阪神・金本監督の責任問題をKPIから考えてみる 〜ビジネスパーソンの実践的言語学14

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「それはね、やっぱりもう、現実を受け止めないと。ホントにまあ申し訳ない気持ちというかね、ファンには」―17年ぶりのリーグ最下位が決定した阪神タイガース金本知憲監督―


最近、ビジネスの場で「KPI」という言葉がよく使われる。これは、「Key Performance Indicator」の略で、日本語に訳すなら「重要業績評価指標」。簡単にいうならば、組織やチームが達成すべき目標数値ということだろう。営業や販売ならば売上数や来客数、広告やマーケティングならメディアやSNSを通した認知度ということになるだろう。重要なのは、「がんばって売ろう」とか「みんなに知ってもらおう」などと曖昧にするではなく、目標を数値化すること。そのことによって、目標の達成度が明確になり、ステークホルダーはチームの“価値”をはかることができる。

このKPIをプロ野球チームに当てはめてみる。まずいちばん重要な指標は、チームの順位であろう。対前年比で考えると、セントラル・リーグで2連覇を成し遂げている広島カープにとって3連覇が目標だったことはいうまでもない。昨シーズンBクラスだったチームは、まずはAクラス入りしてクライマックスシリーズに出場することが目標となる。昨年2位だった阪神タイガースの金本監督がシーズン前に「過去3年間でいちばん強い」と公言し、リーグ優勝をチームのKPIとしたのは、ある意味当然のことといえるだろう。

だが、結果はご存知のとおり17年ぶりの最下位。KPIを守るどころか、前年から大きく数字を落とす最悪の結果だ。金本監督就任以来、FA選手を獲得し、外国人選手にも大金を払っている。金本監督にも監督としては12球団最高の推定1億2000万円の年俸が支払われている。プロ野球球団の最大のステークホルダーであるファンに納得しろというのも無理があるだろう。

一方、合格点といえる数字もある。球団の重要な現金収入となる観客動員数だ。2016年の金本監督就任1年目に大きく伸びてからほぼ横ばい。甲子園は常に4万人を超える観客で埋まるまさにドル箱となっている。以前、あるプロ野球関係者がこう言っていた。

「経営者としてはチームは、弱くはないけど、優勝もしない。2位になってクライマックスシリーズのファーストステージの開催権を得るくらいがいちばんいいんです。優勝すると選手の年俸をあげなくてはならないから経営は厳しくなる。でも勝てない時期が続くと、ファンはどんどん減っていく。チームが勝てなくても球場が満員になるのが理想ですね」

金本監督は「ホントにまあ申し訳ない気持ちというかね、ファンには」と言っているが、もうひとつのステークホルダーである親会社の阪神電鉄にとっては、悪くない監督なのだ。最重要のKPIである優勝は達成できなかったが、売り上げには貢献している。成績だけを理由に金本監督を更迭してしまうと、目先の売り上げをも失ってしまうかもしれないという危惧は、阪神電鉄も抱いてただろう。最下位になっても金本監督の来季続投を名言した背景には、この「裏KPI」の達成が大きな理由になっていたことは間違いない。

しかし、金本監督は自らその座を去ることを決断した。続投濃厚といわれていたにもかかわらず、青天の霹靂のような辞任発表。タイミング的にもギリギリの決断だったことがうかがえる。球団にとってはありがたいお客様であるファンも、監督にとってときには“敵”に変わる人たちだ。来シーズンも負け続けるようなことになれば、4万人の観客からの強烈なヤジが飛んでくるだろう。どんなにハートが強い金本監督でも、さすがにこれ以上は無理だと判断したとしても不思議ではない。順位と動員、ふたつのKPIを満たす監督がいるのか。次の監督も厳しい戦いを強いられることだろう。

(※当記事は2018年10月11日20時30分に一部文言の修正を行っております)

第15回に続く

Text=星野三千雄 Photograph=朝日新聞社


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