体操パワハラ問題に学ぶ老害にならない方法 ~ビジネスパーソンのための実践的言語学⑨

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「ガラケーでもなく、ポケベル。千恵子先生の言ったことを一方的に受け取るしかできない」ーーー朝日生命体操クラブOG

この言葉に今回の日本体操協会をめぐる問題の本質があるように思う。経緯は長くなるので省略するが、リオデジャネイロ五輪にも出場した宮川紗江選手をめぐる騒動は、選手とコーチの間の体罰問題だったはずが、日本体操協会塚原千恵子女子強化本部長のパワハラへと焦点が移っている。もはや彼女と彼女の夫である塚原光男協会副会長の辞任は避けられないところまできている。

レスリング、アメフト、ボクシングときて次は体操。スポーツ界におけるパワハラ問題が頻発している。だが、これらの問題はスポーツ界に限ったことではなく、社会のどこにでもあるジェネレーションギャップの問題のように思えてならならない。

塚原女子強化本部長は71歳で、日大アメフト部の元監督の内田正人氏が63歳、日本ボクシング連盟元会長の山根明氏が78歳。元女子レスリングヘッドコーチの栄和人氏が58歳というのは、このなかでは少し若く感じるが、彼の背後でさらなるパワーを発揮しているように見えた日本レスリング協会副会長であり、至学館大学学長でもある谷岡郁子氏は64歳。言葉は悪いが、まさに"老害"だ。

彼らは選手もしくは指導者としての実績を積んだからこそその地位にあり、それぞれのスポーツにおける貢献度は決して小さくない。この夏行われたアジア大会で、女子レスリングが金メダル獲得ゼロに終わったことは、栄和人氏が不在のためといわれた。同じようなことは、今後日大アメフト部や日本ボクシング界にも起きるかもしれない。

もちろん彼らが正しい、彼らを許せというつもりはない。ただ彼らがもう少し謙虚になり、時代にあった指導方法やコンプライアンスの意識を持つことができていれば、このような問題は起きなかったように思う。かつては“愛のムチ”といわれた体罰は、絶対に許されない。選手を言葉で追い込み、発奮させるような指導法もパワハラと受け止められるだろう。「本人のため」「強くなるため」というのは、指導する側の論理でしかない。それが"老害"なのだ。

「ガラケーでもなく、ポケベル。千恵子先生の言ったことを一方的に受け取るしかできない」(塚原夫妻が経営する朝日生命体操クラブのOG)

この言葉に今回の問題の本質がある。ガラケーの使い方なら、スマホ世代の選手でもなんとなく理解できるだろう。だがポケベルとなると見たことも触ったこともない。2世代前のコミュニケーションの手段を当然のように押し付けるのはやはり無理がある。

最近、40歳代、50歳代のビジネスマンから「これまでの常識が通用しない。部下に何を言ってもパワハラ、セクハラになりそうで怖い」という声を聞く。そんな状況では仕事がしにくいだろう。自分も同世代だからよく分かる。若いころ、厳しく接してくれた上司や先輩には、そのときは「クソッ」と思っていても、あとで感謝に変わることもある。自分もそうありたいと思うのも、ある意味当然だろう。

だが、時代は変わったのだ。後戻りすることはない。自分たちの常識を若い世代に押し付けることこそ"老害"なのだ。若い世代から見れば、有能な老害は、無能にも劣る。時代には謙虚に向き合うべきだ。もうしばらくすれば、ポケベルどころか「ガラケーって何? 電話って何?」という世代が登場する。そんな時代でも自分らしく生きていくためには、自分の常識を疑ってかかるところから始めるべきかもしれない。

第10回に続く

Text=星野三千雄 Photograph=朝日新聞社/Getty Images


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