「護憲派は新興宗教」稲田朋美の自爆から学ぶこと ~ビジネスパーソンのための実践的言語学⑤

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!」
ーーー稲田朋美元防衛大臣

「またか」とは思うが、別段驚きはない。7月29日、自民党の稲田朋美元防衛大臣がツイッターで「護憲派は新興宗教」という内容をつぶやき、問題になっている。少し長くなるが、すでに削除されたそのツイートを全文紹介しよう。

〈日本会議中野支部で『安倍総理を勝手に応援する草の根の会』が開催され、私も応援弁士として参加しました。支部長は大先輩の中野経一郎弁護士。法曹界にありながら憲法教という新興宗教に毒されず安倍総理を応援してくださっていることに感謝!〉

改憲の是非を語るつもりはない。だが、オウム事件以降、新興宗教という言葉に敏感なこの国で護憲派を新興宗教呼ばわりしたら、どんな反応が起こるか、稲田氏は考えなかったのだろうか。むしろ改憲派や安倍首相に対する巧妙な自爆テロだと言ってくれたほうが納得できるツイートだ。

実はこの稲田氏のTwitterでの発信は、7月下旬に同僚の杉田水脈議員のLGBTに関する発言に異を唱えるツイートでスタートしたばかり。にもかかわらず29日のツイートを削除して以降、更新がストップしたままになっている(8月1日現在)。そもそもこれまで多くの失言、迷言が問題になってきたにもかかわらず、彼女はTwitterという危険なメディアに足を踏み入れてしまったのだろうか。

この1年ほどの彼女の言動を振り返っただけでも、問題発言、浅薄発言のオンパレードだ。すぐに思い浮ぶのは、防衛大臣時代の昨年6月、自民党の都議選立候補者の集会で、「防衛省、自衛隊、防衛大臣としてもお願いしたい」と応援演説した件だ。公務員がその地位を利用して特定の候補者を応援する明確な公職選挙法違反にあたる発言で、稲田氏はすぐに撤回、謝罪をする羽目になった。

シンガポールで開催されたアジア安全保障会議に出席した際も、オーストラリアとフランスの国防大臣と並び、「私たち3人には共通点がある。みんな女性で同世代。そして全員がグッドルッキング!」と発言し、美醜に関する発言を疑問視する海外メディアから問題視された。防衛大臣を辞任に追い込まれることになったPKO日報隠蔽問題にしても、森友学園問題にしても、その場しのぎの発言をして、自分の首をしめてきた。もう59歳。いまさら人間性は変えられないのかもしれない。だが、まともな大人なら、自分のそういった性質を把握して、間違ってもTwitterのようなSNSには手を出さないだろう。

短文投稿型のTwitterのようなSNSは、タイムリーかつストレートに自分の主義主張を伝えられるという利点はあるが、自分の感情とダイレクトにつながるため、ツイートが誰にどう受け取られるかということを考えず思ったままを投稿しがちだ。また短文であるぶん、曲解を招くことも多い。いまや一般人でも不用意な発言を行えば炎上する時代だ。政治を司る立場の人間なら当然慎重に扱うべきメディアであるにもかかわらず、安易に手を出したことも稲田氏の思慮の浅さを示しているような気がする。

おまけに稲田氏の場合、ご自慢の伊達メガネよろしく、「ちょっと気のきいたこと」を言いたいという気持ちが透けて見える。問題のツイートを呼んでみても、「新興宗教」という刺激の強い言葉をつかう必要はまったくない。応援演説にしても、グッドルッキング発言にしても、提携の挨拶でよかったところに、余計な自己主張を加えたことがコトを大きくしてしまっている。

Twitterを多用する政治家といえば、ドナルド・トランプ大統領が有名だ。感情むき出し、思いつきのツイートを繰り返しているように見えるが、あれはあえてハレーションを起こして、世間の動向をうかがう“観測気球”としてつかっているように思える。褒められたやり方だとは思えないが、敵をつくり煽ることで、味方のテンションを高めるのがトランプ大統領の常套手段だ。稲田氏がそれくらいの手練手管を感じさせてくれる人なら、まだマシだっただろう。

稲田氏の自爆は、誰にでも起こりうることだ。SNSは、あまりに急速に発達したため、それを正しく扱うためのマニュアルはまだ存在しない。その便利さ、簡便さの裏にある危険を認識し、慎重に付き合っていかなければならない。その自信がなければ、うかつに触らないことだ。マッチもライターもなければ、炎上もしないし、ヤケドすることもない。


Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images


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