「編集思考を鍛えるために取り入れたい10の習慣」凄腕アートディレクターの発想術④

1万冊の雑誌のエディトリアルデザインをはじめ、企業のブランディングや商品開発なども手がけるダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート代表の野口孝仁氏。その野口氏が提唱する「編集思考」を鍛えるためにはどうすればいいのか? ビジネスアイデアのメソッド講座、4回目は実際に自身が行っている“10の習慣”を紹介する。


編集思考を日々の生活で鍛える

編集思考は、理論さえわかればすぐにうまく使えるというものではありません。スポーツと同じで、例えば野球のルールを詳しく知っているからといって、いきなりボールが打てるわけではありません。地道なトレーニングを積むことが大切です。

では、アイデアを生み出せる体質になるには、どんなトレーニングが望ましいのか。私が実践している「10の習慣」を紹介します。

1.環境と体の状態を意識する
平日の朝、私はジョギングに励みます。常に私の頭の中は会社の経営状態や社員のことでいっぱいですが、考えが煮詰まったときは、体を動かすことが有効。新しいアイデアや手がかりがひらめくことが多いのです。ジョギングはそれほど激しい運動ではなく、適度に脳を使いながら、リラックスできるのがいいのでしょうね。自分に合った運動を探してみてください。

2.判断力を養う
物事の判断基準は人によってまったく違います。しかも「コーヒーに砂糖を入れるか入れないか」「晩ごはんに何を食べるか」など、正誤のない判断もしなければなりません。人の判断の回数は1日に1000回にも及ぶといわれています。どう判断しようとその人の自由ですが、自分のものさしをもつことは大切です。他人の意見に左右されずに自分の答えを貫くことが、オリジナリティある発想につながります。どんな小さな判断でも、「選んだ理由」を明確にする。これが判断力を高めるトレーニングです。

3.理解力を深める
デザイナーは判断した理由を周囲に伝えて、納得させる必要があります。「みんながそう言っているから」では、誰も納得してくれません。自分の言葉で自分の考えを伝えるためには、理解力が大切です。私は理解力を深めるために、「イメージの可視化」に努めています。思ったこと、感じたことを表すイメージを探します。イメージとは雑誌や写真集などの画像やイラストなどです。それらを見ているうちに、ただ「美しい」ではなく、「色がビビッドできれい」というように、具体的な言葉が湧いてきます。

4.生活に小さな実験を取り入れる
いきなり大きなイノベーションに臨むのではなく、最初は小さな一歩から始めるべきです。例えば、行きつけのラーメン店で、いつもは食べない塩ラーメンを注文してみる。すると、「塩ラーメンは出汁の味が重要なんだ」といった気づきがあります。こうした新しい発見の積み重ねが、新しいイノベーションを生み出すトリガーになったりするのです。

5.行間を読む
想像力を鍛えるために、読書の際に「行間を読む」ことが重要だと言われます。これは、読書だけに限りません。美術鑑賞でも同じです。作品に描かれた景色や人物を注意深く観察していると、人々の会話や笑い声が聞こえてくるような気がします。街に出て人間観察に励むことや、通常の日常会話からでも、行間を読む訓練はできると思います。

6.集めて編む
商品開発やサービス開発では、いくつかのキーワードを掛け合わせて、新しいアイデアや価値を生み出すことが重要です。スターバックスはコーヒーショップとしては後発ですが、大きな成功をつかみました。その理由は「コーヒーショップ」「フレンドリーな接客」「Wi-Fi環境を整え仕事ができる」という3つの価値を掛け合わせて、「サードプレイス」という新しい価値を創出したからです。既成概念にとらわれず、さまざまなものを掛け合わせることを意識的に実践してみましょう。

7.360°視点をもつ
想像力を発揮して企画を作るには、思考のリミッターを外すことが重要。私がよく実践する方法は、プランAとプランBを用意することです。その際にプランAは王道、プランBはプランAの対極にあるものや、お題や予算はあえて無視して、自分が本当に「いい」と思うものを作ります。似たプランを複数作っても意味がないですし、失敗しても構わないという感覚で自由に頭を使うことができます。

8.作為と無作為に作り出す
広告は消費者に「買ってください」とアピールするものです。でも、あまりに大げさになり過ぎると、消費者からは冷めた目で見られてしまいます。どんな商品にも「売りたい」という気持ちがあるので、その気持ちを完璧に隠すことは不可能です。ただし、「その表現が相手への押し付けになっていないか」と、自己検証する意識を絶えずもつことは欠かせません。

9.観察して正確な情報を集める
花は美しいもの、そう決めてしまってはいませんか。花の中にはグロテスクな外見をしているものも多々あります。編集思考を活用するためには、観察によってたくさんの情報を集めることが必要です。観察すればするほど、リアリティが増していきます。以前、私は花瓶をデッサンしている時に小さな欠けを発見しました。その欠けをデッサンに取り入れることでリアリティが増しました。日々、周囲のものを観察し、解像度を高めていく努力が必要です。

10.会議を活発にする
会議では積極的に発言する人と、じっと黙っている人に分かれがちです。でも、それでは会議の意味がありません。会議では、各自に役割を与えることが重要です。例えば、4人でミーティングをする場合には、インタビュアー、インタビュイー、書記、オブザーバーという感じ。そして5~10分くらいで、役割を交代していきます。たくさんの意見や考え方を集める場、それが会議なのです。

これが編集思考を鍛える「10の習慣」です。ぜひ試してみてください。

Takahito Noguchi
1969年、東京生まれ。マガジンハウスにて『ポパイ』のエディトリアルデザインを担当。その後、キャップに4年間在籍し、'99年にダイナマイト・ブラザーズ・シンジケートを設立。人気雑誌のアートディレクション、デザインを手がける。現在ではそのエディトリアル発想を活かし、CI/VI・プロダクトデザイン、サービスアイデア、企業ブランディングワークにも数多く携わる。講師として、宣伝会議「アートディレクター養成講座」、「企業のための編集物ディレクション基礎講座」、「デザインシンキング実践講座」ほか。受賞歴は、One Showメリットアワー、reddot design award、German Design Award International、IF Design Award、A’Design Award & Competition、日本パッケージデザイン大賞ほか。


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Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生