麻生太郎の老後問題発言にみる、船長としての資格 ~ビジネスパーソンの言語学48

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「冒頭の一部、目を通した。全体を読んでるわけでない」ーーー麻生太郎金融担当大臣

金融審議会 市場ワーキング・グループが作成した「高齢社会における資産形成・管理」に関する報告書の内容が問題となっている。

『高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる』

『収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約 1,300 万円、30 年で約 2,000 万円の取崩しが必要になる』

報告書によると、95歳まで夫婦で生きるとすると、2000万円の赤字になるという。この数字自体は、正直、それほど驚くものではない。むしろ2000万円という想定は楽観的にも思える。もはや多くの国民は年金システムが崩壊していることに薄々気づいている。問題は、それを踏まえて、今後国民や国がどうすればいいかということで、この報告書もそのための一里塚となるべきものだろう。

しかしその報告書を金融担当大臣が読んでいないというのだから呆れるほかない。参議院決算委員会で立憲民主党の蓮舫委員の質問に対して、

「冒頭の一部、目を通した。全体を読んでるわけでない」

と堂々と答えた麻生太郎金融担当大臣。これから嵐の中に船が向かおうというときに、船長が海図の一部しか見ていない。乗客に不安になるなというほうが、無理がある。あくまでも推測だが、「読んだ」と言えば内容に関する細かい質問をされてボロが出る。蓮舫委員は「5分で読める」と言ったが、報告書は51ページにもわたる。きちんと読むとしたら30分以上かかるだろう。読むのも面倒だし、読んだからといって質問にすべて答えられるわけではない。それならば「読んでない」と言ったほうが楽だと、大臣は考えたのではないだろうか。だとするならば、完全な開き直り、責任放棄。船長としては失格といわざるをえない。

資産家である麻生大臣にしてみれば、「2000万円くらいでガタガタ言うな」という感覚なのかもしれない。報告書は、「少子高齢化」や「賃金の伸び悩み」、「退職金給付額の減少」などこの国を取り巻くシビアな現実を並べ、こうまとめている。

『今後のライフプラン・マネープランを、遠い未来の話ではなく今現在において必要なこと、「自分ごと」として捉え、考えられるかが重要であり、これは早ければ早いほど望ましい』

この国の舵取りを誰に任せるか。考え直す機会も早ければ早いほどよさそうだ。


Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images