【松浦勝人】「もし僕が若くて今のエイベックスの社員だとしたら、すぐにクビになっている」


次のビジネスを生みだす人を育てていくことが僕が今やるべきこと

日本でもIR(統合型リゾート)が本格始動する。日本版IRは、ラスベガスのように、カジノよりも付帯するレストランやエンタテインメント施設が主となる。当然、エイベックスとしても、意識して動いている。

僕たちは、IRとはまったく関係ないところで忍者のエンタテインメントづくりを随分前から着手していた。昨年にはNINJA PROJECTとして、そのコンテンツの一端を披露している。

忍者というのは、古くから伝わる日本文化であるのに、日本人にはあまり注目されていない。忍者の伝統を絶やしたくない。日本各地に、そういう問題意識を持っている人たちが、たくさんいる。そのなかには、忍者の系譜を受け継いでいる本物の忍者もいる。そういう人たちと一緒に、忍者を題材にしたエンタテインメントをつくり、日本で忍者を盛り上げていこうというのが、最初の発想だった。

でも、NINJA PROJECTを進めていくなかで、IRの話が本格化して、しかも、忍者は海外の人にはものすごく人気がある。インバウンド観光客の間でも、忍者のレストランや教室は人気が高い。だったら、IR向けのエンタテインメントとしても展開できないかという話になっている。

どのようなコンテンツに育てていくかは、これから。忍者をオリンピック競技にする発想もある。スポーツ化して、レッドブルのエアレースのように、それまでなかった競技として定着させようという話も出ている。

さらに日本には甲賀、伊賀など忍者ゆかりの地がいくつもある。IRでNINJA PROJECTを見た観光客が、こういった忍者の地を周遊して楽しめるような仕組みも考えている。アクロバティックなダンスというエイベックスがもともと得意としているものや、IRのようなエイベックスがこれから開発しようとしているものなども当然組み合わせることになっていくと思う。

コンテンツ開発については、黒岩(エイベックス代表取締役社長COO)に任せている。彼は、ずっとライヴに携わってきたので、一番詳しいし、すべての情報が彼に集まるようになっている。既存事業の経営も、可能な限り黒岩に任せて、僕は敢えて何もしないようにしている。

彼に任せられるのは、彼は僕よりずっとまともだから。創業者の僕がまともな人じゃないのに、社長までまともじゃなかったら、会社がどうにかなってしまう。僕がまともじゃないから、黒岩はまともでいてくれる。その役割もあるということは、彼も理解してくれていると思う。

まともじゃない僕が、もし若くて、今のエイベックスの社員だとしたら、すぐにクビになっていると思う。それ以前にまず入社試験に受からないし、僕も今のエイベックスの入社試験は受けていないと思う。どうせ自分なんて絶対入れないだろうとあきらめていただろうし、傾向と対策みたいな本を読んで、面接の練習をするとか、冗談じゃないよと思ってしまう。

エイベックスも、何かに突出した人を積極的に採用しようとしている。でも、あまりに突出しすぎた"まともじゃない"人はどうなんだろう。やっぱり、避けられてしまうんじゃないだろうか。僕が面接担当官で、若い頃の僕が受けに来たら、落としているかもしれない。"まともじゃない"人を制御して、企業が成長する方向に向けていくには、上司の力量も必要になる。

僕が、大学生の時に、貸レコード店でアルバイトをしたら、そこの社長が「君の好きなようにしていい。仕入れから運営まで好きなようにやれ」と言ってくれた。でも、それで本当に自分の好き勝手にやっていたら、趣味全開のお店になってつぶれている。僕は、売上げが上がるように人気のあるサザンやユーミンもしっかりと店に並べた。

社長は売上の7%を僕の給料にすると決めてくれた。普段の僕の働きぶり、行動をよく見ていて、僕が人一倍物欲が強いことも見抜いていた。店の周辺の地域の人をどうやって呼びこめばいいか、1枚でも余計に借りてもらうにはどうしたらいいか、その工夫をすることを面白がるということも見抜いていた。僕は音楽も好きだったけど、お金も好きだったし、ビジネスも好きになった。

新しい店を出す時も、普通なら固定給の雇われ店長があたり前。でも、社長は50:50の出資で店を出さないかと誘ってきた。だから、僕はその話に乗ってこの世界に入り、店が繁盛し、エイベックスの起業に結びついた。

僕のような"まともじゃない"人を上手く制御して、成功に結びつけていく力量を持った人というのはそうそういない。

だから、既存事業の経営はまともな黒岩に任せて、"まともじゃない"僕は、"まともじゃない"人を育てようと思う。"まともじゃない"人を10人ぐらい集めて、塾ではないけど、何かを一緒にやってみたいと考えている。僕は人に何かを教えるようなことはないけど、育つ環境を与え、ヒントを与え、チャンスを与えることはできる。できるのは昔話だけかもしれないけど、それを今の時代に当てはめて考え、何か面白いことを生みだしてくれるかもしれない。

僕は創業者だから、エイベックスのなかでも、すべての責任を負って、すべてを自分の判断でやってきた。でも、他の社員は、どんなに突出した人であっても、すべてを任せてもらい、自分の判断だけでものごとを進められるということは難しい。それが企業というもの。

エイベックスの社内にもすごい才能の持ち主はいるんだと思う。でも、企業が大きくなるとさまざまな壁ができて、才能を十分には発揮できないこともあるだろう。もし、そういう人がいたら、僕は「独立して起業しろ」と言ってあげたい。

僕はたくさんのアーティストを育ててきた。作曲家にも育つ環境やチャンスをつくってきた。でも、新しいビジネスを生みだす人を育てるということはあまりしてこなかった。次のビジネスを生みだす人を育てていくのが、僕が今やるべきことではないかと思っている。

Text=牧野武文 Photograph=有高唯之

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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長CEO。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。本連載をまとめた単行本『破壊者 ハカイモノ』(幻冬舎)を2018年7月に発売。
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