【松浦勝人】エイベックスって何の会社?


見る角度で違う会社に見える、IP創造企業へ

僕は普段、街に出ることがほとんどできない。買い物をゆっくりと楽しむ時間も取ることができず、必要なものは誰かに買ってきてもらう。 

10月に誕生日を迎え、周りがお祝いをしてくれた。それをきっかけに、街に出て刺激を受けようと思い、ひさびさにお店に行って、自分で買い物をした。楽しかった。店の人から「こんなに楽しそうに買い物をされる方は初めてです」と言われるほど楽しかった。

それでも、買うのは人のものばかり。若いアーティスト、誕生日を迎えた友人、そういう人たちの顔が浮かび、人のものばかりを選んでしまう。

僕は買い物をするのが好きなんじゃなくて、プレゼントされた人の喜ぶ姿を見るのが、買うこと以上に楽しいんだと思う。どうせ喜んでもらうなら、その人が絶対に買いそうもないもの、なかなか簡単には手に入らないものを探して、もっと喜んでもらおうと考えてしまう。

それが僕の発散になっている。仲間と飲んで騒ぐ、買い物をする。ずっと昔から、そうやって発散して自分のバランスを保ってきたけど、ここのところ忘れていて、適度に発散することをしてこなかった。それを誕生日をきっかけに思いだした。

わずかでも発散をすると、すべてがいい方向に回り始める。体調を管理するために以前からジムと鍼には通っていたけど、今までやっていなかった運動もやってみようという気持ちが湧いてきた。

僕は時々、呼吸がうまくできなくなることがある。それでヨガをやってみた。僕は笑顔がうまくつくれない。それで顔ヨガもやってみた。キックボクシングもやってみたら、思いのほか面白かった。

いろいろな運動に挑戦してみると、、体調もすごくよくなってきた気がする。以前は、腰が痛い、目が開かないというのが普通の状態で、ひどい肩こりで首を回すことができないという日も多かった。それがなくなった。肩こりはあるにはあるけど、以前ほどひどくない。

僕はいつも何かに緊張をしていて、気がつかないうちに身体に力を入れている。それが肩こりの原因だったけど、今は力を抜いた状態でいることを覚えた。

不思議なもので、発散をして体調がよくなると、仕事にもいい影響が出てくる。仕事が忙しくて、時間を無理につくって発散もする。そういう時のほうがいいアイデアが出てくる。

僕はもう何かの作業をするという仕事はほとんどない。考える、発想する、これが僕の仕事。思いついたことをそれぞれの担当チームに投げ、彼らが形にまとめてくれる。それを見て、ああでもないこうでもないと検討して、担当チームとビジネスの形に組み上げていく。そういう仕事の仕方になっている。自宅でお酒を飲みながらあれこれ考えている時に、いいアイデアが出ることも多い。

今、世間ではいろいろなジャンルで潮目が変わろうとしている。音楽だって、ミュージシャンがスタジオに集まってレコーディングしなくてもよくなるかもしれない。東京、ソウル、ロスにいるミュージシャンが、クラウド経由でレコーディングができるようになる。今は、回線の遅延が大きな問題だけど、いずれ解決される。レコーディングと同時に、アバターを使ってプロモーションビデオも製作できる。それをユーチューブに投稿すれば、そこから人気バンド
が生まれるかもしれない。

ゲームの世界もeスポーツが大きな潮流になっていく。ゲームをプレイする人、実況をする人、それを見る人、さらにはベッティングをして楽しむ人が出てくる。賭けるのが問題なら、これから日本にもできるカジノリゾートで扱えばいい。日本独特のカジノができる。お金を賭けるのが問題だというなら仮想通貨を使えばいい。eスポーツの仮想通貨が発行され、その種目が人気になれば仮想通貨の価値も上がる。賭けるだけじゃなく、投資をする人も出てくる。eスポーツに魅力を感じた企業が、チームやゲームのスポンサーになることだって起きてくる。

Vチューバーのシステムを使えば、ひとりでもアニメがつくれるようになる。そうなると、アニメ業界とは無関係の人がアニメをつくるかもしれない。既存のアニメとはまったく違った新しい発想のアニメができる。そこに何かが生まれる。

今までと違うのは、外に向かって開いていくこと。音楽、ゲーム、アニメは今までジャンルという壁の中に閉ざされていた。それが開き、クラウドや仮想通貨、SNSというテクノロジーと結びついていく。ゲームはゲームとは呼べないエンタテインメントになり、アニメもアニメとは呼べないエンタテインメントになる。音楽会社、ゲーム会社、アニメ会社という呼び方も古臭くなっていく。

エイベックスはIP創造企業になる。アーティスト、エンジニア、クリエイターという人たちとエージェント契約を結び、IP(知的財産)を、今までに増して積極的に生みだしていく。

そして保有しているIPを場合に応じて、音楽にしたり、アニメにしたり、ゲームにしたりして提供する企業になる。音楽はつくるけど音楽会社ではない。アニメはつくるけどアニメ会社でもない。映画やアプリもつくるかもしれないけど、映画会社でもアプリ会社でもない。

中心にあるのはIPで、それを自在な形で世の中に提供していく。たまたまゲームを手にした人にはゲーム会社に見えるかもしれないし、音楽を手にした人には音楽会社に見えるかもしれない。そのような企業を、なんと呼ぶべきなのか、僕にもまだわからない。見る角度によって、音楽会社に見えたり、アニメ会社に見えたりする。僕たちが目指す方向はこれではないかと思う。それも2020年とか’21年には、そうなっていないといけない。その時、世の中から「エイベックスって昔はレコード会社だったの?」とびっくりされるようになっていたい。

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Text=牧野武文 Photograph=有高唯之


松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。
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