ジャーナリスト 上杉隆 彼をうならせた ジャーナリズムの先輩たちの言葉

優れた実績を持つジャーナリストには、あまたの体験から身に付けた自分だけの信条がある。フリージャーナリストの上杉隆はかつてインタビューの場で出会った久米宏や故氏家齊一郎が発する言葉から、ジャーナリストとしてあるべき姿勢を知った。

多様な意見があってこそ民主主義。
違う意見を排除する空気は危険

 ジャーナリストの姿勢を再確認させられた言葉として、上杉隆は今もふたりの人物の発言をはっきりと記憶している。ひとりは、久米宏。もうひとりは、今年の3月に84歳で他界した、日本テレビの氏家齊一郎元会長だ。
「僕は、100人の視聴者がいたら、そのうちの10人が賛同してくれたらよしとしたんです」
 雑誌のインタビューの席で、久米は上杉に語った。2003年。テレビ朝日の『ニュースステーション』に出演していた時期だ。
「かつては久米さんもすべての人を意識して語っていたそうです。だがそうすると、発言に妥協が生じたり、あいまいになり、肝心なことを伝えられないことがある。だから、敵を作ることを恐れず、少数を意識して話す姿勢を貫いたそうです」
 その言葉を聞き、上杉も「敵を作ってもいい」という気持ちをより強く持つようになった。
「僕の場合は目論見が少し外れて、100人のうち10人ではなく、1人くらいしか賛同してくれませんけど。でも、それでもいいか、という気持ちでやっています。自分の発言に賛同がなくてもまったく気にならなくなりましたね」
 故氏家氏との出会いも、雑誌のインタビューの席だった。こちらは'05年のこと。
「人脈のメンテナンスは欠かさない。そしてその人脈を人に話さない」
 氏家氏の言葉にもまた、強い説得力があった。
「メディアを通してのイメージよりもはるかに多くの人脈を持つ方でした。日本の政財界は言うに及ばず、海の向こうにも太いパイプがあった。中でもキューバのフィデル・カストロ前議長とは30代から親しく、その人脈からチェ・ゲバラにも面会しています」


 記者時代の氏家氏は、数々のスクープをものにしてきた。特に世界的なのが、ベトナム民主共和国初代国家主席、ホー・チ・ミンの死去である。このスクープにはカストロとのパイプが役立った。
「1969年、ホー・チ・ミンはベトナム戦争中に心臓発作で急死しています。当時、共産主義の北ベトナムに西側の記者はなかなか入れなかった。そこで、氏家さんはカストロに“保証人”を頼み入国しました。ベトナム戦争の取材が目的でした。ホー・チ・ミンのインタビューを取るはずが、突然の死を知ることになったのです」
 世界を巡ったUPIやロイターの通信文のクレジットは「SEIICHIRO UJIIE」だった。
「こうした氏家さんの人脈は意外と知られていません。自分からは決して口にしないからです。相手にも自分にもプラスにはならないから、と。人脈を利用されるのを避けたかったこともあるでしょう。ただし、人脈の“メンテナンス”は怠らなかった。カストロとは文通を継続していました」
 そのメンテナンスが大スクープにつながったのだ。
 こうして上の世代のジャーナリストの心得を受け継ぐ上杉に、自分自身の座右銘を聞いた――。
「多様な価値観」
 この文字には、現在、上杉が痛感している気持ちが詰まっている。
「烏賀陽弘道さんとの対談をまとめた新刊、『報道災害【原発編】』でも話していますが、多様な意見を受け入れる余裕こそが、今の日本では欠かせないと思います。多くの日本人は、自分が多数派であることに安心感を見出し、少数派を排除しがちです。しかし原発問題だって、必要と不要という両方の意見があってはじめて、健全な議論ができる。にもかかわらず意見を同一化し、少数を排除する空気は危険だと感じます。誰もが多様性を受け入れる気持ちを持たないと、いつか大きな間違いを犯すと危惧しています」

100人の視聴者のうち10人が賛同してくれればいい。/久米宏

人脈のメンテナンスは欠かさない。そしてその人脈を人に話さない。
/日本テレビ元代表取締役会長 氏家齊一郎

Takashi Uesugi
1968年、福岡県生まれ。NHK報道局、鳩山邦夫公設秘書、『ニューヨーク・タイムズ』東京支局記者を経て2002年よりフリージャーナリストとなる。フリーランス、雑誌メディア、ネットメディアなど記者クラブに入れないジャーナリストの有志の会「自由報道協会」暫定代表。『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)、『官邸崩壊』(新潮社)など著書多数。最新刊は『報道災害【原発編】』(幻冬舎新書)。ゴルフジャーナリストとしても活躍している。ツイッターのアカウントは@uesugitakashi

Photograph=岡村昌宏 Text=神舘和典

*本記事の内容は11年7月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい