Airbnb社長と企画のプロが懸念する「おもてなしの負のスパイラル」とは?

6月15日より施行された住宅宿泊事業法、通称「民泊新法」。日本の観光産業や民泊におけるシェアリングエコノミーの分野にどのような新風が巻き起こるのか。そんななか、ホームシェアリングのプラットフォームを提供するAirbnb Japanが36の企業と協業し、7つの新施策に取り組むことを発表。そのうちのひとつとして、"場所にブランド力をつけ、メディア化する" プロジェクトを運営する、オレンジ・アンド・パートナーズ(代表:小山薫堂)と提携し、ホームシェアリング対応型住居のプロデュース、日本初Airbnb公式デザイン「ORANGE DOOR」を展開する。 第一弾は、首都圏を中心とした不動産を扱うオープンハウスとホームシェアリング向けの一戸建て住居を年内に販売開始するというプラン。 「ホームシェアリング対応型住居: ORANGE DOOR」とは、どのようなものなのか。両社が考えるホームシェアリングの形とは――。Airbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏と、このプロジェクトを率いるオレンジ・アンド・パートナーズの軽部政治副社長に今後の展望を聞いた。


ホームシェアリングの推進は金銭的利益のためだけではなく、もてなす喜びを得るため

田邉泰之(以下田邉) この10年の間、暮らし方や働き方をはじめ、ITを介したことでライフスタイルにも、非常に大きな変化が起こりました。Airbnbというホームシェアリングの形態もすっかり身近なものとなり、ホストの幅も広がりを見せています。さまざまな世代や価値観の人々がユニークな発想や視点でホストとなり、住居だけでなく、従来の旅先での体験とは違うオリジナルな体験を提供するようになりました。リタイヤした後の第2の人生にゲストとの交流を楽しみ、もてなしながら生活を営むスタイルもあれば、ミレニアル世代がソーシャルメディアを通じて他人とコミュニケーションをとるという現代ならではのアプローチもある。Airbnbはどちらのスタイルも包括し、ホームシェアリングエコノミーに特化できるような家をつくることができたら面白いと考え、このプロジェクトを発足しました。

軽部政治(以下軽部) 一時期「おもてなし」という言葉が流行りましたが、それを世界に対する売り物にしようとした結果、今は「おもてなしの負のスパイラル」が起こっているように感じます。世界中どこに行ってもコンビニでお釣りに両手を添えてくれて、袋に入れてくれる国なんてありません。それなのに、それ以上のサービスをお客さん側が無意識に求めてしまっているように感じていて、過剰なおもてなしに、受け手も送り手もストレスを感じてしまっているのではないかと思うのです。

Airbnbの取り組みでホームシェアリングという文化が一気に広がりましたが、急激に広がったせいもあり、Ainbnbのサービスは空き部屋を貸して利益を得る "賃貸業" のようなもの、というイメージを持っている人も多いと思います。でも、本当は違います。Airbnbの持つプラットフォームは、ホテルで働く人々など、従来の観光従事者だけではなく、一般の人たちも観光従事者となり得るところがポイント。「旅ともてなしと人との交流」こそ、Airbnbが広めていけるもので、それは、僕らがやりたかったことでもあり、僕らが得意とする "場所をメディア化する" 企画と掛け合わせて面白いことができるかもしれないと感じました。初めて田邉さんとお会いした時、部屋を貸すプラットフォーム上で体験を演出することについて話しをしましたね。

田邉 Airbnbは単に住宅宿泊のプラットフォームではなく、宿泊体験を全体的にサポートすることを目指しています。ホストが現地にいない物件の場合でも、事前のやり取りは発生します。そのコミュニケーションで、人肌のぬくもりを感じていただければ。さらに、人の家に泊まることは、そこに住んでいる人と同じような生活習慣に染まることにもなります。例えば、水を買いに近くのスーパーに行くなり、泊まること自体が地元の生活を垣間見る体験となりますよね。旅をプランニングして予約し、実際に行って帰ってきたら、自分の周りの人にその体験を話す。そこまでの一連の行為全体をコーディネートするお手伝いをしていきたいという思いがあります。

軽部 僕、「Airbnbはひとつのメディアだな」とつくづく思うのです。昔、パートナーの小山薫堂と会社を興した当時、彼が「最近、街がメディアを追い越した気がするんだよ」と言ったことがあって。小山はブロードリーチでコンテンツを配信し、流行を作ってきた人間。でも彼の肌感覚では、街に来て体験する人たちそのものが、すでに発信力を持ったメディアであると。そしてそれが価値を持つようになった。

感情や血が通っていない電波での情報では、もう人は動かなくなってきているのではないかと思うんです。街に出てお金を使って靴底を減らして体験したことこそ、価値を生み出すのではないでしょうか。"場所をメディア化する" ということは、僕らオレンジ・アンド・パートナーズでもずっと考えていたこと。人が何かを体験したその感動を、自分の言葉で発信することってまさにひとつの媒体だし、Airbnbは「ニューメディア」だと思っています。

田邉 Airbnb Japanが立ち上がったばかりの頃は、スタートアップだったので潤沢な予算はありませんでした。でも、代表という立場から「どんどんホストとゲストの登録数を伸ばしていこう」と社員に指示しなければなりませんでした。その時、施策のひとつとして、ホームシェアリングの世界観が伝わるオフラインの場をつくる企画を活用しました。「meet up」と呼んでいます。ホームシェアリングを経験しているホストたちが先駆者となって、ホストとして旅行者をもてなす喜びを説いていく、というもの。ホストたちのエピソードに共感する人が増えていき、瞬く間に広がっていきました。誘致する側、つまり話をしてくれるホストが200名を超えると規模は自然に大きくなっていくものです。まさに人が自分の実体験を語り、個々からメディアが生まれた事例ですね。

また、こういった勉強会を軸に、独自のmeet upも派生しています。と言っても「スリッパはきれいですか?」「タオルは何枚ありますか?」といったオペレーションマニュアル的なことではなく、「日本の生け花を教えるmeet up」だったり、「外国人に喜ばれる料理のmeet up」だったり……。結局のところ、気張る必要はなく、いつもの生活を垣間見せるのが一番いいということなのだなと実感しています。

ある人は、たまたまお墓参りに行く日で、ゲストを一緒に連れて行ったらそれだけで大変喜ばれたそうです。柄杓で墓石に水をかけて清め、花や線香をお供えしてご先祖を大事にする。そんな体験にいたく感激したそうで、『明日も行こうぜ!』と言われて笑いしたことがあったと。こちらでは気づかない「日常すぎて何でもないこと」がコンテンツになり得るのですね。

一方、居住空間という面では、現在の多くの住宅は「本来、1人で立つことを想定して設計されたキッチンを無理やり複数人の大人で使っている」「バスルームも家族だけが使う前提で設計しているので、他人の目を気にする仕様になっていない」など、他人と共用する前提でつくられていないため、強引にシェアしている感があることは否めません。そこで、ホームシェアリングに適した住居のプロデュース・設計・販売を試みることにしました。

軽部 今回、ホームシェアリングを前提とした住居「ORANGE DOOR」を開発するにあたり目指しているのは、ホストとゲスト双方に「コンテンツを楽しんでもらいやすい家」です。ホームシェアリングに特化しているかどうか、適しているかどうかの前に、まずはホストの暮らしがベースにあるべきだと思うのです。自分の暮らしが豊かになる家であり、ゲストがいない日でも快適に暮らせる家、ということが前提にあるべきで、さらに、ゲストが訪れたら最高のもてなしができるというのが理想です。スペースを有効活用して、収納、ベッド、家具、リビングの使い方にギミックが組み込まれているものを考えています。具体的にはこれから詰めていく段階ですが、コミュニケーションを誘発できるような間取りであるとともに、プライベートもきちんと担保されるものをイメージしています。

地域創生で、日本の観光業を盛り上げる

田邉 今回のプロジェクトで協業するのは、規模が大きく、イメージ的に堅い企業も少なくありません。Airbnb最大の特長は、ホストとゲスト個々のつながりだと感じている方も多く、大企業とパートナーシップを組むことで、個性や個人ならではの温もりがなくなってしまうのではないか、と懸念する声も聞こえてきました。しかし、大手と組むから個性がなくなるのではありません。パーソナライズしつつも、使い勝手のよい便利なプラットフォームになると考えていただければと思います。コラボレーションする企業も、非常に柔軟で自由な発想をしてくださっているという印象があります。ホストやゲストにとって、使いやすく、出会いがより活発になる舞台を用意することが私どもの使命だと考えています。

軽部 僕らがやるべきことは、もてなす側の人たちがより深くコミットしていけるような導火線をひいて、着火することだと思っています。大前提として、住民が自身の住んでいる都道府県を好きにならない限り、観光誘致は成立しません。お金を投資してイベントを催したり、新施設をつくるより、住んでいる人が「俺らの県って最高!」と声高に言うことこそよっぽど価値がある。「とにかくいい県だから来てみろよ」の、そのひと言が最大のプロモーションです。そこに住む人たちが自分事に感じられない限りは、地域創生は起こりません。そう考えると、ひとりのホストのコミュニケーション総数が多くなれば、確実にもっと日本は元気になるし、日本っていい国だね、と思われるはずです。

ただ、“ひとりひとりにおもてなしをレクチャーする”という発想はおごりで、僕らから押し付ける“おもてなし”は存在しないと思っています。プラットフォームを整備して、ユニークな基盤を提案する。そういったお膳立てをして、コミュニティーそのものに気運醸成をする。それが僕らの使命なのではと考えています。


Yasuyuki Tanabe(右)
1971年生まれ。Airbnb Japan代表取締役。ミズノ、マイクロソフト勤務などを経て、2013年にAirbnbのシンガポール法人に入社し、日本法人設立に参加。日本法人を設立後、2014年5月にAirbnb Japanを立ち上げ、代表取締役に就任。2002年には米ジョージタウン大学院経営学修士(MBA)取得。
https://www.airbnb.jp
Masaharu Karube(左)
1969年生まれ。オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役副社長。イベント、貿易、IT業界などの企業への経営参画を経て、 2004年、マーケティング専業会社の代表取締役社長に就任し、マーケティングやマネジメント業務に従事。2006年に脚本家小山薫堂と共に企画会社オレンジ・アンド・パートナーズを設立し、代表取締役副社長に就任。
http://www.orange-p.co.jp


Text=三井三奈子 Photograph=太田隆生