【久保裕也】家族の存在がもたらしたものとは?

今年、MLSのFCシンシナティへ移籍したサッカー元日本代表、久保裕也が「ゲーテ」だけに語った現在の想いとは。単独インタビュー3回目。

家族の存在は僕にとってプラスになっている

戦いの場を欧州からアメリカに移したことに加え、この2年の間に久保裕也に起きた大きな変化――それが、新しい家族ができたことだ。

2018年6月に入籍し、2019年11月には長男が誕生した。久保のインスタグラムを覗くと、若い頃のギラギラした姿からは想像もつかないような穏やかな表情で長男を抱く久保がいる。

「まあ、緩みますよね」と言って、久保は「フフフ」と笑った。

スイスでプレーしていた頃は、テレビの密着取材で、「24時間、サッカーのことだけを考えている」と語っていた。自宅を選んだ決め手として「練習から帰ってきても、この庭でボールを蹴ることができるし、壁に向かって蹴れるから」と答えたほどで、ストイックの塊のような男だった。

だが、家族ができれば、自主練習の時間も思うように取れないに違いない。どう折り合いを付けているのだろうか。

ところが、久保は「生活のリズムはすごく変わりましたけど、独身の頃よりも今のほうが自分には合っているな、と感じています」と意外なことを言う。

「ひとりだと、自由な時間があり過ぎて、サッカーのことばかり考えてしまって。やっぱり考え込むと良くない場合もあるじゃないですか。考える必要のないこともありますし。だから今は、家に帰ってきたら、サッカーのことはちょっと置いておいて、子どもと遊ぶとか、切り替えがうまくできるようになったと思います」

基本的に考え込むタイプだ、と久保は自己分析する。求道者のごとく、一心不乱にサッカーに打ち込むことは、良い面もあれば、悪い面もある。

「サッカーのことばかり考えてしまうと、例えば、『なんで俺ばかり監督から怒られるんだろう』とか、『なんで起用してくれないんだろう』とか、ネガティブなことが頭に浮かんでくる。それで、イライラしてしまう時期があったんです」

かつての久保は、チームの練習を終えて帰宅してからも、ひとり黙々とボールを蹴っていた。そんなストイックさが自らを疲弊させた部分もあるのかもしれない。

「もちろん、今も時間があれば、『サッカー、うまくなりたいな』って思っています。でも、切り替えができないと、次の日の練習でスイッチがうまく入らなかったり、集中が切れてしまったりすることがある。練習が終わったあと、また練習をする。それが毎日できるということは、逆に言えば、チームの練習で100%の力を出し切れていないのかもしれない。チームの練習には全力で取り組んだほうが絶対いい。そういうサイクルを作る意味でも、家族の存在は僕にとってプラスになっていると思います」

3月から7月に掛けて、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにJリーグが中断したように、MLSもこの時期は中断された。アメリカでは日本以上に新型コロナウイルスが猛威を振るったため、自宅に閉じ籠もっていたが、まったく苦ではなかったという。

「子どもがまだ小さくて、ちょうどつかまり立ちを始めたくらいで。成長を見ながら楽しめたのは、すごく良い時間でした」

だが、サッカーができなかった期間、長男の成長を見守ることと同じくらい久保にとって大きかったのが、サッカーに対する純粋な気持ちが湧いてきたことだった。

「『ボールを蹴りたい』とか、『試合をしたい』という想いが湧き出てきたんです。自然と出てきたということは、それが自分の純粋な気持ちなんだと思うんです。シガラミとか、プレッシャーもなく、ただ純粋に『俺、サッカー、好きやな』って感じられた。練習が再開されて、久しぶりにピッチに戻ったときも、サッカーがすごく楽しかった」

裏を返せば、純粋にサッカーが好きだという気持ちを一時期失っていた証でもあるだろう。思えば、近年の久保は、ピッチ内外のあらゆるものに対してファイティングポーズを取ってきた。

「ファイトするところが、いろんなところにあり過ぎたかな、と思います。ピッチの中だけでファイトすればいいのに、移籍のこととか、起用法のこととか、ピッチ外のことに対してもファイトしてしまったというか。結局、移籍というのは、自分が残したものを周りがどう評価するか。起用法に関しても、監督の考えを僕が変えられるわけではないですからね。だから今は、自分に目を向けてやっていこうと思っています」

家族と過ごす日常、サッカーから少しの間、離れた期間のすべてが今、久保に活力を与えてくれているのは間違いないようだ。

最終回に続く

Text=飯尾篤史 Photograph=久保裕也