【エイベックス松浦勝人】「スマホに依存しすぎている。自分はデジタル中毒なんだと思う」


ハワイには年に数回は行く。家があるので、休暇が取れると、だいたいハワイに行く。でも、行っても何もしない。24時間中16時間ぐらい寝ている。たまに食事をしに行くぐらいで、ほとんど外にも出ない。ハワイには「何もしないこと」をするために行っている。

友人も一緒に行くことが多い。でも、みんなで何かをするということもない。皆それぞれ、自由に過ごしている。僕と同じでひたすら寝ている人もいるし、庭のハンモックで昼寝を楽しむ人もいるし、街に出かけて遊んでいる人もいる。互いに干渉しない。一緒に庭でバーベキューをすることもあるけど、それ以外は何をしているかもよく知らない。眠くなったら寝る。お腹が空いたら簡単なものを自分で作って食べる。寝る時間も決めない。食事の時間も決めない。自然のまま、身体が欲するままに暮らす。僕にとってのハワイはそういう場所。

30代の時に、どのくらいの期間、何もしないでいられるのかと思って挑戦したら、1ヵ月半ほどまったく何もせずに過ごすことができた。10日間ぐらいの休暇では、何もしなくてもあっという間にすぎてしまう。「あれ? もう終わりか」と思って、帰る時には憂鬱になるのだから、10日ぐらいでは「何もしないこと」がやり足りない。

寝るだけなら、東京の自宅で休暇を過ごしても同じことなんだけど、なぜか東京では眠れなくて、ハワイでは寝られる。理由はよくわからない。ハワイは風水的に「気」がいいのだと言う人もいる。気候がいいからだと言う人もいる。

都会特有のノイズもない。ヤシの葉が風で擦れる音、波がビーチに打ち寄せる音が、起きていても寝ていてもしている。それ以外の音はまったく存在しない。東京では、いくら静かな環境にしても、特有の機械音がしている。そういうことも関係しているのかもしれない。

リゾートホテルでもこうはいかない。世界には素晴らしいリゾートがたくさんあるけど、行こうとなれば飛行機のチケットを取り、ホテルを予約しなければならない。行けば行ったで、ホテルの部屋が自分に合わないこともある。ハワイなら自分の家があるので、飛行機さえ取れれば、突然行きたくなってもすぐ行ける。理想的な家とまでは言わないけど、自分のなかの理想にかなり近い環境で過ごすことができる。1998年の夏に、音楽を作る合宿をするために作家を連れてハワイに行って以来、休暇が取れると、だいたいいつもハワイに行くことになる。

ハワイではスマホも見ない。1日に1、2回、重要な連絡が入っていないかどうかをチェックする程度。でも、東京にいると仕事中はもちろん、休日でも腱鞘炎になるんじゃないかと思うぐらい見てしまう。それが大きなストレスになっている。

LINEは連絡を取るのに必要だから見るのは当然としても、ニュースサイトなども延々と見てしまう。そして、一度気になるニュースを見つけてしまうと、どんどん見続けてしまって止まらなくなる。アプリアイコンに赤い未読バッジが表示されていると、気になってしまい、あれがまったくない状態にしないと落ち着かない。

スマホを通して大量の情報が供給されているから、それを追わないといけないと思いこんでしまっている。人と話している時、知らない話題が出たら教えてもらえばいいだけのことなんだけど、その話題がどんどん先まで展開してしまって、今さら「最初から教えて」とは言いづらい空気になっていることもある。そんな時、自分は世の中から遅れてしまうのではないかと不安になる。

東京にいると、寝る時もベッドのそばにスマホを置いているし、下手をしたらマッサージを受けている合間も見ている。釣りをしている時はさすがに見ないけど、行き帰りの移動中はずっとスマホを見ている。

会議や打ち合わせの時はデスクに置いてくるようにしているけど、もし持っていったら、会議中も見てしまうと思う。

海外に行く時も、つい最近まで飛行機の中はWi-Fiが使えなかった。それがよかったと言う人もいるけど、僕には、スマホが使えないことがストレスでしかなかった。自分でも、依存しすぎていると思う。

じゃあ、そんなに自分にとって重要なニュースで溢れているのかというと、結局、ほとんどは意味がなかったりする。スマホをいじるのは、情報が必要というよりも、時間をつぶすためのようなところがある。「今、大切な情報を見ているんだから話しかけるなよ」と、人を寄せつけないためにしているところもある。何もしていなかったら、挨拶もしなければならないし、話もしなければならない。それが煩わしくて、スマホを意味もなく触っているようなところがある。もう、デジタル中毒なのだと思う。

僕だけじゃなくて、そういう人は多いんじゃないかと思う。スマホをいじるのをやめたら、1日どれだけ新たな時間が生まれるのだろうとも思うけど、それでも、やめられない。

それがハワイに行くと、不思議なことに、何もしないのに、やることもないのに、スマホを触らなくなる。

東京にいると、翌日の予定がある。そのためには、何時には寝て、何時間は睡眠を取っておかなければと考えてしまう。睡眠不足で人と会ったり、会議に出ることはできないから。

人と会うのであれば、世の中の情報もひととおりのことは知っておかなければならないと考えてしまう。すべて、そこに縛られている。ハワイは、そういうすべての縛りを外す場所。自分のメンタルを整えに行く場所になっている。

それでも、頭のなかの縛りまで外すことは難しい。ハワイにいても、頭のなかで仕事のことや不安なことを考えてしまう。ハワイまで行けばデジタル中毒から逃れることはできる。でも、僕のなかの不安だけはどこまでも追いかけてきて、なかなか逃げ切れそうもない。

Text=牧野武文 Photograph=有高唯之

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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。
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