楽天 三木谷浩史 自社を世界基準にする

各界の仕事人が持っている絶対に譲れない仕事における「こだわり」を教えてもらう。「この5年間で最も活躍したビジネスマンを応援する賞」受賞者の、楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史さんの熱い戦略、成功のコンセプトを語っていただいています。

三木谷浩史のこの5年

 三木谷浩史さんが楽天市場を開設したのは1997年のことだ。2人で2000万円の資本金で会社を創業して、スタッフ6名でサイトを立ち上げた。最初に出店したのはわずか13店舗だった。それが瞬く間に楽天グループ全体の流通総額は1兆円規模に達した。さすがの三木谷さんも、この事態は予想できなかった。流通総額が1兆円を超えたら「一丁あがりで引退する」というのが、創業時代の口癖。その実現があまりにも早すぎたのだ。そして、創業以来の目標であった「楽天を世界一のインターネット・サービス企業にする」というゴールに向かって、本格的に邁進し始めたのがこの5年間だった。

「先週、久しぶりに中国に行ってきたんです。いや、これは相当気合いを入れなきゃいかんなと(笑)。スピードが日本とまったく違う。バブルの側面もあるとは思うけど、やはり経済が成長しているって羨ましいですね。日本は風上に向かって、テクニックで必死にヨットを走らせてるみたいなもんだけど、向こうは完全な追い風ですから。こっちがコンセンサスがどうのと、くだらない話をしている間に、向こうはどんどん進んでる」
 '08年の台湾楽天市場を皮切りに、現在はアメリカ、フランス、タイ、インドネシア、中国など世界6ヵ国・地域で楽天のビジネスが動き出している。順調な滑り出しと言いたいところだけれど、この人の基準では創業14年で世界6ヵ国・地域に進出しても、まだまだスピードが足りないということらしい。
「今の5倍速くらいでやらないと間に合わない。上には上がいる。グーグルにしてもフェイスブックにしてもね。でも日本人は何でもかんでもコンサバティブで。ウチの会社でさえ、そういう部分が出てきている。この間も、中国の事業について担当者が日本にいてうだうだ言ってるから、『お前ら全員、明日から中国に行って、勝つまで帰ってくるな』って(笑)。いや、冗談じゃなくて本気ですよ」
 楽天とインターネットが切っても切れない関係にあることは言うまでもない。けれど、楽天の爆発的成長の秘密はインターネットそのものではない。むしろ、世の中がどんなに進歩しようと変わろうと、人の社会が続く限り変わらない何かだ。
「これだけは絶対に変わらないよね、というところがあるわけです。例えば、人がものを買うということは変わらない。コンピューターがどんなに普及しようと、そんなもの使いたくないという人がいることも変わらない。世の中が激変する時代だからこそ、何が変化しないかという見極めが大切なんだと思う」
 そういう変わらないものを土台にして、楽天のビジネスモデルは構築された。彼が恐るべきは、その未曾有の成功にもかかわらず、一瞬も立ち止まらないところ。創業当初からさまざまな企業改革を推し進め、昨年には社内の公用語を英語にすることを発表する。彼はこの社内公用語の英語化の決断を、この5年間の最大の出来事に挙げた。
「それは組織をグローバル化するということでもあるけど、同時に日本で生まれた楽天を、世界に持っていくために必要なことでもある。日本に見切りをつけたのかなんて言う人もいるけれど、とんでもない。何も恐れることはない。日本人は優秀なんだから、もっと外へ出なきゃいけない。そのための英語化であって、僕らが成功すれば、どうして他の企業もやらないのということになる。日本の企業を根本から変えるためにも、英語化は必要なんです」

昨年、グローバル戦略などについて、社長自らが英語で会見して大きな話題となったことが記憶に新しい。

三木谷浩史成功のコンセプト

Q  社内公用語の英語化、本当の狙いは何ですか?

A  まず何よりもアイオープニング、目を開くということです。インターネットによって世界中のあらゆるタイプの情報が共有化されるようになっているけれど、その大半は英語です。マーケットも世界中がつながるわけだし、何か研究開発をするにしても、世界レベルでやるのが普通になっている。そこで使われるのも、もちろん英語。自分たちだけ日本語でやりますと言っても、どうにもならなくなっている。それでも大半の日本人はあいかわらず日本のサイトしか見ていないし、日本の新聞しか読んでいない。少なくともインテリジェンスがある人なら、海外の人が日本をどう見ているかを気にしなきゃいけないはずなんです。幕末の日本人のほうが、よほど世界を意識していたと思う。こうなったら個人として世界レベルで通用する人を何十万、何百万人単位で輩出しなきゃいけない。日本の国力を考えれば、それが適正です。そのためのトレンドを作りたい。だから英語化を始めたわけです。僕らが成功したら、間違いなく日本の他の企業もあとに続くと信じてます。
 言わずもがなだけれど、僕は日本語を捨てろと言っているわけじゃない。誰かも言ってましたが、世界中で通用しているのはネイティブ・イングリッシュではなくて、ノンネイティブ・イングリッシュなんです。英語が本来の母国語なのは、イギリス人とアメリカ人といった一部だけなんだから。英語はあくまでもひとつの道具として使えればいいんです。だけど、それができればいろんなことが変わりますよ。人を思考停止に陥らせるいろんな仕組みが、この国のなかにはまだまだシステムとしてビルトインされている。この状況をズバッと変えるのも英語化だと思う。英語化はこの国を改革する、ものすごい切り札なんです。

楽天の将来像は、進出国27ヵ国・地域、流通総額30兆円、海外比率70%。世界標準企業への新たな快進撃が始まる。

三木谷浩史成功のコンセプト

Q  ずばり、海外のマーケットで成功するための秘訣は?

A  ビジネスにおいて秘訣なんてものはないと思っています。海外のマーケットでも、すぐにうまくいくなんて思ってません。ただ僕らはうまくいくまでやると(笑)。
 いや、真面目な話、どこでやるにしてもそんなに簡単にうまくはいかないです。たぶん悪戦苦闘するだろうと。それだけが、最初から唯一、断言できることなわけです。それでも何が何でも、僕らはやりきるぞ、ということです。
 そういう意味では、日本でやるのも海外でやるのも、何も変わりはない。僕が『成功のコンセプト』という本のなかで最初に書いたこと、つまり常に改善をし続けるということが、秘訣といえば秘訣なのかもしれない。僕らの場合なら、サービスの質を常に改善し続けて、その国の人々のニーズに合ったよりよいサービスを提供するということに尽きるわけです。
 いや、正直に言えば、最初はそのことをもう少し簡単に考えていました。僕らが日本で育てた楽天市場のシステムには大きな自信を持っていたから。それを海外に持っていっても完全にそのまま通用するとは思っていなかったけれど、まあクルマでいうならインテリアを変えるくらいで大丈夫だろうと。ところが実際は、エンジンもシャーシも改良しようかみたいなことになってる(笑)。でも、それは予想していたことでもあるわけです。悪戦苦闘するのは間違いないんだから。さらに言えば、その悪戦苦闘こそが我々を成長させる原動力なわけです。そういう意味で、海外のマーケットで成功する秘訣はないけれど、海外で悪戦苦闘することが、ビジネスにおいて成功する秘訣だとは言えるかもしれません。

 楽天の将来像は、進出国27ヵ国・地域、流通総額30兆円、海外比率70%。世界標準企業への新たな快進撃が始まる。

Q  インターネットの未来、どう予測していますか?

A  月並みな答えですが、予測できることと、できないことがあります。つまりそれは川の流れのようなもので、川が海にそそぐのは間違いないけれど、川が今年氾濫するかどうか、氾濫して川の流れがどう変わるかまではわからない。もちろんわからないからといって、そのままにしていいというわけではない。だから何が起きても大丈夫なように、まず備えをしておきます。
 僕はそういうものを判断する時には、“そもそも論”で考えることにしています。そもそもインターネットとは何なのかと考えるわけです。インターネットとは、ありとあらゆる情報を、世界中のどこにでもTCP/IPというフォーマットに乗せて流すことのできるシステムです。そのありとあらゆる情報には、価値であったり、思想であったり、さらには感性というようなものまで、人間が頭で考えることのできるほとんどすべてのものが含まれるわけです。
 そういうものが世界中で自由にやりとりできるようになった時に、人間社会はどう変わるのか。あるいは、新しく出てきたクラウド・テクノロジーの意味することが何なのか。それは、どこへ我々を連れていくのか。それがわかっていないと、大変なことになると思うからです。いつ、何が起きるかは予測できないとしても、この大きな流れが最終的には、人間社会に存在している、ありとあらゆる人為的な障壁を打ち壊していくであろうことは確実なわけですから。

Hiroshi Mikitani
楽天代表取締役会長兼社長。1965年神戸市生まれ。一橋大学商学部卒業後、日本興業銀行に入行。'93年、ハーバード大学MBAを取得。'97年、エム・ディー・エム(現・楽天)を設立。2001年には米フォーチュン誌が「世界の次世代経営者25」に選出。

Text=石川拓治 Photograph=川口賢治

*本記事の内容は11年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい