最新絵本『ほんやのポンチョ』も絶好調! "革命児"西野亮廣が描く未来とは?<前編>

2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家としてデビューした西野亮廣氏。‘16年発表の『えんとつ町のプペル』が37万部を超えるメガヒットを記録するなど、絵本作家としての地位を確立した西野氏が、待望の新作を発表した。それが、オールカラー、完全分業制でなる絵本、『ほんやのポンチョ』である。 その発売前日となる12月5日、西野氏は幻冬舎の会議室に籠っていた。『ほんやのポンチョ』に、先行予約の特典である直筆サインを行うためだ。4000冊以上の絵本に囲まれ、ひたすらペンを走らせる西野氏に、本作誕生秘話と、独自のビジネス哲学について語ってもらった。 


『ほんやのポンチョ』は読み聞かせ用の絵本

本が大好きなポンチョが、夢中になって読むうちに、ページには折り目がつき、メモが記され、線が引かれて……。『ほんやのポンチョ』は、本来なら売り物にならないはずの本を販売する「しるし書店」ができるまでを描いた、心温まる一冊だ。全文ひらがな、しかも、一文が五七五調風に整えられ、実にリズミカル。これまで西野氏が手がけてきた絵本とは、若干印象が異なる。この絵本が誕生した経緯についてたずねると、「テーマは2つあるんですよ」と西野氏。

「ひとつは、読み聞かせ用の絵本をつくるということ。僕は、これまで絵本を4冊出させていただいているんですけど、どれもページ数も、文字数も長いんですよ。『えんとつ町のプペル』なんて読み聞かせをするのに30分くらいかかっちゃうので、消費カロリー、ハンパないんで(笑)。そもそも読み聞かせを想定していませんでしたからね。でも、個展をやらせていただいた時、お客さまから『読み聞かせ用の絵本を出す予定はないんですか?』と言われて、『それなら、一冊読み聞かせ用の絵本をつくろう』って。

ふたつめは、『しるし書店』(西野氏が展開している古本を販売するプラットフォーム)がどんなサービスなのかを説明するため。説明書みたいな堅苦しい形ではなく、もっとファンタジーな感じで説明する方法はないかなと思いました」

ファンタジーと現実の境界線を曖昧にすることで、ディズニーを超える

読み聞かせを意識した絵本であると同時に、西野氏が新たに世に送り出したサービスのPRツールにしてしまう。その発想の新しさは、ページに折り目がつき、メモ書きされた古本を、「あの人は、この言葉に心を動かされた」ことがわかる“唯一無二の本”として販売する「しるし書店」にも共通する。こうしたアイデアは、いったいどこから生まれるのだろう。

「僕は、『ディズニーを超えよう』と思っているんです。どうやったら、超えられるのかを考えた時に、『夢の世界をつくるんじゃなくて、現実の中にファンタジーを落とし込んでしまえばおもしろいんじゃないか』と。ファンタジーと現実の境界線を曖昧にするとでもいうんですかね。ディズニーの良いところでもあり、悪いところでもあるんですが、夢の国って、ディズニーランドに行くとか、ディズニー映画を観るとか、“アクセスしないといけない”場所なんですよね。だから、ディズニーに触れていない日って、結構あると思います。でも、キャラクターや絵本の世界を日常生活にからめてしまえば、いつでも触れることができる。たとえば、絵本の中のサービスを現実につくってしまうとか、現実にあるサービスを絵本に描いてしまうとか。そうやって、ファンタジーと現実の境界線を曖昧にして、いつでも僕の作品に触れざるを得ない状況をつくってしまえばいいんじゃないかと」

見たことがないものを見たいし、人がやったことがないことをやりたい

「絵本の世界を現実に落とし込む」という想いは、『えんとつ町のプペル美術館』設立にも見て取れる。絵本『えんとつ町のプペル』の世界を再現した美術館を、故郷・兵庫県川西市につくるというプロジェクトで、その費用はクラウドファンディングで調達。最終的な支援者数は2404人、支援総額は目標の5000万円を上回る6256万円に達した。これには、オンラインサロンメンバーたちも関わっており、みんなで意見交換をし、ユニークな企画が持ち上がっているという。これもまた、今までにない美術館のつくり方だ。

「(美術館が建つ予定の)更地に入るのに、入場料をいただいて、お土産として、そこから出たゴミを販売(※『えんとつ町のプペル』には、ゴミ人間が登場)するという、それだけ聞くと、なんだかひどいですね(笑)」

そう話す西野氏。なんでも、更地のど真ん中に、美術館の完成イラストを1つだけ展示する予定なのだとか。

「1000㎡の土地に、額装した絵が1枚だけある。異様な光景ですよね。でも、それだけじゃおもしろくないから、その絵の中にある建物をAR(拡張現実)で抜き出して地面に置き、それを拡大して中を歩くというのを、来場者にやっていただこうと思っているんです。これは、更地のうちしかできないこと。だから、入場料が発生するという……。

僕は、見たことがないものを見たくて、人がやったことがないことをやりたい。ずっとそう思ってきたんですよね。で、飲みの席とかで友達に、『こんなことやりたいんだけど、いけるかね?』って聞くと、だいたい『いける!』って言われて。美術館のイラストをARで抜き出すってヤツも、そんな感じで生まれたんですよ。全部友達のおかげですね。僕はただ、こんなことやりたいって言っているだけなんで。友達に恵まれたのかもしれないな」

好きな人たちに「面白い」と言われれば、それで十分

既存の概念をぶちこわすようなアイデアや企画は、時に世間からバッシングを受ける。けれど、周りにいる友達だけは、いつもおもしろがって、後押しをしてくれる。「子供の頃からそうだった」と、西野氏。

「他の人からは後ろ指さされるようなことも、周りの友達は、『それ、サイコーだよ!』って、ゲラゲラ笑ってくれる。で、『コイツらが笑ってくれれば、それでいいか』って。親も、そうだったな。とくに父ちゃんは、なんでも『オッケー、オッケー』な人でした。家の前の公道に盛大に落書きして、近所の人から怒られても、父ちゃんだけは、『オッケー、オッケー!』。みんなからダメ出しされても、自分が好きな人たちにいいって言ってもらったら、もうそれで十分ですよね。

よくみんな、『やりたいことがない』って言うけど、そんなの最初からないですよね。やってみたら意外とほめられて、『あれ、いけるんじゃないか!?』って思って、続けているうちに楽しくなってきて……という感じで。モチベーションって、後付けなんじゃないですかね。ただ、『オッケー』って言うのは、覚悟がいると思うんですよ。そうやって送り出して、もし失敗したら、ソイツの責任になるわけだから」

絵本作家にしのあきひろの誕生の裏にあった、タモリという存在

この話を聞いて、西野氏が絵本を手がけるようになったきっかけを思い出した。彼の描いた挿絵を見たタモリ氏が、強くすすめ、それに促されるカタチで始めたというが……。

「挿絵っていうか、すっごいエロい絵ですね。『笑っていいとも!』に出ていた時に、フリップの裏に描いていたんですよ。お茶の間に流れたら一瞬で番組が終わっちゃうようなヤツを、タモリさんにしか見えないようにして(笑)。それを、タモリさんがおもしろがってくれたんです。で、ある時飲みの席で、タモリさんと絵本の話になって。悪口とか言ってたんですかね。でも、悪口言っているだけじゃ、おもしろくないじゃないですか。『それなら、お前、絵本描け!』って。タモリさん、いつもはふざけているのに、その時だけはまじめな顔で」

最初は固辞していたという西野氏だが、「物語を書くのは好きだな。じゃあ絵本もいいかもな」と、その気になったそうだ。高校時代、美術の教師から美大への進学を勧められたというから、もともと素養はあったのだろう。

「あぁ、タモリさんからも『お前絶対描けるようになるから』って言われました。あの頃のタモリさんのプッシュは、めちゃめちゃデカかったですね。『この絵は見ておけ』とか『この展示会は行ってこい』とか。僕が、『森を描きたいから、屋久島に行こうかと思っている』と言ったら、航空券とホテルを手配してくれたり。そこまでしてもらっちゃうと、ちゃんとやらなきゃって気になりますよね」

それが、現在の快進撃へとつながるのだが、ここにもまた、西野氏ならではの戦略があった。

後編に続く


『ほんやのポンチョ』 
にしのあきひろ(キングコング・西野亮廣)
幻冬舎 ¥1,500(税別)



Akihiro Nishino
1980年兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。『Dr.インクの星空キネマ』、『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』、『オルゴールワールド』、『えんとつ町のプペル』などの絵本のほか、小説『グッド・コマーシャル』や、『魔法のコンパス』、『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』、『新世界』といったビジネス書も手がけ、累計発行部数は100万部を突破。オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』は会員数18,000人を数え、クラウドファンディングで1億9000万円以上を調達するなど、そのビジネスセンスにも注目が集まる。


Text=村上早苗 Photograph=吉場正和


【後編】