【久保裕也】W杯落選からどう立ち直ったのか?

今年、MLSのFCシンシナティへ移籍したサッカー元日本代表、久保裕也が「ゲーテ」だけに語った現在の想いとは。短期連載最終回。

改めて、当時の心境を語る

近年の久保裕也の心境の変化を語る上で、触れないわけにはいかない。

2018年ロシア・ワールドカップメンバーからの落選――。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督によって日本代表のメンバーに選出された久保は、本田圭佑を押しのけて出場したアジア最終予選で2試合連続ゴールを決めた。その頃の久保はまぎれもなく新世代の旗頭と言える存在だった。

しかし、5月31日に行われたワールドカップメンバー発表会見で、久保の名が読み上げられることはなかった。

直前になって世界大会のメンバーから落選するのは、16年リオ五輪に続いて二度目。リオ五輪の際はあくまでも、所属するヤングボーイズのチーム状態が悪化したことによる招集拒否だったが、ロシア・ワールドカップでは本大会直前に指揮官となった西野朗監督の構想から最後の最後で漏れてしまった……。

6日後、久保は『GOETHE WEB』での自身のコラムで、胸の内を吐露した。

《テレビを見ながら、ワールドカップロシア大会の日本代表メンバーの発表の瞬間を待っていた。正直、メンバーに選んでもらえるだろうと期待していた》

そう振り返った久保は、落選を受けてこう綴った。

《落胆、悔しさ、悲しさ……いろんな感情が一気に吹き上がってきた。なんでやろ? なにが足りなかったんやろ? 何度考えても答えが見つからない》

その文面にはやり切れない想いが滲み出ていた。

改めて、当時の心境を久保が語る。

「すごくショックでしたよ、正直。それで、このままじゃいけないと思って、ステップアップのつもりでドイツに行って。もっと上のリーグでやらないと、って自分にプレッシャーを与えようと思ったところもあったんですけど、うまくいかなくて」

ベルギーの名門、ゲントの主力だった久保は2018年夏、ドイツのニュルンベルクへ期限付き移籍を果たす。久保にとって念願の5大リーグ初挑戦。しかし、2部から昇格したばかりのニュルンベルクは戦力的に乏しく、1年で2部に降格。久保も22試合1ゴールの成績に終わった。

「でも、自分の思い描いたようなキャリアというか、人生にならないことってあるので。それに対して、ああだこうだ言い始めると、全部を否定してしまう感じになってしまう。それだけはしたくなかった。それで次第に、自分自身にフォーカスして、自分の成長を感じられたらいいのかなって思うようになって」

こうした考えに至ったのは、ゲントに復帰して試合に出られなくなってからだという。

「当然、自分は使われるものだと思って帰ってきて、最初は結果を出したのに、少し結果を出せない時期が続いたら代えられて、難しい状況になった。そうしたなかで感じるようになりましたね」

5大リーグやビッグクラブでプレーすることも、ワールドカップのメンバーに選ばれるかどうかも、自力の及ばない、他力や運によるところが大きい。それが思うようにいかないからといって自らを傷つけることには意味がない、ということに気が付いたのだ。

もっとも、そうした心境に至るのに、大きな葛藤があったであろうことは想像にかたくない。久保をサポートするマネージャーが証言する。

「五輪、ワールドカップと落選が続いたことで、彼は『自分の人生はそういう運命なんじゃないか』と思い詰める時期もあって。それと、5大リーグとか、セリエAとか、周りの人の追い求めている夢を、自分も追い求めているようなところもあった。そういうのに彼は苦しんでいたんだけど、ゲントに戻ってきたあたりから少しずつ考え方が変わってきた。今は自分自身にフォーカスするようになったし、純粋にサッカーを楽しんでいるようです」

今では、南野拓実や中島翔哉、遠藤 航といった同世代の選手たちが活躍する森保ジャパンの試合もチェックしているという。

「昔の自分なら悔しくて見られなかったと思うんですけど、考え方を変えてから自然に見られるようにもなりました。純粋にサッカーを見ている感じがするし、純粋に、日本代表にまた選ばれたいな、って。ただ、今までのように、そこにフォーカスし過ぎるようなことはしません。成長することだけを考えて」

そう語る久保は、以前のようにギラギラした野心を前面に出してはいない。柔らかい表情で、しかし、それでいて芯の強さを感じさせる表情だ。アメリカでのチャレンジによって、大事なものを掴んだに違いない。

「間違いなくこれからも自分のサッカー人生は続いていきますし、常に自分がハッピーでいたい。成長している自分を感じながら、進んでいきたいですね」

最後に、久保に訊いた。最もこだわっていたはずのゴールの価値も変わってきたのだろうか?

「やっぱりサッカーをやる以上はゴールを決めたいですし、決められなかったら悔しい。そこだけは何も変わってないと思います。毎試合、ゴール、アシストを決めるためにプレーしている。どんなポジションになっても、そこを目指す。目指さなくなったら、サッカーを辞めたほうがいいんじゃないかと思うくらい。そこはブレない自分らしさかな、と思います」

リーグ中断前の3月、2試合に出場して1ゴールを奪った久保は、中断明け直後の「MLSイズ・バック・トーナメント」で4試合に出場して1ゴール。リーグ戦再開後も3試合連続スタメンを飾った。チームが守備的な戦術を採用し、久保自身も中盤で起用されることが多いために得点数は伸びていないが、攻守両面で奮闘しながら、ゴールの機会を狙い続けている。

日本代表への復帰も、イタリアでプレーするという夢も諦めたわけではない。

だが、その未来は、自分自身がサッカーを楽しみ、成長した結果として付いてくるものだということを、今の久保裕也は理解している。


Text=飯尾篤史 Photograph=久保裕也