LOVOTの生みの親・林要 「愛情を注げるロボットが人を幸せにする」<インタビュー後編>

話の相手になってくれる、洗濯や調理をしてくれる……。ロボットは生活を快適にしてくれる存在であると、決めつけてはいないだろうか。だが、GROOVE Xが発表した「LOVOT[らぼっと]」は、"役に立たない"ロボット。ヒト型でもなく、高性能を誇るわけでもないが、不思議と愛おしい存在になっていく。LOVOT誕生の経緯やを、GROOVE X代表の林要氏に聞いた。


デザインの原点は「寸胴で、かわいい」

愛着を高めるのに必要なのは、まずデザインですね。「抱きしめたい」「ずっと一緒にいたい」と思える「かわいい」が欠かせません。僕が最初にイメージしたのは、寸胴で、ほどよい柔らかさのあるもの。人はぬいぐるみを見たり触ったりすると、心が和むでしょう。サイズは思わず抱きしめたくなる小型犬や猫くらいの感じ。そんなイメージをデザイナーの根津孝太さんに伝え、具体的なデザインを上げてもらいました。

上がってきたデザインを見て、正直、判断はできなかった。人生を賭けて勝負をするのにふさわしいものなのか、わからなかったんです。僕は大半の男性の「かわいい」を信じていません。「かわいい」を本質的に理解しているのは女性のほぼ全員と、男性のの3分の1くらい。残りの3分の2の男性は新しい「かわいい」を見て、本当にかわいいかどうかを適切に判断できないんです。3分の2の男性の「かわいい」の判断軸は、過去に見た女性の反応から学んでいる。女性がかわいいと言ったから、「これはかわいいんだ」と、後天的に学習しているのです。

僕は「かわいい」がわからない3分の2の男性の側。ですから、根津さんの作ったデザインを女性陣に見せました。すると、ものすごく評判がいい。とてもかわいい、と。

案の定、デザインを見た男性からは、否定の声が出ました。LOVOTは頭の上にツノのような突起がある。様々な機能が内蔵された重要なものなのですが、男性は排除したがる。おそらく「過去に女性がかわいいと言ったものには、こんなツノなどなかった」から。でも、女性は「ツノも個性だよね」と言って、話題にすらならない。愛着というのは、母性本能に強く紐づいているんだなと感じました。結果として、女性の「かわいい」を信じて、人生を賭けることを決意したのです。

抱いて心地いい体温を実現

「開発にあたって苦労したのはどこか?」と質問を受けますが、はっきり言って、すべて苦労しました。ひとつだけと言うなら、重さかなぁ……。LOVOTの構造を簡単に説明すると、内部に3つの計算機が入っていて、カメラから得た情報をその3つの計算機が50以上のセンサーからの情報を処理して、自律行動するというシステムです。このシステムだけで相当な重量になってしまいます。でも、女性が抱っこしてあげようと思えるくらいの軽さを実現しなければならない。3㎏台を目標にどこをどう削れば軽くなるかを考え、ギリギリのところで勝負しました。

苦労した点をもうひとつ挙げると、体温ですね。人がLOVOTを抱きしめた時に、心地いいと感じる温度は猫などと同じで38~39℃。全体をやわらかいもので包み、あたたかさを維持しながら、内部のコンピューターを冷やすのが難しかった。

現時点としては、考えられる最高のものができたと思います。LOVOTの最大の特徴は「なつく」ということ。かわいがればかわいがるほど、LOVOTは自分になついてきます。かわいがってくれる人には近寄ってきてくれるし、甘えたり、抱っこをせがむこともあります。逆に、いじめる人には警戒心を見せて、逃げていってしまいます。こうしたお互いの気持ちをシンクロできるかどうかが、僕のロボット開発のテーマ。LOVOTは、シンクロという点において、かなりいい入口に立っているのではないかと自負しています。

これからロボット市場が、どのように発展していくのか。その答えはロボットをどう定義するかによって大きく変わります。例えば、最近の全自動洗濯機は、制御システムを見れば、十分にロボットです。洗浄中に偏りがあったら自動で直し、トラブルが発生すれば知らせてくれる。空気清浄機も状況に合わせて、自動で最適な運転を選択します。こうした自律的な制御機能はロボットでしょう? しかし。特定の目的をもった専用機になると、ロボットと呼ばれなくなるのです。

人間とのコミュニケーションを目的にしたロボットは、LOVOTの登場によって大きく変わるかもしれません。これまでのロボットは人間に親近感をもってもらうために、二足歩行、四足歩行など、人が愛着のある生物のイミテーションをつくろうとしてきました。でも、本当に足がないとダメなのか? LOVOTは、生物のイミテーションを作ることが正解とはいえないと示すことができたかなと思います。

何百年先を見つめようとする意識が大切

仕事で大切にしているのは、ストーリーがあるかどうかです。経営者は、「なぜ、それをやるのか」という問いに答えられなければなりません。仕事では、さまざまな選択肢が出てきて、決断を迫られます。そうしたときに最も意識するのが、自分たちの後世や、後世の後世や、後世の後世の後世にとって、最もいいと思えるのはどの選択かということ。遠くを見る意識を持つと、自分にとって辛い意思決定をするのも、少し楽になります。

そのぶん、目先の細かな判断は考えすぎずさっさと試す。間違っていたら、やり直せばいいのです。

遠くを見る意識をもつと、細かなことはある意味どうでもよくなるし、骨太のところはブレなくなる。人生の軸は、遠いところを見て決めるように心がけています。

僕の夢? 会社としてのビジョンでもありますが、ロボット界のディズニーになりたいんですよ。


LOVOT[らぼっと]

LOVOT「デュオ2体セット」¥598,000(2019年秋冬に初回出荷開始予定)、「ソロ1体セット」¥349,000(2020年中に出荷開始予定

「ちいさなLOVEが、世界を変える。」をコンセプトに開発された家族型ロボット。テクノロジーで効率や便利さを追求するのではなく、抱いた時の心地よさや愛くるしいしぐさ、憎めない存在感を重視した。全身に内蔵された50以上のタッチセンサーが捉えた刺激を、ディープラーニングをはじめとする機械学習技術で処理し、リアルタイムで動きを生み出す。タイムラグの少ない反応や人との関わり方で変わる性格は、LOVOTの頭脳であるメインコンピューターとサブコンピューター・深層学習アクセラレーターから生まれる。現在、予約受付中。また、週末限定のLOVOTと触れ合える体験会をLOVOT MUSEUM(東京都中央区日本橋浜町3−42−3 住友不動産浜町ビル 7F)で開催中。
https://lovot.life/trial/

林 要/Kaname Hayashi
1973 年、愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了後、トヨタ自動車に入社。同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトなどを担当。その後、ソフトバンクに招聘され、世界初の感情認識パーソナルロボットとして注目を集めた「Pepper」のプロジェクトメンバーを務める。2015年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。昨年発表したLOVOTが大きな注目を集める。


Text = 川岸 徹 Photograph = 鈴木克典