アジア最強の格闘技ONEは、なぜ巨額な投資を集めることができ、大成功したのか?<第2回>

3月31日。東京・両国国技館。この日、アジアを拠点とした世界最大の格闘技団体「ONE チャンピオンシップ」が「ONE: A NEW ERA -新時代- 」を開催。世界140ヵ国26億人以上が毎回の大会開催に熱狂し、アジア各国では圧倒的な支持を集めてきた「ONE」がいよいよそのヴェールを脱ぐ。初の日本開催である両国大会を前に、ONEチャンピオンシップ・ジャパン代表の秦アンディ英之氏に、ONEがなぜアジアで大成功しているのかを聞いた。

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最先端のスポーツビジネス

アジアという巨大な市場を舞台に大成功を収めたONEが、これまでの総合格闘技団体と一線を画する異質の存在となった理由として、その本質が単純にイベントを成功させるだけの団体ではなく、スポーツビジネスの最先端の考え方を持って運営されてきたことが挙げられる。その核となるのが“エコシステム”と呼ばれる同団体の仕組みである。

ONEチャンピオンシップ・ジャパン代表、秦アンディ英之氏

「エコシステムとは選手を草の根から育成し、スーパーヒーローとして供給するまでをコンテンツ化したものです。これには、各国の商業的・商業的・教育的・メディア的な各団体との提携を、ONEを中心にしていくことが非常に重要となります。

日本においては商業的な仕組みを確立するために電通とパートナーシップを結び、試合を発信するメディアのプラットフォームとして地上波のテレビ東京、ネット中継ではAbemaTVと提携しました。これに選手を育成する地場の団体としては、修斗や新空手道連盟。そしてパンクラスなど、こういった団体とパートナーシップを組み、草の根から格闘技全体を活性化する仕組みを作っていきます。このエコシステムが循環するために、この考え方を理解し、賛同していただける団体を増やしていくことが重要になります」

日本では2000年代にPRIDEが世界的な大成功を納めた過去の事例がある。しかし、同団体を含め多くの格闘技イベントはその後多くの問題に直面し衰退、継続することができなかった現実があった。格闘技というコンテンツ自体の可能性は証明されている。問題は正しく循環させ、マネタイズを含めた運営ができる仕組みが必要だった。

ONEがアジアで成功を納めたノウハウやビジネスのツールを様々な団体と共有し、その輪を大きく潤していくような試みは、日本の格闘界全般に刺激を与える存在になり得るだろう。その試金石となるのが3月31日の両国大会。そして、同じく注目したいのが、大会2日前にパレスホテル東京で行われる格闘技界の合同カンファレンスである。

「僕の前職でもあるスポーツの最大手の調査会社、ニールセンと提携してスポーツカンファレンスを行います。この目的は、日本における業界の情報をみんなで共有し合おうというもので、情報のプラットフォームを我々が提供することによって、産業や産業を越えた方々に最新の情報を提供。産業自体が活性化するためのヒントになるような仕組みを作っていこうというものです。

我々の成功はイベントを成功させて単純に儲かればいいというものでも、ONEが一人勝ちすることでもありません。ONEがアジアで大きく成長できたエコシステムのノウハウをみんなで共有して、格闘技の業界全体で活性化させる。そのための取り組みです。わかりやすくいえば、優勝してもお金がついてこなかったものが、ONEによって奨学金も出れば賞金が一ケタ変わることにもなる。ピラミッドが明確化され登竜門が生まれれば、夢を与えていくことができる。

そして同じくらい大事なのが、各団体が自給自足できるようにONEのノウハウから学び、健全なマネタイズ化できる運営の仕組みを作り上げていくこと。最初は理解されずらいかもしれませんが、この3月の大会で日本の各団体にONEがどのように運営しているかを体感してもらい、実際に使える部分は持ち帰ってもらう。様々なノウハウや情報の共有から、あらゆる要素が広がっていく。それがこのエコシステムの狙いになります」

2011年にフィリピンで始まって以来、ONEはこのエコシステムを軸に、アジア全体を考慮したビジネス展開を行ってきた、アジア最高テレビ視聴率や、ソーシャルメディアエンゲージメントの達成。138ヵ国17億人の視聴者を獲得するなど、最大規模のグローバルスポーツメディアに成長してきた。また、アメリカのベンチャーキャピタルやシンガポールの政府系のファンドから巨額の投資を集めることにも成功。その透明性によりディズニーやアンダーアーマー、資生堂、ソニー、ホンダといったそうそうたる企業がスポンサーになっている。

そしてONEはこの8年間で作った基盤を日本へ持ち込み、さらに大きく発展させアメリカなど欧米へと展開していく世界展望を描く。ONEにはそれができるだけの実績と仕組み。ビジョンがあるという。

ファンの80%はミレニアル世代、70%以上が大学卒業というデータもある。

「僕自身がかつてニールセンという客観的な立場から、世界中のあらゆる地域で、あらゆる種類のスポーツ団体というものを第三者的に見てきましたが、その視点を以てしても、このONEがとても大きな可能性を持った団体であるかを感じています。

僕は以前、サッカーのW杯の仕事もさせてもらいましたが、そこを見ても、スタジアム設営やリーグの運営法、ノウハウの提供など、FIFAが各国にもたらした影響力がとてつもなく大きい。スポーツを根付かせるためには、ただ試合をするだけでなく、仕組みを日々どうやって組んでいくかが重要であることを痛感させられました。ONEにはその仕組みがあります。この世界で成功してきた、資源であり、経験値、ノウハウを使って、いかに日本のマーケットに適応させ、広げていくことが僕のミッション。これは小さい枠組みの話ではなく、スポーツ業界全体の発展のためだと思っています」

日本の格闘技界の歴史や経緯、問題点も踏まえ、それらから学ぶところは学びながら、新たな付加価値を加えた仕組みの構築。それは格闘技だけの話ではなく、日本ではまだまだ発展途上であるマイナースポーツや個人競技などの世界にも還元できることだという。

「かつての相撲・プロレス・プロ野球の時代から、Jリーグができて基盤を広げ、そこにバスケや卓球などプロ化したスポーツが発展してきています。そして今、世界的なスポーツイベントが続々と日本で行われるわけです。注目もお金も集中するこの素晴らしいタイミングで、この勢いをしっかり活用し、それぞれのスポーツが自給自足の仕組みを広げていかなければ、その波が去った2020年から後が問題です。アリーナがお客さんでいっぱいの今のうちに手を打っておかなければ、スポーツ界は苦境に立たされてしまうでしょう。

僕自身、昨年の12月にONEチャンピオンシップジャパンの社長に就任しました。日本のスポーツ界に起爆剤が必要とされている時代に差しかかっている今、スポーツという産業を盛り上げ、その価値を上げていく。僕はONEが持つ経験値、ノウハウ、想像を上回る可能性に惹かれたのです。そしてその選択は、間違いではなかったと確信しています」

ONEありきではない。スポーツ界全体のため――。

そう何度も口にするONEチャンピオンシップジャパン社長、秦アンディ英之氏は、スポーツによってその人生を切り拓いてきたという。

第3回に続く


Hideyuki Andy Hata
1972年生まれ。アメリカと日本を往復する少年時代を過ごしたのち、明治大学を卒業し、ソニーに入社。ソニーで働く傍らアメリカンフットボール選手として、名門アサヒビールシルバースターで活躍(リーグ優勝も経験)。米ソニー在籍時にはスポンサードしていた2010年サッカーW杯の広告戦略等にも携わった。その後、世界的なスポーツ専門の調査コンサルティング会社、ニールセンスポーツの北アジア代表兼ニールセンスポーツ ジャパンの代表を務める。2018年12月、ONEチャンピオンシップ・ジャパンの代表に就任。

Text=村瀬秀信 Photograph=太田隆生