なぜ中田英寿は6年半もの時間をかけて日本全国47都道府県を旅したのか?

8歳からサッカーを始めて、人生の多くの時間を費やした結果、プロになった中田英寿。サッカー同様、旅も大好きで、そのためにたくさんの時間を費やし、結果的に自身の今の活動につながっているという。そんな中田英寿が旅で見つけた、日本の本当のいいものをまとめた書籍「に・ほ・ん・も・の」が発売。改めて、旅に時間を費やしたその意義を聞いた。


"楽"と"楽しい"は同じ漢字だけど意味が違う

彼と同じような"自己投資"をしたいと思ってもそうそうできる人はいないだろう。中田英寿は、2009年から’15年の6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県を旅した。

「いつかくる未来のために、自分の時間を使うことが最大の投資だと思います。誰かに頼まれたわけでもなく、仕事でもなく、結果やリターンを求めて旅をしていたわけではありません。僕は自分が好きなこと、楽しいと思うことを常にしてきました。8歳からサッカーを始めて、人生の多くの時間を費やした結果、プロになりました。プロになりたいと思ってやっていたのではなく、楽しかったから、何よりも好きだったからやっていただけ。仕事や、お金のためにサッカーを選択したわけではありません。旅も同じです。旅が大好きで、そのためにたくさんの時間を費やしてきたことが、結果的に僕自身の今の活動につながっているんだと思います」

現在、中田は日本酒を始めとする日本文化の魅力を国内外に広めるための会社をつくり、PRのためのイベントを各地で開催。中田の会社が主催する「CRAFT SAKE WEEK」は、去る10月に国際PR協会の「ゴールデン・ワールド・アワーズ」最優秀賞を受賞するなど、世界的にも高い評価を受けている。

「もともと日本酒が好きだったというわけではなく、旅を通してその美味しさや奥深さを知り、もっと多くの人に知ってもらいたいと思いました。日本酒だけでなく、農業や伝統工芸……旅でいろいろなものに触れましたが、何よりも人との出会いが最大の収穫でした。6年半の間に出会った人は1万人を超えると思います。たくさんの方々と話し、時間を過ごし、その考え方や哲学に触れたことで、日本の素晴らしさを知りました」

旅が好きではないという人はいないだろう。だが、ただ楽しく旅行するのとは違う。

「僕の旅は、ガイドブックに載っているような名所を巡る観光旅行ではありません。学びたい、吸収したいという思いがあるから、できる限り多くの人や場所を訪ねます。夜明けとともに神社仏閣を参拝したり、農家で作業を手伝ったり、陶芸家の所で自ら作陶する。そうやって自分の身体を動かしてみて、はじめて気づくことが多いんです。"楽"と"楽しい"は同じ漢字だけど意味が違う。僕は楽しいことは好きだけど、楽をしたいわけではありません。楽ではないけど、楽しい。つらかったり、厳しかったりするけど、やりきった時に楽しさを感じる。そういうことがたくさんあります。ネットやガイドブックで見たり読んだりするだけでなく、自ら体験することで、本物の知識が身につくと思っています」

日本最南端の沖縄から北海道まで日本をめぐる長旅は完結した。だが、中田にとって、旅=人生。旅という自己投資に終わりはない。



中田英寿が旅で見つけた、日本の本当のいいものを、「ものづくり」「やど」「たべもの」「てみやげ」「さけ」の5ジャンルに分けて収録。一生に一度は体験したい珠玉の"にほんもの"を紹介する。

『に・ほ・ん・も・の』
中田英寿
KADOKAWA ¥1,900


Hidetoshi Nakata
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3 大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE CAMPANY」を設立。


Text=川上康介 Photograph=たかはしじゅんいち