又吉直樹が語る「相方・綾部の計算」ー滝川クリステル いま、一番気になる仕事

初の長編小説『火花』は累計発行部数250万部を記録し、お笑い芸人史上初となる芥川賞作家となった又吉さん。老若男女に「読書」する機会を改めて与え、ある意味事件ともいえる偉業を成し遂げた、その多彩な才能と人柄に迫る。

やりたいことを思いつく内はすべてを表現していきたい

左:ピース 又吉直樹、右:滝川クリステル トップス¥36,000、パンツ¥24,000(ADORE/サンエーインターナショナル TEL:03-6748-0540)、ピアス¥13,700、リング¥17,900(スワロフスキー・ジュエリー/スワロフスキー・ジャパン フリーダイヤル:0120-10-8700)、靴はスタイリスト

私物コントの現場でも本音を表現しやすくなった

滝川 昨年社会現象にもなった『火花』が、Netflixでドラマ化され再び話題になっています。オリジナル要素も入った初の映像化、どうご覧になりましたか?

又吉 とても丁寧につくってくださって。自分が書いていない部分さえ「リアルに再現されてる」と思ったほどです。

滝川 内容や脚本に関しては、お任せされているんですよね。

又吉 はい、最初に監督に「登場人物が死ぬとか、まったく違う話になる場合がもしあれば教えてください」と言ったら、「そんなことにはなりません(笑)」と。あとは呑みながら、補足というほどではないんですが、自分や周りの芸人のエピソードを話して。お互いめっちゃ笑って共感もできたので、違和感の心配はしませんでした。

滝川 登場人物に特定のモデルがいるわけでなく、さまざまな方の特徴やエピソードを参考にされたとうかがっています。作者として、主人公の徳永と先輩の神谷、どちらの視点が近いというのはあるのでしょうか?

又吉 神谷の理想は、10代の頃の僕の理想に近いです。でも理想を追求すれば世間の勝負で負けても勝ちだという考え方は、逃げでもある。妥協のない純粋さに心酔(しんすい)しつつ、「それは違うんちゃいますか」という徳永の目線も僕のなかにある。そんな葛藤が反映されてますね。

芥川賞受賞から1年が経ち、変化は?

滝川 どんな職業でも抱きうる葛藤かと思います。だからこそ、これだけ多くの読者の心に響いたのかとも。芥川賞受賞から1年が経ち、ピースの又吉さんとしての変化はありますか?

又吉 本音で話しやすくなったかもしれません。まっすぐな表現をしやすくなったというか。今までわけわからん無感情な人間だと思われることが多かったんです。たまに感情を表に出すと、内容より「又吉がまともなことを言ってる」と行為自体に驚かれてしまう。それでは伝わらないから、暗喩(あんゆ)みたいな表現、あるいは誰かのつっこみで笑ってもらう方法になりがちだったんですが。最近はわりとまっすぐに表現しても、そんなにびっくりされなくなった気がします。

滝川 いい変化ですか?

又吉 難しいところですね。あわよくば自分の考えてることが伝わればいいな、伝わらなくても「またわけわからんこと言ってる」と笑ってくれたらそれで幸せや、と思ってたんですけど。ごまかしが利かなくなりました。

相方の綾部さんとのかけ合いにも変化が

滝川 相方の綾部(祐二)さんとのかけ合いも変わりました?

又吉 綾部はやりやすくなったのかな。もともと僕の内面をよく知ったうえで、どうキャラクター化するかを考えてました。例えば、ゴリラの握力は人間の10倍だという話の時。僕が「手の大きさも10倍ないとおかしい」と言うと、昔は「二の腕がそもそも違うやんけ!」って返されてたんです。でもある時から「わけわかんねえこと言ってんじゃない!」と、まともにとりあってくれなくなった。

滝川 そのほうが笑いとして伝わりやすいという判断があったのでしょうか。観客の反応で。

又吉 綾部は見ているんでしょうね。でも『火花』以降、お客さんがゴリラの握力や手の大きさについて、一回考えてくれるようになったんですよ。僕としては望んだ形になっているんですが、お笑いとしてはどちらがいいのかわからないです。

滝川 やりづらくなってしまった部分もあったかも......?

『人間失格』は100回以上読んだそう。読み返すのが本の醍醐味ですね(滝川)

又吉 まあ、芸人の僕が小説を書いたからみんな一時的にびっくりしただけで。僕自身は小説を書く前と今と別に変わっていませんし、そのうち慣れて、また「又吉やっぱりアホや」と元どおりになるでしょう。いずれにせよ小説を書くことで表現の幅が広がったのは事実ですし、走り始めた以上、どんどん書いていきたいと思っています。

滝川 今は2作目を?

又吉 年内完成を目指してます。3作目も続けて、できれば「また出た!」って笑われるスピードで出したいですね。

滝川 そこでもお笑いのスピード感が重要なんですね(笑)。どのようなテーマをお考えでしょうか。差し支えなければ。

3作目のテーマとは?

又吉 3作目までは似たようなイメージになる予定です。文学の世界でよく言われる「語り直し」に近い。まったく違うテーマにしたほうがいいと言われるんですが、ひとつのテーマを、違う角度から見て立体的に深くしていきたくて。次の段階に行くのは、そのあとでしょうね。

滝川 又吉さんは読書家としても知られています。最も影響を受けたのは太宰治作品だと。

又吉 毎年6月(19日は太宰治の命日)に読み返します。何十回と読んでも違う発見や感じ方があるので、やっぱり本って高くないですね。こんなにも長く味がする。

滝川 この雑誌のタイトルでもあるゲーテには、どんな印象をお持ちですか?

又吉 思春期に結構読んでいて、創作のうえでもたくさんの気づきをもらいました。ただ200年経っても同じことで悩んでるってことは、結局それが人間の限界なのかとちょっと不安にもなりますね。ゲーテのせいではありませんが、たまに夜中どんと憂鬱(ゆううつ)になります。

悲しいニュースを見ると、やる気になくなってしまう

滝川 それは何が引き金に?

又吉 社会で起きていることにもわりとストレートに影響されます。悲しいニュースを見ると、憤(いきどお)りや無力感で全部やる気なくなってしまうこともあって。そういうこと、ありませんか?

滝川 ありますね、ニュースで気持ちが入りすぎてしまうと、コントロールするのは結構大変。

又吉 考えたら負けみたいなところもあるって、わかってるけど反応してしまうんですよね。

『夜を乗り越える』 又吉直樹著 小学館よしもと新書¥820 又吉さんが普段あまり本を読まない人にも、読書の楽しさを伝えた本書。少年期に文学に出会い、助けられ、いかにさまざまな「夜を乗り越えて」生きてきたかを振り返る。さらに又吉さんが今まで読んできた本についての感想が丁寧に書かれ、その視点は目から鱗!

滝川 私はどうしようもない時はとにかく寝ます。それか思い切り泣いてリセットする。

又吉 僕はリセットはできなくて、あるものをあるままとらえ、人の作品を見たり読んだりして、バランスとっている部分があるかもしれません。本はもちろん、音楽も演劇も映画もサッカーも好きですし、コントのネタを考える時間も楽しい。酒にはあまり頼らないように......。

滝川 ふふ。たくさん好きなものがあるなか、仕事として芸人の道に進まれたのは、又吉さんにとってそれだけ「笑い」が特別なものだったからでしょうか。

又吉 なんなんですかね。人を楽しませて、反応してもらうことが子供の頃から嬉しかった。そういうことを仕事にできたらいいなと考えた時、お笑いに一番、表現の可能性を感じたんやろうなとは思います。

やりたいだけでは趣味。仕事として続けるために

滝川 芸人や作家といった枠では考えなかったんですね。

又吉 その枠がストイックな矜持(きょうじ)になっているなら、それはいいことと思います。ただ制限にする必要はない。興味あること全部を説明するような、どんぴしゃの職業ってないのだから、やりたいことは我慢せずに、全部やっていいと思うんです。

滝川 専門的な仕事って、才能が凝縮されていく傾向があるけれど、とらわれることはないと。

又吉 とはいえやりたいだけでは趣味ですから。仕事として続けるなら、いかに人を楽しませるかの工夫をしてなんぼだとも、肝に銘じています。


Naoki Matayoshi
1980年大阪府生まれ。高校卒業後、NSC東京校に入学。2003年同期の綾部祐二とともにお笑いコンビ「ピース」を結成。芸人活動と並行しエッセイや俳句などの文筆活動を行う。15年1月『文學界』に『火花』を発表し純文学デビュー。同年7月に第153回芥川賞を受賞。


滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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