【ONE】秦アンディ英之「ONEが日本のスポーツ界を進化させる」<第5回>

3月31日、東京・両国国技館。世界最大の格闘技団体「ONE チャンピオンシップ」が「ONE: A NEW ERA -新時代- 」を開催。世界140ヵ国26億人以上が毎回の大会開催に熱狂し、アジア各国では圧倒的な支持を集めてきた「ONE」がついにそのヴェールを脱いだ。ONEチャンピオンシップ・ジャパン代表の秦アンディ英之氏に、日本大会の意義、今後のONEについて話を聞いた。

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日本のスポーツを産業として健全化させる

「CEOのチャトリは自身が格闘家であり、ビジネスマンとしても成功を納めました。その視点が世界各国を見た時に、アジアの可能性に着目したのです。42億人の人口ほか、GDP・成長率がケタ違いであるのに、アメリカの野球やヨーロッパのサッカーのように、横断的なスポーツビジネスがない。これに適した資源はなにか? 5000年の歴史から生まれた武道の精神。それらをしっかりと束ね、価値観を大事にヒーローをつくる、ONEはこの理にかなった考え方をロジカルにつくり上げた。そして、このアジアを舞台とした夢物語に賛同してくれる企業がついてきてくれたというのが大きなポイントです」

2011年に設立されたONEが8年の間にアジアにおいて急成長を遂げた背景には、格闘技への情熱と、それを支える豊富な資金があった。団体として上場していく目的のもと資本を募り、GoogleやFacebookなどに投資してきたアメリカの有力ファンド、セコイアキャピタルや拠点であるシンガポールの政府系ファンドから合計約300億円の出資を得たという。また、ディズニーやアンダーアーマー、資生堂、ソニー、ホンダといったそうそうたる企業がスポンサーになっている。

「スポーツであり格闘技への情熱は当然としても、やはりそこに客観視できるビジネスの仕組みがないと供給体制であるエコシステムが成立しないんです。K-1やPRIDEが日本の技術力、放送のクオリティの高さ、選手のクオリティの高さ、これらをコンテンツ化してブームを導き上げましたが、やはり継続性ある資金繰りがどうしても続かなかった。このことが実は大きな分岐点になってしまいました。

ただ商品力はメチャクチャ良質で、ONEもUFCもPRIDEから学んでいる点は多いですし、修斗やパンクラスを見ても、高品質のコンテンツ力はいまだに維持しています。課題なのはビジネスで追い抜かれていったということ。今回ONEが日本に入ってくることで最も大事な要因は“なぜここまで成功し切れたのか”ということ。エコシステムへの認識と理解ですね」

ONEのエコシステムを根幹としたやり方で、アジアでは成功事例と原理原則を培うことができた。しかしONE側としても培ったノウハウをただ持ち込むだけでなく、日本の現状の実態を汲み上げながら、ニーズを拾っていく必要があると説く。特に昨今のアマチュアスポーツにおけるパワハラ問題に代表されるように、日本という様々な伝統があり閉ざされた団体を持つ地域では、より理解を進め、共存を目指し、地域性にあわせた進化が求められるという。

「それだけ日本には根強い歴史があり、いろんな事情があったことを汲み上げないといけないということです。これは格闘技のみならず、すべてに言えることです。僕自身も体育会系の部活で伝統という大いなる理不尽な経験をしてきましたが、それもその時代にしか成り立たなかった方程式であり、その時代を乗り切るために作られた我流の仕組みがそれぞれの学校や団体にあったわけです。今でも格闘技の様々な現場を回り声を拾っていると、一生懸命頑張っているのに仕組みが回せなくなって苦しんでいる団体や人が実に多い。他のスポーツでも問題点はまったく同じで、これは共通ルールを持って仕組化していかないとやっぱり成長していかない。アマチュアでも成功している高校野球や箱根駅伝などはお金と人材の供給システムがちゃんとできていますからね」

全部が全部というわけではない。どのスポーツの団体でも上手くいっているところもあれば頑張っているところもある。そして全体の底上げをするにはもっともっと大きな仕組みを作っていかなければ、単体だけではやがて衰退することは容易く想像できる。

オリンピックが去った後、2020年以降のスポーツ界は、少子化を含め様々な課題が噴出しはじめると言われている。格闘技界だけでなく、日本のスポーツを産業として健全化させることは、課題であり急務といえるだろう。

「きっかけはONEだとしてもONEがすべてではない。重要なのはニーズがあるかどうかですが、ONEというプラットフォームを使って点と点を結び付け、業界全体で変わって行ければという考えです。ただ、入口では拒否されても、理解が進み、ONEの方向性がわかると『一緒に組もう』と言っていただいたこともあります。ONEとしての確立も、エコシステムを回すことによってポジティブな刺激が広がり、健全化していくことがカギになるでしょう。

3月31日の大会は“新時代”とテーマを掲げましたが、ただ新しい時代を作ると豪語するのではなく、やはり日本における過去の価値観や歴史を尊重しながら、外から来たからこそ一緒になって新時代をつくっていく。それが大きなポイントになります」

両国国技館で行われた「ONE: A NEW ERA -新時代-」は、過去を否定するわけではなく、新しい時代を共に作っていこうという意味が込められている。
そのメインイベントはフィリピンの英雄エドワード・フォラヤンと青木真也、ミャンマーの英雄アウンラ・ンサンと長谷川賢、そして元UFC世界ライト級王者のデメトリアス・ジョンソンと若松佑弥が激突。それぞれの国とその国の武道を背負った英雄が、平等なルールの下、誇りを掛けて戦ったのだ。

青木真也がエドワード・フォラヤンを破り、ライト級王座を奪回。

「ONEが今までの格闘技とは違うと言われているものは、やはり試合自体は国の威信を掛けて戦う独特の雰囲気であることがひとつあります。そして、ビジネスとしてやる以上は、成功するための第一要素が資源、お金、リソース。それを確保し認知してもらうためのリーチはメディア力であり、それを確保するための物語が“実在するヒーロー”と“人”です。

ONEが描く世界観を実現するために、NBAやNFLほか世界中の高いレベルのプロダクションから試合運営、大会運営から、映像周りまで優秀な人材が本拠地であるシンガポールに集まってきました。映像技術など演出面でも、シンプルにワクワクする体験をしていただくこと。たとえば選手のロッカーまで入れるバックステージツアーをはじめ、360度、非常に高い品質のエンターテイメント体験ができる仕組みを準備していたり、選手たちやリーグ関係者が考え一体となって高いレベルのサービスをしているのも特徴です。

そういったユニークな雰囲気の作り方からは、いままでとはちょっと違う楽しさを覚えていただけたのではないでしょうか。日本人ファイターだけではなく、たとえば『タイのこの選手は何なんだろう』とか、より選手を身近に感じられたと思います。今回のイベントが日本のスポーツ界が進化を遂げる新たな足掛かりになれば、今後のONEに期待してください」

おわり


Hideyuki Andy Hata
1972年生まれ。アメリカと日本を往復する少年時代を過ごしたのち、明治大学を卒業し、ソニーに入社。ソニーで働く傍らアメリカンフットボール選手として、名門アサヒビールシルバースターで活躍(リーグ優勝も経験)。米ソニー在籍時にはスポンサードしていた2010年サッカーW杯の広告戦略等にも携わった。その後、世界的なスポーツ専門の調査コンサルティング会社、ニールセンスポーツの北アジア代表兼ニールセンスポーツ ジャパンの代表を務める。2018年12月、ONEチャンピオンシップ・ジャパンの代表に就任。


Text=村瀬秀信 Photograph=太田隆生