【知られざるヒーロー列伝】孫正義と挑んだ夢と新たな希望。ヨット界の伝説・早福和彦③

日本のヨットレース界にこの男あり! 早福和彦、53歳。長きにわたり、選手・監督として日本ヨット界の中心に身を置き、今年から始まった世界最高峰の国別対抗戦「Sail(セール)GP」では日本チームのCOO(最高執行責任者)を務める。日本ヨット界を語る上で欠かすことのできない人物であり、世界各国の一流選手や首脳陣から「FUKU」と親しまれるパイオニア的存在。ここに示すのは、そんな知られざるヒーローの物語。


アメリカズカップへの再挑戦

20歳からセーリングを始めて30年後の2015年。孫正義さん率いるソフトバンクの全面協力の下、私はチームの総監督兼選手として、世界最古のトロフィーレースとされる「アメリカズカップ」に再び挑戦することになりました。

アメリカズカップとは、150年以上の伝統を持つ世界最高峰のヨットレースのこと。2016年には、その予選大会である「ルイ・ヴィトン アメリカズカップ ワールドシリーズ」がアジア初大会となる福岡で行われるという、歴史的な出来事もありました。

超一流のセーラーたちが世界一をかけて海の上で競い合う瞬間というのは、とてつもなくダイナミックであり、多くの感動が生まれます。地元の福岡で孫さんもその瞬間にご家族とともに立ち会われて、感激されていました。

われわれのソフトバンクチームは予選を突破し、'16年のプレーオフ(挑戦艇決定シリーズ)に進出。残念ながら'17年の第35回アメリカズカップへの道は、プレーオフ準決勝で敗れて幕を閉じてしまいましたが、日本を代表する企業とタッグを組んで世界に挑んだあの経験が色褪せることはありません。当時の経験を将来の日本ヨット界のために生かしていきたいと思っています。

Sail GPという希望

その後の1年間、私はいわゆる無職状態だったのですが、次回のアメリカズカップに向けてスポンサー集めに奔走していました。そんな時に、'10年、'13年大会の覇者で、'17年大会はニュージーランドチームに敗れた「オラクル・チームUSA」のCEO、ラッセル・クーツからある日電話がかかってきたのです。

「Sail GPという新しい国際大会を開催することになった。日本の力も必要だ。協力してくれないか?」

Sail GPは、6つのナショナルチームが世界各国で開かれる計5大会のグランプリシリーズを転戦するまったく新しい国際大会でした。しかも、優勝賞金は約1億円だと言います。それは、伝説のセーラーであるクーツとオラクルの創業者で世界有数の富豪のラリー・エリソンが仕掛けた、まさにヨット界の革命でした。すぐに協力することに決めて日本チームの代表選考やスポンサー集めを始めました。

"海のF1"と呼ばれるSail GP

もちろん、アメリカズカップが伝統のある権威ある素晴らしい大会であることに変わりはないのですが、決して現代的な大会とは言えない側面もあります。優勝したディフェンダーという防衛艇には次の大会で大きなアドバンテージが与えられる権利があり、チャレンジャーはよほど強くないとカップを奪還することはできません。大会も4年に1度なので、資金調達がとても難しいのです。

今年から始まったSail GPは9月にマルセイユで最終戦を迎え、私がCOOを務めた日本チームは2位に入る大健闘。2021年には日本でもグランプリが開催予定ですので、ますます魅力的なコンテンツとなっていくと思っています。

Sail GPの初年度である今年はオーストラリアチームが優勝。

日本は四方を海に囲まれている海洋国であるにもかかわらず、世界を舞台に活躍するプロセーラーがほとんどいない。海洋文化の日本がなぜ発展してこなかったのか。ヨットは、ヨーロッパでは紳士の嗜みとして親しまれてきた歴史があるのですが、日本では少し不良のイメージがついているのでしょうか……。

海のレースは本当に素晴らしいですし、子供たちにも、実際にそれを体験してほしい。チャレンジを繰り返すことで、人生はよりエキサイティングになっていく。日本人はもっともっと世界に飛び出していく必要があると思います。その可能性を少しでも広げるために、これからも私はヨットに人生を懸けていきたいと思います。

終わり

Kazuhiko Sofuku
1965年新潟県生まれ。高校時代はバスケットボールのインターハイ選手だったが、'87年、日本から初めてアメリカズカップへの挑戦を表明した「ベンガルベイチャレンジ」に参加。その後、「ニッポンチャレンジ」へ移籍。'95年、2000年のアメリカズカップの予選でベスト4に。'03年は米国「ワンワールドチャレンジ」、'07年は米国「BMWオラクルレーシング」に所属。スペインでフリーのプロセーラーとして活躍した後、'15年からは「ソフトバンクチームジャパン」の総監督兼選手してアメリカズカップ予選に出場。現在はSail GPジャパンチームの最高執行責任者(COO)。'87年までセーリング経験はなかったが、バスケットで培った運動能力で日本のトップセーラーとなり、国内ヨット界を牽引している。


Composition=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)


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