【インタビュー】ベンチャー界の風雲児、BANK光本勇介の頭の中はどうなっているのか?

誰でも簡単にオンラインストアを作れる「STORES.jp」、目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わるアプリ「CASH」、あと払い専門の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」。話題のサービスを次々に生み出し続けるのがBANK代表・光本勇介氏だ。常識を疑い、固定概念に囚われず一見"狂った"ように見えることで多くの人々のニーズを満たすアイデアはどのように生み出されるのか。「最初のビジネスは高校時代」という光本氏に、ビジネスに対する考え方や、アイデアの生み出し方について話を聞いた。

欲張りに経験し、チャレンジする自信に繋げる

小学生の頃の得意科目は工作。なにかを作ることが昔から好きでした。ビジネスの世界に足を踏み入れたのは高校時代。インターネット上の掲示板で、洋服の販売を始めました。お店で商品を購入し、それをネット上の掲示板で売る。いま考えれば、ビジネスとは呼べない単純なものでしたが、ビジネスの仕組みを作るおもしろさを感じました。「どこで仕入れて、誰に売るか」ということを考え、その仮説に基づいて動いてみる。商品が実際に売れると嬉しくて、将来的にはもっと規模を大きくして、もっといろいろな商品を扱いたいと思いました。後の「STORES.jp」の原点ですね。

初めはままごとのようなビジネスでしたが、少しずつ規模が大きくなり、大学生の頃には、新卒の手取り分くらいのお金は稼げていました。卒業後、そのまま続けていくこともできたのですが、就職しようと決意。社会全体の仕組みやビジネスの動かし方をきちんと学びたかったためです。その頃は、敬語の使い方さえ知りませんでしたから。企業に勤めて、一般的な会社では物事がどのように動いているのかを知ることは、将来的にプラスになるだろうと思いました。大学を卒業し、外資系の広告代理店に就職しました。

広告代理店での仕事は予想以上におもしろかった。いろいろな会社のマーケティングやPRに関わることができて、ひとつの場所にいながら多様な分野のプロジェクトに携わりました。欲張りな性格の自分に合っていたと思います。いい社会勉強になりましたね。この経験がなければ、起業して、すぐにビジネスを軌道に乗せることはできなかったと思います。約4年間勤め、27歳で起業の道を選びました。

失敗は成功を得るための資源

当初の目標通り起業したものの、順風満帆にはいきませんでした。僕が起業したのはリーマンショック直後。いまは起業に対しての理解も深まり、お金が調達しやすい状況ですが、その頃はベンチャーキャピタルの財布のひもが固い時代。資金の調達ができず、自己資本で進めるしかありませんでした。十分な資本がなかったので、最初の3年間は従業員を雇うことができず、自分ひとり。三軒茶屋のアパートを住居兼オフィスにして、食べていくのがやっとという状況でした。通帳の残高が、2万円しかなかったときも。苦しくなかったですか、とよく聞かれるのですが、僕にとってはやっと実現できた起業。毎日が刺激的な経験で、後悔したことは一度もありませんでした。会社勤めに戻れば、食べていけるということもわかっていたので、怖さも感じませんでしたね。

最初の起業から10年の間に、さまざまな事業を立ち上げました。全部で7~8つになります。いろいろなことに挑戦したいという気持ちもありましたが、それよりも売り上げを増やすために作らざるを得なかったというのが正直なところ。お金を調達できず、自己資本で事業を行うということは、赤字になるとその瞬間に倒産してしまうということで、常に黒字を作っていかなければなりません。そのため、少しでも売り上げの足しにしようと、事業の数を増やしていったわけです。

もちろん、手がけた事業がすべて成功したわけではありません。失敗のほうが圧倒的に多い。今までより大成功と言えるのは、2012年にリリースした「STORES.jp」が最初です。たくさん失敗しましたが、それがよかった。成功よりも失敗のほうが学べることが多いし、一度失敗すると同じ失敗を繰り返さないようになります。「成功確率を高めるにはいっぱい失敗すること」と、BANKの社員にも伝えています。

現金を"瞬時に"必要としている人に届けたい

個人がネットショップを開設できるサイト「STORES.jp」が約100万店舗の規模になると、運営を続ける中で、利用者が抱えるひとつの課題が見えてきました。それは「多くの人が現金を必要としている」ということです。

「STORES.jp」の振り込みシステムでは、商品が売れた日と入金日までに、時差があります。月末に締めて、翌月末に振り込まれるため、各店舗は入金を約1ヵ月、待たなければなりません。でも、すぐにお金が必要なこともある。そこで「STORES.jp」の管理画面に、売れた翌日にお金が振り込まれる「スピードキャッシュ」というボタンを設置しました。早期振り込み手数料は、3.5%と決して安くない歩合。これだと、それほど利用者はいないと思っていたんです。ですが、予想以上に利用者が多く、なかには毎日ボタンを押す人もいた。「世の中には、現金がすぐに必要な人がこんなに多いんだ」と、改めて実感しました。

僕自身、現金の調達に苦しんだ経験があったので、現金が欲しい人に、その場で現金を渡せるサービスを作りたかった。数万円ほどの小額のお金がなくて困っている人が多いのなら、すぐにでも渡してあげたい。「どうすれば、現金を必要としている人に瞬時にお金を渡せるか」。考えた結果、お金はなくても周りにモノはあるのではないか、と。そこから、目の前のアイテムをすぐに現金に変えられるサービスを思いつきました。それが、瞬時に小額の現金のニーズに応えられるサービス・アプリの「CASH」です。

「CASH」は大反響でしたね。昨年6月にリリースしましたが、その2ヵ月後にDMM.comから買収のオファーをいただきました。僕にはアイデアを出し、事業を作り上げるノウハウがある。でも、大きな資本はない。金融マーケットという大きな市場で「CASH」を育てていくためには、資金力のあるDMM.comと組むことが大きなメリットになると感じました。

ビジネスの根底にあるのは、性善説

今年リリースした「TRAVEL Now」も、手元に現金がない人が、思い立った瞬間に旅行に行けるようにと開始したサービスです。例えば「今月は有休がとれるから、旅行に行きたい!」と思っても、お金の都合がつかなければ諦めるしかありません。ですが、お金の都合がついた次の月では、仕事が忙しく休みがとれない。そんな状況は往々にしてあります。そこで、まずは旅行を楽しみ、お金が手元に入ったときに支払う。旅行業界のマーケットは大きいですが、スピーディかつ、後払い可能というカジュアルさで、旅行のニーズに応えるサービスはほとんどありませんでした。

「CASH」や「TRAVEL Now」のように、先に現金やサービスを提供する事業に対して「未回収になるリスクはないのか? 」といった質問を受けます。僕は"世の中、大部分がいい人"という、性善説に基づいてビジネスを行っています。実際に「CASH」「TRAVEL Now」ともに、ほとんどの人がアイテムの発送やお金の支払いをきちんと行ってくれている。もちろん、ごく少数、ルールを守らない人もいますが、全体としてマイナスにはなりません。

この説に基づいて考えてみると、人にルールを守らせるためにある既存のサービスは、不必要になるかもしれない。例えば、電車の自動改札機。これは、無賃乗車を防ぐために取り付けられていますが、大部分の人は自動改札機がなくても料金を支払って乗車するのではないでしょうか。少数のルールを守らない人のために全国に自動改札機を取り付けるコストを考えると、改札機を設置しないほうが、全体の利益は増えるかもしれません。

狂ったようなことをしよう

事業を作ろうと思って作る、というよりは、インターネットの仕事をしていない "普通の人"として生活している時間に「こういうサービスがあるといいな」と思ったり、「不便だな」と感じるできごとに対して「こうすれば解決できるのでは」と、アイデアが思い浮かぶことが多いです。シャワーを浴びているときや、運動しているとき、買いもの中、街をブラブラしているときなど、なにも考えずに生活しているときですね(笑) 。意識的に行うのではなく、僕自身がインターネットから離れて、自然体でいる時間。そういう時間はつくるようにしています。

自分の頭の中のネタ帳は、一軍、二軍、三軍と分かれていて、定期的に見返して更新しています。事業はタイミングが重要なので、あまりおもしろくないと思い三軍に入れていたアイデアに対しても「このタイミングなら、おもしろいかも」と、一軍に昇格させることも多々あります。「CASH」の構想も「現金を瞬時に必要としている人に渡したい」という想いをどうすればカタチにできるだろう、とネタ帳を見返したときに「このアイデアを活かせば実現できるかも」と、以前思いついたアイデア同士を掛け合わせてつくり出しました。

一軍から三軍まで、常に数10個ほどのアイデアをあたためています。結果的にカタチにできるのは、全体の1〜2%ほど。その中でも、利益を生み出せる事業を立ち上げられることは、奇跡に近いと思っています。なので、新事業を立ち上げる際は、鼻息荒く挑むというよりは、実験的な感覚でいますね。今も実験中だと思っています。

毎年、1年のはじめにその年のテーマを決めていて、昨年は「今年はお金の年になるのでは」と思い「CASH」をカタチにしました。結果的に、昨年はお金の年になったと思います。今年は旅行の年になると思い、ネタ帳から旅行のアイデアを引っ張りだして「TRAVEL Now」をつくりました。世の中の動きも含めて、今年は旅行の年になりそうだ、と感じています。

BANKが掲げる精神のひとつに「狂ったようなことをしよう」という言葉があります。これだけ便利になった時代、当たり前のことを始めて、ビジネスとして成り立たせるのは難しい。0か100か振り切らないと、新しいものはつくれません。狂ってる、と周りに思ってもらえるかどうか、ということは事業を作るうえで常に意識しています。僕は、まったく今までにない市場をつくりたいし、つくっているという実感がある。そして、そういう領域はまだまだたくさんあるとも思っています。僕は、インターネットが大好きで、Wi-Fiがないと呼吸ができない(笑)。常に、世界中の情報に触れていたい。アンテナは張っているほうだと思うし、情報感度も高いと思います。先に、まったく今までにない市場をつくりたい、という話をしましたが、新しいものとは、つまり、既存のもの同士の掛け合わせから生まれるもの。ストックはあればあるほど力になると思います。

これからも、世の中の常識を覆すような振り切ったことをしていきたいですね。


●愛読書
本はほとんど読みません。あえて挙げるのなら、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と『ドラえもん』。"こち亀の両さん"は究極のビジネスマン。社会を生き抜く知恵にあふれています。『ドラえもん』は、新規事業のネタの宝庫。ドラえもんの道具をアプリ化すれば、大きな成功をつかめるような気がします。実際、世の中にはそういったアプリがあふれている。Googleマップやストリートビューは、"どこでもドア"をアプリ化したもの。後から気が付いたのですが、"自動買い取り機"という道具は僕が立ち上げた「CASH」と同じ仕組みだと思います。

●座右の銘
特にありません。既存の常識的なことに縛られるのが嫌なので。強いて言えば、会社の方針である「狂ったようなことをしよう」ですね。

Yusuke Mitsumoto
1980年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2008年、ブラケットを創業し、'12年に「STORES.jp」をリリースする。'13年、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの100%子会社となるが、'16年、MBOにより独立。'17年2月にBANKを設立し、同年に目の前のアイテムを一瞬で現金に変えられるサービス「CASH」をリリース。DMM.comが70億円で買収したことで、話題を集めた。そして設立から1年後の'18年6月には、あと払い専門の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」をリリースした。
BANK
2017年設立。「お金に関する問題を今までにない新しい方法で解決し、すべての人の可能性を広げる」ことをミッションに掲げ、インターネットビジネスの企画、開発、運営を行う。
https://bank.co.jp/

Text=川岸徹 Photograph=太田隆生