デザイナー森田恭通の人生の転機となった美術館訪問とは?

世界からオファーが絶えないデザイナーであると同時に 、アーティストであるグラマラス代表・森田恭通氏。その活躍の源は、異なる美の視点を与えてくれた経験にあった。


心震わす、唯一無二の出会い

今日はパリで打ち合わせ、明日はロンドン、来週はニューヨーク……世界中を飛び回り、セレブリティのプライベートレジデンスから商業施設やホテルまで、デザイナーとして数々の作品を手掛ける森田氏。そんな世界を隅々まで知る彼だが「いつかもう一度、絶対に訪れたい場所はどこですか? と聞かれたら、迷わずここを選びます」というのがベルリンのヘルムート・ニュートン美術館だ。

「ヘルムート・ニュートンの美術館に入ると、巨大なプリントが目に飛びこんでくる。その美しい迫力に感動しました」。独特の美意識に彩られたベルリンの街の印象と相まって、忘れられない旅になったそう。

「入った瞬間、目の前の壁には女性の巨大なプリントが。エロティックで退廃的なその美しい迫力に、本当に感動しました」

かつてはピーター・リンドバーグなどファッション写真に興味を惹かれたという森田氏自身も、近年は女性のフォルムを光と影で大胆に表現する作品や、シャンパーニュの結晶を顕微鏡で捉えた作品などのアートフォトを発表。アーティストとしても本格的に活動している。

「それでもこの美術館を初めて訪問した当時は、まさか写真を仕事にすると思わなかったんです」と言うが、その心震わす出合いこそが、確実に潜在的な転機になったはずだ。そして今、森田氏の心を刺激するのが日本の伊勢神宮だ。2018年より継続してアートフォトを撮り続けている。

撮影で毎月1〜2回通う。嵐でも祭事は遂行、撮影できるのがわずか3分という時も。「でも行くたびに不思議と清らかな気持ちに。ニュートラルな自分に戻る気がします」。作品は2019年にパリを皮切りに発表予定。

「代々行事にかかわっている人々や、自然が織り成す四季の彩りなど、1300年前と同じ景色が今もそこにあるんです。どんな資産家でも、時間や歴史はお金で買うことはできません。仕事でもプライベートでも世界中を巡ってきましたが、伊勢神宮にはどこにもない唯一無二の体験があると思います」

「今は完全にライフワーク」という伊勢神宮訪問で、撮影した枚数はすでに数万枚に。これらは今後、パリをはじめ世界各地で発表する予定だ。

「参拝のために訪れている場所も、ふと視点を変えれば、また違う美しさが見えてくるんです。景色だけではなく、伊勢神宮に存在する、知られざるディテールの美しさを伝えたいと思います」

森田氏の独自の視点で切り取られた伊勢神宮の悠久の美。それがどんな姿で表れるのか。かつてベルリンの美術館で、森田氏自身が受けた感動の瞬間を、今度は我々がその作品で体験するに違いない。


Yasumichi Morita
1967年大阪府生まれ。グラマラス代表。インテリアに限らず、グラフィックやプロダクト、そしてアート写真など創作活動を行っている。


Text=牛丸由紀子 Photograph=I.Susa(ポートレイト)