【八村塁の素顔】①後輩力 先輩からの信頼を得るために新人・八村が徹していることとは?

競技者なら誰もが憧れる米プロバスケットボールNBAの舞台で、ルーキーながらチームの主力として存在感を放っている八村塁。コート外でも、チームにすっかりと溶け込み、先輩からの信頼も勝ち取っている。開幕戦を現地で取材したスポーツニッポン木本新也記者が、知られざる八村の人間力を分析した。


先輩からのイジりにも応え、笑いを誘う

先輩のバスケットシューズを片付け、買い出しにも出掛ける。プロ1年目のシーズン序盤から存在感を示しているNBAウィザーズのドラフト1巡目ルーキー八村塁(21)が早々とチームに溶け込めた裏には"後輩力"の高さがある。リーグ開幕から先発の座を守り、デビュー8戦目で通算100得点に到達。これは'06年にウォールが記録した6戦目に次ぐチーム史上2番目に早い記録だ。頼もしいプレーを続けているが、ひとたび試合を離れると、21歳の青年らしい表情が見える。

10月23日。マーベリックスとのリーグ開幕戦を約7時間後に控えた敵地のアリーナで、張り詰めた空気を和ませるやり取りがあった。NBAでは試合当日の昼前後に会場で軽く体を動かす"シュートアラウンド"と呼ばれる時間が割り当てられる。先発デビューが決まり注目を集める八村が報道陣に囲まれたタイミングで、プロ9年目のトーマス(30)から「新人は皆の分を片づけて」とバスケットシューズを3足手渡された。用具係のような扱いは若手をイジるジョークで、日米メディアの笑いを誘った。八村は「(トーマスは)日本にもよくいる先輩みたいな感じ」と苦笑いしながらも、新人をリラックスさせようとするベテランの気遣いに感謝しているようだった。

荷物持ちや、チキンサンド買い出しも

八村は日頃から先輩の荷物を持ったり、遠征のフライト前に同じ新人のロビンソン(22)と一緒にチキンサンドを買い出しに行ったりと、ルーキーとして雑用をこなしている。10月25日には誕生日を迎えた同僚マシューズ(23)のために「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」の歌を日本語で「たんじょうびー・おめでとー」と歌い、チームメートの爆笑を誘った。10月30日のホーム開幕戦ロケッツ戦にはスケルトンにMLBナショナルズのユニホームを羽織ったコスプレで会場入り。前夜に仲間内で開催されたハロウィンパーティーを欠席した罰としてウォール(29)から命じられた仮装を実行した。報道陣の前でポーズを決めてフラッシュを浴びるなどノリノリ。先輩からの指令に全力で応える姿勢に好感が持てた。

空気を敏感に察して振る舞う姿は、まさに後輩の鑑。いち早くチーム内の立ち位置を確立したのは、3年前の教訓があったからにほかならない。'16年に宮城・明成高から米ゴンザガ大に進学。渡米当初はチームに馴染めず、1年目は1試合平均5分足らずの出場時間しか得られなかった。コート内外で自分を表現できなかったことが、力を発揮できなかった最大の要因。英語を話せなかった影響も大きいが、なりふり構わず自我を押し出す周囲の選手たちに圧倒された面もあった。

日本人らしく謙虚に黙々とプレーするだけでは、信頼は得られない。徐々に自分の殻を破り、2年時はシックスマン(先発に次ぐ6番手の選手)、3年時は中心選手として活躍。NBAドラフトで1巡目指名を受けるまでに成長したが、大学1年目の苦闘の日々は今も鮮明に頭に残っている。

「大学の時にすごく大変な経験をしたので、最初が大変になるのは分かっていた。NBAでは心の準備がうまくできていた」。選手の入れ替わりが激しいNBAで1年目をつまずけば命取りになりかねない。若手中心のメンバーで臨む7月のサマーリーグ初戦で、豪快なアリウープダンクを決めるなどチーム合流直後からとばした。コート外でも積極的にコミュニケーションを取りキャラクターを確立。レギュラーシーズン開幕からの活躍につなげた。

現時点ではゴール下に入り込んでのシュート、リバウンド、ミドルレンジからの2点シュートなど得意なプレーに徹している段階。大黒柱のビール(26)にボールが集まる勝負所の第4クオーターはゴールにアタックする回数が極端に減るが「ブラッド(ビール)は1年で20、30億円もらっている。勝負所でその人がボールを持たなくて誰がもつんですかという感じ。僕はルーキー。そういう所はプロの世界なので理解している」と納得している。徐々に相手に研究される中、いかにプレーの幅を広げていくかが今後の課題。先輩を立てつつ存在感を増す作業は腕の見せ所となる。

Text=木本新也 Photograph=gettyimages