【社長の仕事着】東大卒、マッキンゼー出身。TOOT社長・枡野恵也が印象強い服を着る理由

東京大学の法学部を卒業し、マッキンゼーやベンチャー企業を経てパンツメーカーの社長に就任。そんな異色のキャリアで注目を集めるTOOT代表取締役社長、枡野恵也氏だが、経歴だけではなく独特な風貌でも注目を集めている。その真意に迫った。

はみ出すかどうかギリギリの格好で印象を残す

個性的なルックスのなかでも常にアイキャッチとなっているのが口髭だ。そのスタイルは“カイゼル髭”と呼ばれ、跳ね上がった両端が特徴的。“カイゼル”はドイツ語で“皇帝”を意味し、ドイツ帝国の皇帝ヴィルヘルム2世がこの髭を蓄えていたことからそう呼ばれるようになった。現代の日本ではほとんど見かけることのないスタイルだが、TOOT枡野恵也社長は人前に出るような予定がなくてもきちんとセットしてから出勤するほどこだわっている。

「カイゼル髭にしている理由は4つあります。1つ目は、古き良き父親像を体現するスタイルだから。ちょうどTOOT (トゥート) の社長に就任するタイミングで長女が誕生しましたので、父親を象徴するスタイルにしようと思いました。2つ目は、TOOTのパンツの特徴を表す形だから。TOOTのパンツは独自の立体的形状によって上向きのベストポジションをキープするのが大きな特徴なんです。そんな意味を込めています。3つ目の理由は、ダリが好きだから。画家のサルバトーレ・ダリはカイゼル髭がトレードマークですね。そして4つ目は、印象に残る髭の形だからです」

枡野氏が社長として改革したことのひとつがプロモーション。TOOTはそれまで口コミによるファンの獲得に頼ってきた。商品の品質が高いためにそれでもファンは拡大していたが、現在はプロモーションにも注力して知名度を高め、ブランド力や売上の向上につなげようと目論んでいる。そのためには社長が自ら広告塔の役割を担うことも必要。インパクトのあるカイゼル髭で印象を残すのは有効な戦略というわけだ。

見た目を活用する戦略には原体験がある。転校を繰り返していた小学生の頃、見た目の第一印象で面白い奴だと思ってもらうことが、クラスの輪の中にスムーズに溶け込むコツだと気付いた。もちろん、目立ち過ぎてイジメられたこともあった。それでもその戦略を変えなかったのは、周りには合わせたくない、人と同じなのは嫌だという性格が勝ったから。

社会人になってから制約も増えたが、トップとなった現在の仕事着は当然、個性的だ。印象に残る戦略という意味でも、人と違う方が良いという好みの面でも理に適っている。着用しているトム ブラウンのセットアップは、柄の異なる生地を組み合わせたキルティングが独創的。ルイス&クラークのシャツが挿し柄として個性を高めている。

「仕事で着る服の基準は、許される範囲でギリギリのライン。あまりに奇抜だと人間社会に溶け込めていない宇宙人だと思われて支障がありますから(笑)。ギリギリの境界線を攻めつつ時にははみ出しながら、許容される範囲を少しずつ広げています。個性的なファッションにこだわるのは、自分を表現する手段だと考えているからです。それと同時に、自分を定義するものでもあると考えています」

個性的な何かおもしろいことをしてくれそうな経営者という定義付けは実際、ビジネス上の縁ももたらしてくれた。そもそもTOOTの社長として誘いを受けたのは、ファッションにこだわってきたからだ。経営のスキルを磨いてきた人は一定数いるが、その上で個性的な服装にこだわり続けている人はあまりいない。点と点がつながって線になり、お洒落な男性用下着ブランドTOOTの社長にスカウトされるという縁につながった。

「個性的な服装が縁につながった例は最近もあります。イタリアのフィレンツェで開催される世界最大級のメンズファッション展示会“ピッティ・イマージネ・ウオモ”に今年も出展したのですが、出展したいと直談判に行った際、服装の印象が確実に後押ししてくれました。また、面白そうなことをしてくれそうなルックスだからと素材の開発者と引き合わせてくれた方がいて、それが新商品につながっています。シルク素材なのですが、今日も勝負パンツとしてはいてますよ(笑)」

シルク素材の「SHIDORI®」は、家庭用の洗濯機で何度でも洗える画期的な新素材。それを採用することで、何度洗ってもスパンシルクのふんわりした質感が持続するパンツが誕生した。極上の肌触りで吸湿・放湿性にも優れ、海外出張時の長時間移動などでも快適なはき心地をキープしてくれる。

ちなみにTOOTのパンツはそうした機能性に加え、スポーティなデザインを中心とする豊富なバリエーションも特徴だ。さらに、繊細な技術を要する立体的な形状やミリ単位の微調整による抜群のはき心地こそ大きな魅力。それを実現しているのが自社工場による縫製だ。国内屈指の技術をもつ宮崎県の工場を買収することで、高い品質を確保している。

「TOOTのパンツのはき心地に感動し、日本の高い技術を再認識しました。気が付けば、使っているものも日本製が増えています」

愛用している旅行用バッグはグローブ・トロッターのものだが、日本の伝統工芸品である紅溜色(べにためいろ)の漆で仕上げた表情が美しい。

「この漆は輪島塗りだと聞きました。グローブ・トロッター独自のヴァルカンファイバーをわざわざ輪島市に送って塗っているそうです。両親が石川県の出身なので、何だか縁を感じて、3年ほど愛用しています。大人ランドセルは2年ほど前に買ったもの。ランドセルの老舗、土屋鞄が手掛けているんですから品質は間違いありません」

世界に誇れるメイド イン ジャパンのクオリティはTOOTにも宿っている。圧倒的な品質という自負があるからこそ、TOOTをアンダーウェアのラグジュアリーブランドとして世界へ広めるのが大きな目標だ。日本からはみ出して海外でもファンが増えているTOOTの躍進をしっかり見届けたい。

「パンツは世界平和に通じると本気で考えています。品質が高く、遊び心のある個性的なTOOTのパンツをはくということは、自分や個性を大切にすることの象徴。さらに、多様性を受け入れる心の余裕も育んでいきます。それが他人への思いやりにつながり、世界平和にもつながっていくはずなんです」


Keiya Masuno
1982 年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業後、2006年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。経営コンサルタントとして大手企業の課題解決に従事する。’09 年にレアジョブに参画、法人事業を立ち上げ1 年で黒字化を達成。’10年にはライフネット生命保険へ参画し、東証マザーズ上場や経営戦略全般に携わる傍ら、韓国合弁会社の設立を始めとする海外事業展開を主導。’15年4 月にTOOTの代表取締役社長/CEOに就任し、現在に至る。また、’17年には『人生をはみ出す技術 〜自分らしく働いて“生き抜く力”を手に入れる〜』(日経BP社) を上梓。

Text=平格彦 Photograph=鈴木克典