【社長が明かす】メルカリ小泉文明の"精鋭集団を潤滑に動かす"人心掌握術

家で眠っていた不要品がたった数分で売れる!? わずか5年で国民的フリーマーケットアプリとなった 「メルカリ」。アプリダウンロード数は全世界合計1億超、1カ月の流通額は100億円超。その爆走成長の裏には、時代の先ゆく働き方改革があった。


フラットな応対で社員を惚れさせる巻き込み型リーダー

2013年の創業からわずか5年。フリマアプリ「メルカリ」は、売買に絡む手続きをスマホで完結できる使い勝手のよさで先行他社との差別化を図り、ユ ーザーを自社アプリに熱中させて急成長を遂げてきた。その勢いは留まることを知らず、過剰生産で飽和状態となった資本主義社会にCtoCによる循環型経済をもたらそうとしている。 

メルカリが掲げる「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを達成すべく、現在、会長兼CEOの山田進太郎氏は海外を中心に活動。そして国内での事業を一手に引き受けているのが、ミクシィでCFOまで務めた社長兼COOの小泉文明だ。 その他経営陣も、フェイスブックでヴァイスプレジデントを務めたジョン・ラーゲリン氏や、元グリーCFOで同社を東証一部上場に導いた青柳直樹氏など、ベンチャー界で「ドリーム チーム」と称される猛者が集う。

仙台と福岡のオフィスを サテライトで結び行う全体会議には山田氏の姿もあった。小泉は社員の前でも山田氏を下の名前で呼ぶ。

豊富な人材が支えるユニコーン企業

「ほぼすべての経営陣に起業や経営の経験があるのがメルカリの強み。それぞれ得意ジャンルが違うので、何か課題があっても対処法が幾とおりも出てくるんです。山の登り方をいくつも持っているほうが会社は強くなる」

そう小泉が語るように、日本が誇るユニコーン企業(未上場ながら評価額 10 億ドル超えの企業)となりえたのは間違いなく人材の力。どうやって、これだけの精鋭を引き寄せたのだろう。 

「事業を自ら興すアントレプレ ナーは2タイプに分かれると思っていて。ひとつは小さくてもオーナーシップにこだわるタイプ。もうひとつは会社を通してより大きなことを実現したいタイプ。僕も他の経営陣も完全に後者で、ここなら大きなイノベーションが起こせると集まったんです」

山田氏が「CtoCにはグーグルの検索エンジンやフェイスブックのSNSぐらい社会にインパクトを与える可能性がある」と語るように、メルカリは世界を照準にフェーズを移している。その目玉となるのが金融関連事業を行う子会社「メルペイ」の設立だ。代表取締役に先述の青柳氏を迎え、モバイル決済サービス等の準備をしている。また、ネットの領域を飛びだし、今年2月にはシェア自転車「メルチャリ」といったリアル事業も展開。爆走を支えるべく社員数も1年前の約2倍に増えた。さらにプラットフォームを強化すべく、昨年は世界最高峰のエンジニアを輩出するインド工科大学(IIT)から30人以上を採用している。

価値観を〝見える化〞し、徹底的に浸透させる

多様化する社員の国籍にも世界戦略が透けてみえるわけだが、さまざまなバックグラウンドを持った社員を束ねるにあたり、重要になってくるのがスムーズな合意形成だ。そこで小泉はミッションを達成すべく、社員で共有すべき価値観(以下、バリュー)を「Go Bold/大胆にやろう」「All for One/全ては成功のために」「Be Professional/プロフェッショナルであれ」の3つに定めた。そのバリューを来客に配るペットボトルや社員用Tシャツ等にプリントし、徹底して"見える化"。その根底には、ミクシィ時代の反省がある。

「ミクシィ時代もバリューを決めてはいたんですが、社員への刷りこみが足りなかった。軸となる価値観がないと、求心力のあったサービスが衰えをみせた時、みんながバラバラのことを言い始めてしまうんです」

バリューのなかでも重視しているのは、現状を"前向きに"否定し、ベストな方法を模索することを促す「Go Bold」。

「そこにじっと立っていろと言われたら誰だって数分でグラグラしますよね。つまり、安定していることは不安定なんです」

毎日のように新しい顔ぶれが加わるため、 新入社員の名前を風船に書き、自席にくくりつけている。

価値観の共有を謳うだけでなく、実践も徹底している。メルカリの社員は、チャットアプリ「Slack」やミーティングでも、「それはGo Boldじゃないよね」など意識的にバリューを使用する。また、自社メディア「メルカン」でも社の方針や構想をオープンにし、採用候補者にもバリューをアピールしている。

「ノウハウを開示したらパクられない? とか、優秀な人材を出すとヘッドハンティングされるんじゃ? と心配されたりもしますが、ひとつとして同じ会社はないのでノウハウをそのまま適用するなんてできないはず。むしろ、発信することでもっとメルカリのことを知ってもらい、働きたいと思ってもらえれば」

過去にはブログやSNSでメルカリファンを公言する人物を一本釣りし、採用したことも。その他の採用はエージェント経由を極力抑え、社員に人材を紹介・推薦してもらうリファラル採用か直接応募を徹底。小泉も自ら優秀な人材を口説いてきた。

「この業界だとエージェントの手数料は平均して30%から35%。年収800万円の社員なら240万円です。高いですよね? また、エージェントベースの採用は100人採用する際に1万人を集めてふるいにかけています。つまり、母集団を大きくするためにエージェントを活用するわけですが、僕らはメルカン等を使って会社の魅力をアピールし、価値観を共有できる100人が応募してくれればそれでいい。その分のお金を社員に払うほうがよくないですか?」

その言葉を体現するのが人事制度の「メルシーボックス」だ。「女性は出産前10週間と出産後6ヵ月間の給与を100%保障。男性も配偶者の出産後8週間の給与を100%払う」という内容は、小泉が率先して育休を取ったニュースとともに社会にインパクトを与えた。その後、「メルシーボックス」は介護休業の面でも拡充。Go Boldに働ける環境の一助になっている。

既存の勉強やお金に懐疑的だった少年時代

話をしていて驚くのは小泉のフラットさだ。取材中も社員をあだ名で呼び、個人面談は「最近、何か楽しいことあった?」と雑談からスタート。月1回開催される達成会では自らいくつものテーブルを回る。社員も実に気さくに小泉に声をかけるのだ。そんな小泉が育ったのは山梨県の山間の村。小学生時代は45分かけて通学し、私立高校が新設した中学に進んだ後は、3年間先輩がいない自由な校風のもとですくすくと育った。

月に1 度、業務終了後に行われる達成会でのひとコマ。達成会の幹事は持ち回り制。この日のテーマは「ダイバーシティ」で各国の料理が並んだ。 ちなみに社長室は特になく、小泉も一般のメンバーと同じ島で仕事をする。

「とにかく新しいものが好きで、中学の頃からMacを使って簡単なゲームを作っていました。勉強はキライで、学校をサボってよく東京に行っていましたね。中3の時に、当時まだ誰も目をつけてなかったナイキのエアマックス95を買ったんですけど、その後、自分の感覚でいいと思ったものがムーブメント化し、とてつもない値段になっていくのを目の当たりにして。あれがすべての原体験かもしれません」

大学ではテニスサークルに所属、250人の部員を束ねた。そこで身についたのは、人をやる気にさせるマネジメント術だ。

「とにかく人が来てくれるサークルにしようと、新歓のチラシに企業広告を入れて印刷代を捻出し、数万枚は配りました。結局飲み会に400人近く集まって、100人以上帰したのかな。飲み会も各部員のキャラクターを把握して、誰をどこに配置するかまで決めて。自分は完璧じゃないけれど、役割分担を決めてみんなに助けてもらえば、"250人を楽しませる"という大きな目的でも完遂できるというのは、その時に学んだかも」

部下に対してもダメな点を指摘することはない。その人の強みをよく観察し、一番活かせる場所で組み合わせるのが小泉流だ。曰く、「それが経営者の腕の見せどころじゃないですか」。

経営は、やめることを決めることこそ難しい

ここで小泉に個人的に第4のバリューを持つのか聞いてみた。「うーん、死ぬ時に『あれやり残した』と思わない人生ですね。これまでに仲のよかった友人が何人か亡くなっていて、死はすぐ傍にあるんだと実感したことが大きいです。それに人間って賢いから、物理的に不可能なこと以外、できないことはないんじゃないかと思っているんです」

小泉には、やりたいことをすべてやるために重視していることがある。

「たいていのベンチャーの経営者は365日、仕事のことを考えているので、会社のアキレス腱がどこかわかっているはずなんです。だけど、問題を見て見ぬふりして行動に移せない。でも、悪い予感って9割がた現実になるし、その時点で手を打とうとしても取り返しがつかない。だから、スピーディーに実践することを常に意識しています」

直近では地域コミュニティアプリ「メルカリ アッテ」のサービス提供を5月末で終了すると決断。DL数は750万超え。やめる理由が見当たらないと経営者仲間からは驚かれたという。

「リソースは有限なので、経営資源を集中すべくサービス終了の判断を下しました。経営ってやることを考えるより、やめることを考えるほうが難しいんですよ。だけどそこは僕が率先してやらなきゃと思っています。経営者なんで」

ふらりと出向くという代官山蔦屋書店にて。「インテリアやデザイン系を手にすることが多く、気がつけば5 、6 冊買っていますね。特に紙の手触りを含めた雑誌の世界観が好きで、もっぱら雑誌はリアル店舗で購入しています」
Fumiaki Koizumi
1980年山梨県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBC(現大和証券)に入社しIPO支援を担当。2007年にミクシィに転職し取締役CFOに。’12年退社、スタートアップ支援をしながらニート生活を満喫。’13年にメルカリ
入社。’17年より現職。
Text=山脇麻子 Photograph=滝川一真

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