集めに特化しています」

美術品を見せたいという思いは、弘氏がアート収集を始めた時から変わらない。

「私はFA(ファクトリーオートメーション)・金型部品の専門商社であるミスミを創業し、社長を務めていました。そのミスミが東陽町に新社屋を建てた時に、社員に美術品を見てもらおうと思ってコレクションを始めたんです。最初に買ったのは、アンディ・ウォーホル、ジム・ダインなど、5点くらい。1991年のことでした」

リチャード・ペティボーン(米国)による、アンディ・ウォーホルの「Flowers」を題材にした作品。

ルネサンス期のオールドマスターや印象派の絵画も好きだったという弘氏。なぜ現代アートを選んだのだろうか。

「現代アートは"新しい価値"です。ウォーホルだって、デビューして間もない頃は評論家から、わけがわからないと酷評されていました。でも、その"わからなさ"が、発想の転換を生み、イノベーションの種になる。ミスミの社員に、新しい価値観と向き合ってほしかったのです」

弘氏の思いは、ミスミという枠を超えて、世界へ広がった。

「今はどんな仕事にもイノベーションが求められます。発想力を鍛えるために、ひとりでも多くの方にタグチ・アートコレクションを見てほしいですね」

2019年、82歳を迎えた弘氏。ミスミを退しりぞいたが、社会インフラとなりうる新しい事業を創りだすエムアウトという会社を設立し、会長を務めている。

床の間に飾られたオノ・ヨーコ作品。

「もう歳で、自分で作品を探しに行くことができなくなりました。今は娘の美和が私に代わって動いている。国内外のアートフェアやギャラリーを訪ね、作家とも交流を深めています」

コレクション全体の方向性や予算は弘氏が管理し、実務的なことは美和さんが行う。二人三脚でコレクションを拡大し、作品数は約500点になった。

「作品収集はクオリティを重視しています。タグチ・アートコレクションは公開が前提。なるべく新しい潮流を見せたいので、今後さらに注目度が高まると思うアーティストの作品を購入します。とはいえ、まったく無名の作家に惹かれてしまい、一目ぼれで買うこともありますよ」

アートは人と人をつなぐ架け橋だと美和さん。作家やキュレーター、コレクター仲間、そして父とも交流が深まった。

「コレクションを始めるまで、父は無趣味の仕事人間でした。でもアートが好きというだけで交友関係が広がり、人間らしくなった(笑)。現代アートは、人を結ぶ社交の鍵だと感じます」

Hiroshi Taguchi
エムアウト代表取締役会長。1937年岐阜県生まれ。FA部品の専門商社ミスミを創業、年商550億円、東証1部上場の企業へ育て上げた。現在はスタートアップ企業を支援するエムアウトの会長。

Miwa Taguchi
ソーシャルワーカー、大学講師などを務めた後、2013年頃よりタグチ・アートコレクションの運営を担当。父とともに、コレクションのいっそうの充実と公開に励んでいる。


Text=川岸徹 Photograph=川口賢典