青森のコロナ中傷ビラに思う。自分のなかの恐怖心とどう向き合うべきか?~ビジネスパーソンの言語学108

各界のトップランナーたちのコメントには、新時代をサバイブするヒントが隠れている。当コラムでは、ビジネスパーソンのための実践言語学講座と題して、注目の発言を独自に解釈していく。108回目、いざ開講!

「なんでこの時期に東京から来るんですか? さっさと帰って下さい!! みんなの迷惑になります」ーーー東京から青森市の実家に帰省した男性の家に置かれた中傷ビラの一文

この夏、仕事の関係で東京から地方へと出かけた。もちろん体調に留意し、マスクをし、先方の許可を得た上での訪問だ。PCR検査も受けたかったが、時間的に余裕がなかった。地方に行って気づいたのは、東京との緊張感の違いだ。マスクを着けていない人も多いし、それを気にしている人も少ないように思えた。

そもそも人と人との距離がとれているし、ほとんどが車移動だ。訪問先で相手がマスクをつけていないこともあった。それでもこちらは外すわけにはいかない。東京から来たという“負い目”を感じながらの数日間。世間話的にコロナの話題は出るものの、直接的に来訪を非難されることはなかった。

だが、最終日のある日、訪問先で高齢の女性から露骨な対応を受けた。彼女はマスクをした上で、服の袖で口を覆いながら私に言った。

「本当に大丈夫なんでしょうね! コロナじゃないでしょうね!」

その視線は鋭く、「早くここから立ち去れ!」と言っているかのように感じた。事情を説明し、その後、用件は無事済ますことはできた。女性は最後には何事もなかったかのように自分のマスクを外し、にこやかに送り出してくれた。だが、私が最初に味わったザラッとした違和感は、その場を立ち去ってからも消えることがなかった。

東京からやってきたというだけで、唐突に訪れるむき出しの恐怖心と敵意。先日、東京から青森市に帰省した男性のもとに届けられたというビラにもそのコロナ差別の恐怖心と敵意が露骨に表れていた。

「なんでこの時期に東京から来るのですか?(中略)良い年して何を考えているのですか?(中略)さっさと帰って下さい!! 皆の迷惑になります。安全だと言い切れますか??」

ビラを巻かれた側の男性は、PCR検査を何度も受け、最大限の注意を払って生まれ育った故郷に帰省したという。それでもまるで犯罪者のような扱いをされた。恐れる気持ちは理解できる。だが、地方でもクラスターが多数発生している現在、コロナに感染する、させるリスクは、どこに住んでいようが関係ないといえるだろう。

大都市の感染率が高いのも事実。若者の感染者数が多いのも事実。だが、政府が経済を優先して事実上ノーガードになっている以上、個人ができる対策には限界がある。私を非難した女性も、青森でビラを書いた人も、いつ自分が感染者になり、新たな感染者を生み出す立場になるかわからないのだ。

6月初め、麻生太郎財務大臣は当時日本でコロナによる死者が少なかったことを「民度が違うから」と述べた。今となっては、笑い話にもならないようなコメントだが、蔓延が止まらない今こそ、個人それぞれが自らの“民度”を高めることを意識すべきだろう。できる対策をしっかりするのは当たり前だ。だが無意味な差別、過剰な警戒心は、社会に分断を生みかねない。それは、きっと病以上に恐ろしい後遺症をこの国に残すことになりかねないのだ。


Text=星野三千雄