独自の美意識を持つ男! ドレスコーズ志磨遼平~野村雅夫のラジオな日々vol.29

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、元毛皮のマリーズで、現在はドレスコーズとして活躍する志磨遼平だ。


眼鏡、髪型、身長……、似ている二人

独自の美意識を持つ男、志磨遼平。2010年にメジャーデビューを果たした毛皮のマリーズの頃から、無性に興味を惹かれてはいたものの、なぜか縁がなくて、一度も会えないまま、バンドは解散。そして、ドレスコーズへ。さらに、OKAMOTO’S、THE NOVEMBERS、倉本美津留、中村達也、N’夙川BOYS、おとぎ話あたりとのコラボレーションの数々。わかりやすいものが好まれるこのご時世にあって、謎めいたものでも恐れずにそのまま作品として世に投げかける彼の姿勢を、僕はとても好ましく思っていた。と同時に、いつかその謎の源泉に、つまりは当の本人に直接触れてみたいと感じていた。今回番組に来てもらったことで、そんな僕の欲求が少しは満たされると思っていたが、逆にもっとゆっくり話したいという欲望が湧いてくることになった。

――初対面でございます。

さっき初対面ですね。

――ただ、我々はシルエットがほぼ同じ。

なんでしょうね。この親近感は。

――もともと髪型は似ているわけですが、僕が最近メガネを新しくした結果、これはもう完全にかぶってますよね。

ほぼ一緒です。

――僕がそれほどに志磨遼平をリ、リスペクトしていると……

ちょっと! 今、噛みましたよね。

――ハハハ! というふうに思われても、これは致し方ない。てな冗談は別として、毛皮のマリーズの頃から、なんかどっかでお会いできるといいなとは思っていたんです。志磨さんの作っている音楽もそうだし、興味の持ち方が、僕と近しいところがあるんじゃないかと感じていたのでね。だから、こうやって、Ciao Amici!にお迎えできたのは嬉しいです。

こちらこそ。会えて良かった。

――プロフィールを紹介しておきますね。和歌山県の出身。年齢は僕のちょい下、1982年のお生まれなんで、現在37歳。ミュージシャン、文筆家、俳優として幅広く活動しています。2006年にバンド「毛皮のマリーズ」でデビューを飾り、2011年に解散。2012年、ドレスコーズを結成されました。毛皮のマリーズの頃から、文筆活動もされています。俳優としては、ドラマ『グーグーだって猫である2』や映画『溺れるナイフ』などにも出演でございます。

ま、ちょこちょことね。

――この番組は、もちろん音楽が軸なんですが、本を紹介するコーナーを作っていたり、映画を短評したりと、音楽周辺のカルチャーにも目を配っていこうと。

いいですね。賛成。

――志磨くんは本好きでも知られていますんで、「最近どんな本を読みました?」みたいなざっくりした話から始めてもいいんだけど、これから1曲かけて本題として入っていくアルバム『ジャズ』のことを念頭に、まず触れておきたい本があるんです。とあるインタビューを読んでいて、「なるほど!」と思ったのが、『サピエンス全史』です。そうか、あの本が『ジャズ』の参考図書になるんだって。

ああ、あれね。読みました?

――同じ著者のユヴァル・ノア・ハラリが書いた『ホモ・デウス』という続編が出ていて、僕はそっちからなんです。

新しいな!

――実は『サピエンス全史』も買ってるんだけど、僕はもう稀代の積読野郎なんで……

わかります。だって、あれは特に結構な量がありますから。

――なかなかどっぷり踏み込めていないという状況なんです。でも、すごいベストセラーになったじゃないですか。世界で800万部売れたとかなんとか。内容についても、噂は耳にしていますが、どんな風に志磨くんが読んだのか気になるんです。あんな分厚い本についてかいつまんで話せってのも乱暴なのは承知のうえですが。手に取ったきっかけとかね。

まだ『ジャズ』の構想をしていた頃に、次のアルバムでは人類の歩みをひっくるめて描くみたいな、ものすごい壮大なテーマを自分の中でドンと掲げていたんです。で、僕はいつもそうなんですけど、それを人に言いふらすんですよ。こういうのをやりたいって。ひとつの利点としては、そうすれば後に引けなくなる。二つ目は、似たことを考えている人を牽制できる。

――ハハハ! アイデアを盗られないという利点。

そうそう。三つ目は、人が情報をくれる。「そういうことを考えてるなら、あれを観てみたらどうか」とか、「あれ読んだ?」とか。そして、そのうちの誰かが『サピエンス全史』は読んだかって言ったんです。すごく売れてるのは僕も知ってたんですけど、ああいう圧倒的なベストセラーって、ちょっと敬遠しません?

――同じ。まあ、ひねくれてるからね、我々は。「えらい売れとるなぁ。よし、後にしよ!」ってなもんですよ。

そうそう。だから僕も読んでなかったんですよ。で、実はこれ、ものすごくオススメできるものがあるんです。『「サピエンス全史」をどう読むか』という……

――あ、解説本があるの?

めちゃめちゃ薄い解説本が出てるんですよ。

――そんなことできるんですか!? 人が何百ページと苦労して書いた本を!

フフ。僕はそっちからまず入ったんですよ。これは半日ぐらいで読めます。なるほど、これはどうも面白そうだなということで、ちゃんと『サピエンス全史』も買ったんですけど、あまり読み込んで丸々影響を受けるのもなと思ったんですね。なので、ぽこぽこと読み進めつつ、似たような本を他にもいろいろ探して読んでました。人類が今までどういう風に進化、というのか、成長してきたかという話です。

――ホモ・サピエンスとしての歴史をまるっと語るんだけど、僕らが学んできた日本史・世界史とはまったく違う角度から、人類史をもう一度「え?」っていう視点から描き直すわけですよね。

そうそう。それがね、面白くて。たとえば、ひとつ例を挙げます。稲があるじゃないですか。人間は稲の奴隷となると説明されるんです。

――は〜〜〜〜〜〜! なるほど!

あ、頭いいな。もうわかってらっしゃる。

――普通だったら、農耕民族となったことによって定住して、なんて習いますもんね。だけど、僕らは稲を手なづけたのではなく、むしろ……

手なづけられたんです。

――この視点の転換ですよね。

ね。たとえばこういうことが面白いんですよ。あの本は。稲からすれば、何もマイナス、デメリットはないわけです。人間のおかげで、ものすごく広い範囲に植えてもらい、毎年確実に実らせてくれる。

――稲は種として繁栄してますもんね。

逆に人類は、そのせいで8時間くらい労働しなくちゃならなくなった。

――ハハハ!

フフフ。

――確かに奴隷だ。稲の奴隷。こういった具合に、人間の歴史の見方をガラッと変えてくれた本にも影響を受けたわけです、志磨くんは。え? そんなんで、どういう音楽ができるの? そう思っている人ばかりだと思います。ここで1曲挟んでアルバムの話に移っていきます。では、アルバム『ジャズ』から、どれにしようかな。だって、かけたい曲がたくさんあるから。でも、1曲となったら、これかな。志磨くんから曲紹介をお願いします。

はい。『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』です。

――毛皮のマリーズの頃から知ってて、まだ『ジャズ』を聴いていなかったって人は、結構びっくらこいたんじゃないかと。

そうかもしれません。

――サウンドが変化しております。簡単に言えば、ロックと言うよりは…… ってことだと思いますが、これはどういうジャンルの音楽が多いと紹介すればいいんでしょう?

たぶん、いわゆるジプシーと呼ばれている人たち、ロマなど他の呼び方もありますが、彼らの独特の音楽というのがあります。あの方々は、移動をしながら、いろんな国にいらっしゃるじゃないですか。

――自らの土地を持たないってとこありますもんね。

そうそう。なので、彼らが住んでいた土地や時代によって違いもあるんだけど、広くジプシー音楽と呼ばれるもの。その中でも、バルカン、東ヨーロッパの上の方、あのあたりのジプシー音楽がものすごく面白くて。メインはブラス、管楽器ですね。世界最速の音楽と呼ばれてるんですよ。それは、どんなもんやろっておもったわけです。ナパーム・デスとかより速いのか、とか思うじゃないですか。

――ハハハ

世界最速なんやったら、スレイヤーとかより速いのかなって。聴いてみると、確かに速いんですよ。どう言ったらいいかな。ブッカ、ブッカ、ブッカ… 裏打ちですね。言ってしまえば、スカにも近い。なかでも、ツートーンスカとか言われるような速いスカにも近いというところはありますかね。

――それもあるのか、東京スカパラダイスオーケストラから、加藤さんと茂木さんがレコーディングに参加しています。しかも、ブラスが大事だとおっしゃいましたが、今回はサックス/クラリネット奏者の梅津和時さんがブラスのアレンジをしているんですよね。大御所だよ。70前くらいですか、梅津さんは。

大、大、大御所です。ブラスに関しては全部をやってくれました。

――そうやって生み出されたサウンドが描くのは、「人類最後の音楽」です。さっきも『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』といった書名も出ました。この後、人類がどうなっていくのかという、未来も気になってくるわけです。「デウス」というくらいなんで、人類は神のようになっていくんじゃないかっていう未来が語られるわけです。要は、寿命や病から解き放たれるっていう。

そうそう。でも、これはね、スピリチュアルみたいな話ではないんですよ。

――あくまで科学的だもんね。実際、僕らも今高齢化社会に生きているわけで、昔だったらありえないくらい長く生きてるわけじゃないですか。これが、たとえば癌を克服できるようになれば、また寿命は伸びていく。

我々の寿命を確実に縮めていくような疫病が昔はたくさんあったわけです。

――ペストとかね。

そう。結核なんかもそうでしょう。そういうものが今、だいたい克服できていると。まだ癌だなんだとありますけど、人類はこうしてどんどん克服してきているから、このペースでいけば、そのうちオールクリアするだろうと。

――稲の奴隷で未来永劫あり続けるのか。

労働をひたすら続けるだけの。

――ただ、そうなった時の心構えはできているんですかね? 今のところ、人間はみな死ぬわけですよ。だけど、それがいつなのかはわからない状態で生きているわけじゃないですか。

確かに。

――いつかエンドロールが流れるんだけど、それがカットフェードなのか、カットアウトなのか、フェードアウトなのか。それはわからない。そして、わからないから生きていられるという側面もあるでしょう。だのに、寿命がなくなってしまったら、どうなるべ? 人類全体は? 子どもは? っていうようなところまで考えていって、アルバム『ジャズ』ができる。こんな話は聞いたことがないよ!

ハハハ!

――どんなミュージシャンだよ。志磨遼平、恐るべし。

詰め込みすぎるんですよ。最近の僕は。

――前作の『平凡』もかなりコンセプチュアルでしたよね。でも、あれはどちらかと言えば、今の僕たちを描いていくって感じだったけど、今回はその先。SFのように聞こえるかもしれないけど、実はそうでない。

僕らの未来というか、どういう風に僕らが去っていくのかなってところを音楽にしてみたらどうかしらっていうことです。

――とりあえずとっつきやすいというか、パッと観てみてほしい映像が公開されています。

ショートムービーね。

――1と2は、YouTubeで観られるんですよね?

そうです。で、CDの通常版の方に入っているDVDでは、1・2・3がコンプリートできます。

――だから、まずは1と2を観てみてもらえればいいですよね。今僕らが話したことがわかりにくいっていう場合でも、この映像を観れば、その世界観がわかるし、サントラとして『ジャズ』から曲が使われてますから。しかも、志磨くんの名演も拝める。

やめて〜

――世界が終わるというその時に、志磨遼平演じる男が何を語るのか。ラジオもちょっと出てきますね。ラジオ局はどうなるんだよ? 

そうそう。

――音楽のジャンル的にはね、さっき話してもらったロマの音楽って感じなんだけど、僕が聴いていてまず思い浮かべたのは、あがた森魚なんです。

なるほどね〜

――あがた森魚の初期。

僕、大好きです。

――ですよね? 『乙女の儚夢(ロマン)』とか、『僕は天使ぢゃないよ』っていう映画のサウンドトラックであるとか。あがた森魚さんも、それこそ70歳くらいの大御所なんですが、今も現役バリバリですよ。毎年のようにアルバムを出されてますけど、ちょっと近いところがあるなと思いました。

僕は本当に一方的に憧れている方です。あがたさんも当初はフォーク、しかも四畳半と言われるようなフォークのシンボルみたいなところがありましたよね。『赤色エレジー』っていう曲がドンとヒットして、そういう位置にいらしたんですけど、80年代なんかはパンクバンドをされるんですよね。変装して、名前も変えてね。

――すげえ実験的なことをされましたもんね。

ニューウェーブですよ。あがたさんは、なんて言えばいいかな、数少ない、日本人のシンガーで目標とする方かな。

――お! じゃあ、僕が思い浮かべてしまったというのは、志磨遼平的には……

確かにそれは鋭いなと思いますよ。

――ハハハ! やった〜!

さすがやなと。

――考えたら、毛皮のマリーズの頃には『ティン・パン・アレイ』っていう作品もあって、あがたさんはバンドのティン・パン・アレイとの交流も初期は強くありましたから。

コンセプト・アルバムもね。『バンドネオンの豹(ジャガー)』とか、大好き。

――ですよね!

ねえ。いいんだよな〜

――ともあれ、着眼点がすばらしかったです。アルバム1枚を通して聴いてほしいな。いろんな曲調があって、中にはラップの『もろびとほろびて』なんかもあります。これなんかは、まさに今の話をわりとわかりやすく聴けるものですよね。

確かに。それが一番わかりやすいかも。さっき言ってた『サピエンス全史』をどう読むか、みたいな曲ですよね。

――この曲では、最後に「僕らの暮らすこの国ではオリンピックがもうすぐある」と歌われるんだから、今聴かないと! で、その後に何を歌うのかってところで続く2曲も、やっぱり流れで聴けば感慨にふけってしまうんです。

まさに。おっしゃる通りだわ。そして、これまた説明がややこしくなることばっかり僕はやってしまってるんですが、アルバムの二次創作みたいな感じで、冊子を作ったんです。アルバムの収録曲と同じタイトルで、12人の方にまったく関係ない話を書いてもらうということもやってます。

――そこには、我らがアミーチのGlim Spanky松尾レミだったり、倉本美津留さん、最果タヒさん、住野よるさんなんかが参加しています。「12 jazz singles」っていうものですよね(特設サイトでも読めます)。こちらも楽しめてしまいます。やりすぎ! アルバムはもちろん、映像も観られて、さらに二次創作まで。

詰め込みすぎるんですよ、最近。

――分割して売りなはれ。

確かにね。

――ワンマンライブ、ツアーも決まっています(日程など詳細はこちら)。どんなステージになるのか。当然ながら、これまでとも違う感じになると思います。とまあ、どっぷり話してまいりましたが、予想通り、気が合いました。

やっぱりね〜

――見た目も似てるし、興味もやっぱり似てた。だって、僕は数年前の自分の誕生日にあがた森魚のライブを観に行った男ですから。

合うなぁ。興味合う〜

――また一緒にお喋りしましょう。

ぜひぜひ。ありがとうございました。

vol.30に続く



野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
気になる方はこちらをチェック