中田英寿 不可能を可能にした男 何かを不可能と考えることはない

かつて夢と呼ばれていたサッカーワールドカップに日本を導き、欧州リーグではトッププレイヤーとして活躍。引退後も国内外を飛びまわりながら、一般財団法人「TAKE ACTION FOUNDATION」を設立した元プロサッカー選手の中田英寿氏。チャリティマッチや伝統工芸振興のためのガラを開催するなど、アスリートの枠を超えた活動を続け、大きな成果を生んでいる。

他人に何を言われようと、自分が正しいと思うことを楽しむだけ

 そこにはがむしゃら、ひたむきなイメージはない。むしろ淡々と目の前にある課題をクリアしているような印象を受ける。
「確かに僕は、何かを不可能だと考えることはないですね。逆に言うと、不可能なことは考えない。自分がクリアできる可能性があることしか思いつかないんです。例えば僕はヨーロッパでプレイしたいと思ってサッカーをしていたわけではなく、ただサッカーが上手くなりたいと思いながら、毎日の試合や練習を積み重ねていっただけ。
 10年後は見ない。1年後すら見ないですね。最初からヨーロッパでプレイしたいと考えていたら、不可能だと思ったかもしれないけど、目の前にある壁を越えていくうちに、それが実現した。サッカーだけでなく何でもそんな感じ。だから何かを不可能だと思うことがないんです」
 もちろん「自分なら何でもできる」と傲慢に考えているわけではない。むしろ謙虚に冷静に自分を見つめたうえで目標に向かっているのだ。ただ誰もがそのように、目の前にある壁を越え続けられるわけではない。そこには強い意志の力が必要だ。
 '08年、「TAKE ACTION」として最初のチャリティマッチを開催した時、少なからず批判の声があった。それは、この試合がソーシャルビジネスの考え方を取り入れたものだったため、一部で「金儲けが目的」という誤解を招いたのだ。

他人から何を言われてもブレない

「結局大切なのは、誰かの評価ではなく、自分のために、自分が楽しむためにやるということ。自分で正しいと思うことを楽しみながらやっていれば、絶対にプラスになる。TAKE ACTIONの試合に関して言うと、1回で仕組みが理解できない人も、2回3回と重ねれば理解できるようになるはず。だから何を言われても、ブレたりすることはなかったですね」
 震災が起きた3月以降、中田さんは世界各国でチャリティマッチを主催、あるいは参加し、多くの寄付を集めた。台湾で出演したテレビ番組では総額200億円以上の義援金が集まったが、こういった場に彼が呼ばれるのも、TAKE ACTIONで活動を続けてきたからに他ならない。
 そんな中田さんが今またひとつずつ積みあげているものがある。それは'09年にスタートした日本の旅。沖縄を出発して徐々に北上。現在、35府県を訪ねた。「来夏までには北海道に行く予定。1県ずつまわりたい。まあ、水戸黄門みたいなものです(笑)」
 この旅での出合いがひとつのプロジェクトにつながった。それが日本の伝統工芸を活性化するための「REVALUE NIPPON PROJECT」だ。

日本の伝統文化をより広く伝えるために/2011年のREVALUE NIPPON PROJECTのテーマは和紙。和紙デザイナーの堀木エリ子さんと綿密な打ち合わせ。

「日本を旅する中で伝統工芸の魅力を知り、現代の生活に活かすことができないかと思い、さまざまなアーティストとコラボすることを思いついたんです」
 昨年は、陶芸をテーマに多くのアーティストが参加。今年の和紙のプロジェクトにも建築家の隈研吾や、写真家の操上和美などビッグネームが大勢参加する。そして、11月に開催されるガラでその作品が発表される。
「改めてメンバーのリストを見ると、それこそ不可能なんじゃないかってくらいすごい人が集まった。でもこれも自分でひとりずつ会いに行って、趣旨を説明してお願いした結果。自分がプロジェクトを楽しむためだから頑張れたんだと思います」
 中田英寿という男の辞書には「不可能」の文字はない。人生を楽しんでいるからこそ、不可能すら軽々と超えていけるのだろう。

今年のガラは11月19日に大阪で開催。工芸作家と大物クリエイターのコラボレーションに注目だ(写真は昨年のガラ)。


Hidetoshi Nakata
1977年山梨県生まれ。元プロサッカー選手。2006年のドイツ・ワールドカップ後に引退、世界を巡る旅へ。その後はサッカーを通じてチャリティ活動を行うほか、多方面で活躍中。本誌の前号の特集でゴルフに開眼。
http://www.takeactionfoundation.net/

Text=川上康介 Photograph=繰上和美


*本記事の内容は11年10月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい