洞窟探検家 吉田勝次 未踏の地を知る面白さ~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

ある時は高さ30cmしかない狭い洞窟を数十mもほふく前進で進み、またある時はロープ1本で700mの縦穴を下りて未踏の地を目指す。生と死の境を行き来する危険極まりない洞窟探検へ向かう、その理由とは――。

宇宙よりも深海よりも身近で知られていない世界

滝川クリステル(以下滝川) 吉田さんに洞窟をナビゲートしてもらうのは4回目ですね。5年半ぶりでしょうか。

吉田勝次(以下吉田) 前は「EarthWalker2013」でハワイのカズムラ洞窟に行ったハワイのカズムラ洞窟に行ったんだよね。キラウエア火山の麓(ふもと)の、世界最長の火山洞窟。溶岩でゴツゴツしていて、新品の頑丈な靴が2日でダメになった。

滝川 真っ暗で、天井からポタポタ水がずっと垂れてきて。先に何があるかわからないなかを30時間くらい歩きましたよね。地上に出た瞬間、緊張が解(ほど)けて大泣きして、自分で驚きました。

吉田 地上のありがたみがわかるでしょ。初心者だっていうから、国内で2回予行練習もしたっけ。そこも今考えると中級コースだったな。過去3回に比べたら、今日のここ、樹海の富士風穴は超初心者コースだね。

滝川 でも氷の洞窟は初めてです。つるつる滑りますね。

吉田 氷の正体は雪解け水と雨。洞窟を形成している溶岩が冬の間の冷気を蓄冷するんだけど、春になって雪解け水が洞窟内に滴(したた)り落ちて凍り、つららや氷筍(ひょうじゅん)とかいろんな氷の造形物が作りだされる。逆に冬は氷の成長がほとんど止まっているから今は氷が少ない時季だよ。人気があるのはやっぱり夏。

誰も目にしたことのない地を発見したいという好奇心が、閉所恐怖症、高所恐怖症の吉田氏を突き動かす。

滝川 吉田さんは洞窟探検家として国内外の調査を進めながら、一般向けのガイドツアー会社も経営されているんですよね。

吉田 調査費用は自前だから働かないと(笑)。あとは21歳の時に立ち上げた建築の会社を細く長く続けてるけど、最近そちらはほぼ息子に任せて、そろそろようやく洞窟三昧かな。今朝石垣島からここに来て、明日は岡山で、一度東京に寄って翌日からはラオスに行くの。

滝川 びっしり。忙しいですね。

吉田 こういうことやってると、いつどうなるかわからないからさ。一日も無駄にできないし、空き時間があったら何でも詰めちゃう。でも街中も好きだよ。友達と会ったり、美味しいもの食べたり。そういうことが、探検中「無事に還るぞ」っていう原動力にもなってる。行ったり来たりが面白いんだよね。

滝川 いつもさらっと言いますけど、何度も生命の危機に遭ってますよね。縦穴の洞窟で何十メートルも落ちて、背中から鍾乳石(しょうにゅうせき)に刺さったとか。

吉田 そうそう、刺さってひっかかったから助かったんだよ。下まで落ちてたら完全にアウト。この前も奈良の洞窟内で潜水探索してたら、頭がガッチリ岩に挟まってさ。動かそうとしたら水中メガネが外れて真っ暗になって、直そうと動いたらレギュレーターが外れかけた。それで外れてたらここにいないよね。

滝川 ええ……。見えないまま戻ってきたってことですか?

吉田 潜水は視界ゼロでも進めないといけないの。フィンが起こす水の動きでどうしても水が濁るから、行きにはっていくラインと勘だけが頼り。

滝川 ひとりで、ですよね?

吉田 洞窟潜水ではひとりが基本だね。バディがいると、狭いところ潜って行き止まった時、共倒れになってしまうから却って危ない。

滝川 頭が入るかどうかの隙間に入っていくから……。

吉田 俺だってイヤなんだよ。テレビ番組とかで隙間好きのヘンな人、みたいに紹介されることがあるんだけど、別に挟まりたいわけじゃない(笑)。その先にあるものを見たいだけ。恐怖心より好奇心が勝(まさ)るだけでさ。ホントは人より恐がり。ただ長期の調査になったら好奇心だけでも進めない。閉鎖空間だと仲間のありがたさが身にしみるよね。洞窟に人生教わってるなあといつも思うよ。

滝川 吉田さんは私の知るなかでもトップクラスの野人なんですが、どんな子供でした?

吉田 動物大好きな子。生き物100種類くらい飼っていて、その世話とエサの調達と、生物図鑑の模写が日課だった。家庭訪問に来た先生をヘビ片手に追い回して、めちゃくちゃ怒られたりもしてたな(笑)。

滝川 悪童ですね(笑)。

吉田 でもさ、生き物っていつかは死んじゃうよね。いろんな生き物を看取るうちに、延命とかも所詮人間のエゴだし、自然に生きて死んでいくのがいいのかなと思うようになってだんだん飼わなくなった。まあ時々ハブを見かけると、やっぱり「かわいいな♡」って思うけど(笑)。

滝川 そういえば予行練習2回目の時、地上から35メートルくらいの縦穴洞窟に落ちたカエルを助けてくれましたね。餓死した動物たちの骨のなか、1匹だけ生きてたカエル。吉田さんは「餓死するね」って事も無げだったんだけど、こっそりヘルメットの中で保護して、地上まで連れ帰ってくれて。カエル、ぴょんぴょん跳んでいきました。

吉田 はは。ヘルメットの空洞にはいろんなものが入ります。密閉ビニール袋に入れた自分のウンコとか(笑)。ゴミも排泄物も持ち帰りが前提だから。

滝川 ハワイもそうでしたね。洞窟への興味も幼少期から?

吉田 鍾乳洞は好きで、よく遊びに行ってたかな。でも観光コースの順路はさっと飛ばして「立入禁止」って書いてある柵誰も目にしたことのない地を発見したいという好奇心が、閉所恐怖症、高所恐怖症の吉田氏を突き動かす。パニックになりそうな時ほど「じっと目を閉じる」そう。ひと呼吸おいてから、思案を重ね、実行し、脱出する。そんな危機的状況の過去もすべて、吉田氏さんが話すと笑い話になってしまう。「困った時ほど笑う」というその生命力の強さはピカイチ。隙間があればどこへでも!の奥ばかり覗きこんでた。

滝川 私もロープをまたいで怒られるタイプでした(笑)。

吉田 それ探検家気質だよ。「見えないところが見たい」って、探検の一番大きなモチベーション。俺の場合は前人未踏の光景を発見したいっていう欲求が第一だから、別に洞窟じゃなくてもよかった。宇宙や深海は人間の力だけで行けないけど、地底なら可能性があるからね。

「ここは撮影スポットだよ! 」と吉田さんが案内してくれ たのがこちら。スタッフが急な岩を下りるのに手間取っ ているなか、吉田さんはもちろん、滝川さんもスタスタ と前に進む。撮影準備含め2 時間ほども0 度の洞窟の中 にいても、滝川さんは「全然寒くない」と興奮。

滝川 そういえば先日、南仏ショーヴェ洞窟の壁画レプリカを見てきました。3万数千年前に描かれたといわれる世界最古の壁画ですが、2万年前に落石で入口が塞がれて、1994年に発見されるまで誰も知らなかったんですよね。吉田さんもぜひ壁画とか、見つけてくださいよ。

吉田 見つけたいねえ。発見の驚きがなかったら、ここまで洞窟病にはなってなかったと思う。未踏のすごい空間や、鍾乳石に覆われていた人の足跡を見つけた時も感動したよ。1000年以上前にここに誰かがいた痕跡。洞窟って昔は生活に密接に結びついていたんだよね。住居だったり、物置だったり。ここみたいな氷の洞窟は天然の冷蔵庫だった。洞窟は宗教の対象になることもあるし、山賊が村を襲うためにコウモリの糞で黒色火薬をつくっていたりとか、いろんな歴史がある。

滝川 眠る財宝もあるかも?

吉田 可能性はあるね。実際は何十年か何百年か前に来ていた「先輩」に会う確率のほうが高いけど。足を滑らせて入ってしまったであろう、1年半くらい前の方の時は、すぐに警察に通報して、回収作業も手伝いました。

滝川 そういう出会いも……。

吉田 洞窟の入口は小さくて、偶然発見されることが多い。でもそれを見つけたくて日がな、眠い目でGoogle Earthを見てる。

滝川 Google Earthですか。

吉田 以前は地形図や地質図で見ていたけど、便利になったよね。拡大して「この凹み怪しいな」と思ったらピン留めて後日行く。南極までピンあるよ。

滝川 吉田さんくらいの身体能力と精神力があったら、どこでも行けちゃうでしょう。記録とかも出せそう。

吉田 洞窟探検って、スポーツと違って記録やランキングで評価されるものじゃないからわかりにくいよね。だから広まらないのかな。

滝川 でも吉田さんの活動を知って、洞窟に興味を持つ若い人も多いんじゃないですか?

吉田 どうだろう。観光鍾乳洞は多いけど、ケイビングはまだなじみないでしょ。個人では行きにくいし。今ガイドの育成もやっているから、一般の人たちがもっと気軽に洞窟世界を楽しめる環境が整えばいいな、とは思う。でも探検家は増えなくていいよ。こんな面白いこと、ひとり占めしたいじゃん(笑)。心臓が最後の鼓動を打つ瞬間まで、未踏を追い求めたいね。

富士風穴にある日本の天然記念物 の洞窟。真っ暗な世界に光を当て ると幻想的な世界が広がる。0 度 から3 度を保つため、一年中氷柱 があって圧巻。夏でも解けない。
Katsuji Yoshida
1966年大阪府生まれ。一般社団法人日本ケイビング連盟会長。20代後半から洞窟にのめりこみ、今までに入った洞窟は国内外で1000以上。建築業の傍ら、洞窟探検家、プロガイドとしてテレビ番組の撮影、学術調査、ガイド育成などに努める。パクチーとゴキブリが苦手。
yoshidakatsuji.info @KatsujiYoshida

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Text=藤崎美穂 Photograph=斎藤隆悟 Styling=長瀬哲朗(UM) Hair & Make-up=石田絵里子