そもそもライフシフトとは?~元NHKスクープ記者・立岩陽一郎のLIFE SHIFT㉝

これまで華々しい実績を残してきたNHKを49歳にして去り、その翌日単身渡米。巨大エリートメディアを去った一人のジャーナリストが、様々な人の人生、LIFE SHIFTを伝えていく。第33回は、現在のコロナ禍の状況の中で、LIFE SHIFTとは何かについて考える。

コロナ禍における様々なLIFE SHIFT

「おはようございます」

6月15日、東京・お台場にあるフジテレビのスタジオ。番組のメインMCの小倉智昭氏の第一声とともに番組は活気づく。朝の情報番組「とくダネ」だ。この番組のコメンテーターとして定期的に呼ばれ始めたのは今年4月。全くの偶然だが、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたのと時を同じくする。その後は月2度のペースで呼ばれているが、当然、なかなか難しい対応を迫られている。

この日は、例の不倫問題。例の……と言って、「どの例のだ?」と戸惑う人はいないだろう。タレントの渡部 建氏のそれだ。

週刊文春のスクープが出る前から渡部氏が番組出演の自粛を発表して世間の注目を浴びたわけだが、それが報じられてみると、その行状の非常識さに人々の批判もヒートアップするという当然と言えば当然の結果となった。情報番組がこの話題をスルーすることはあり得ない。

この日は、本人が雲隠れした中で夫人の佐々木希氏、相方の児嶋一哉氏が謝罪していることが取り上げられ、危機管理の専門家が渡部氏の対応を評価するという流れだ。当然、高い評価を得るわけはない。

そこでサブMCを務めるフジテレビの伊藤利尋アナウンサーが私の隣に座る丸田佳奈氏にコメントを求める。

「芸能人の不倫をテレビで扱うなという意見がよく出てくるが、私は個人的に扱って良いと思う。視聴者としては芸能人を人間として見ているわけで、判断する際の情報として取り上げることは必要だ」

元ミス日本で医師の丸田氏はその様に話した上で、しかし今の段階では先ず夫人と話をしてその上でないと記者会見をしても意味が無いと指摘した。私も全く同感だ。  

丸田氏の趣旨とは違うが、情報番組がスターのゴシップを流すのはどこの国でも行われていることだ。逆に、情報番組でゴシップを扱わないとなれば、そちらの方が異様だろう。 

ただ、取り上げ方に、日本と欧米では多少違いがあるかとも思う。私が知るのはアメリカだけだが、アメリカのゴシップ番組は、どちらかと言うとゴシップを楽しんでしまうという雰囲気だった。

「このスターが、またやらかしました」

言葉にするとこういう感じだろうか。ブラッド・ピットやジャスティン・ビーバーなどは常連と言って良いだろう。

ブラピもジャスティンもその才能は凄い。それは誰もが認めるが、それが全てにおいて凄いとは誰も思っていない。恐らく人間的な欠陥は多々あると、誰もが見ている。だから、スキャンダルが発覚すれば、「だろ、やっぱりなぁ。俺は知っていたんだよ」と皆で喜ぶ……そんな感じだ。    

日本はそうならない。圧倒的に断罪的になる。「裏切られた」となる。そこに、多少、私は違和感を覚える……などスタジオで漠然と考えていたら、伊藤アナに振られてしまった。

「立岩さん」

はい?

「危機管理上は記者会見をすべきだということですが、会見の後に新事実が出てくるといった指摘が少なくありません」

伊藤さん、そう、来たかぁ……。

本番前には私に振るような素振りは見せていなかったが……などと恨めしく思っても仕方ない。これが情報番組だ。瞬時に判断が行われ、出演者はそれに臨機応変に対応することが求められる。台本などそもそも存在しないからだ。

「まぁ、渡部さんがそこまで冷静に考えられるか……」と、何を言っているのかわからない話を始めたのは、危機管理の要諦とはそれが危機管理だと諭さられないことという当然過ぎる理屈があるからだが、それでは何も言っていないに等しい。

そこで私は以前から感じていた話を……してしまった。

「フランスにミッテラン大統領っておられましたね。彼は愛人が複数いたことが知られていますが、隠し子の存在が明らかになった時、騒ぎになっています」

この時、記者の質問にミッテランが答えた、「Et alor?」、エ・アロール……「だからどうしたんですか?」は当時、世界中で話題になった。しかし、これには更に有名なエピソードがある。

ミッテラン夫人のダニエルも著名な人権活動家として知られた人物だ。そのダニエルに記者が隠し子について問うた時、「それは私たち2人の問題です」と答えたという。

私はそのエピソードを語りながら、「奥様と渡部さんと2人の問題ではないか」と話したわけだが、どうも、おさまりが悪いようだ。最後は「御大」が引き取って、「分別のある大人が……何にも言い訳できない。渡部君は」と叱責してコーナーが終わった。

コーナーが終わるとコマーシャルとなる。普通は出演者で歓談となるわけだが、この時ばかりはこの話題を引きずった。私も、「関心が高いことはわかりますが……」と妙な言い訳をしてしまう始末。それを見て伊藤アナが、「いろいろな意見を紹介できればと思って振らせてもらいました」と引き取った。いやはやテレビとは怖い世界だと悟らされた。

当然、私のコメントは評判が良いものではなく、方々から批判を受ける結果となった。それは、「結局、許しの対象ってことか」といった不倫を許容しているという批判もあれば、不倫相手の女性に対する渡部氏の対応が相手を性のはけ口としてしか見ていない問題を指摘するもの、また車いすの方などが使うための多目的トイレを悪用した行為に対する問題を指摘すべきといった様々なものだった。その全ては傾聴に値すると思う。正直、私も正解の答えは無いと感じている。

この連載のタイトルであるLIFE SHIFTは、もともとNHKを辞めてフリーランスになって様々な挑戦を行う私自身について書くということでスタートした。それは2年余り前のことで、タイトルは編集長がつけてくれたものだ。

それは途中の22回目の蓮池 透氏から、他の人のLIFE SHIFTを書くものになっている。このLIFE SHIFTという名称をなぜつけたのかは実は直接、編集長に尋ねたことはない。ただ、響きが良いし、好きなタイトルだ。

言うまでも無く、この言葉は良い時ばかりに使われるわけではない。この日の話題の中心だった渡部氏にとって、今がLIFE SHIFTの時であることは間違いない。タレントとしての明るい展望は開けないだろう。ただ、夫人の言葉からは、渡部氏を見捨てることはないという思いがうかがえる。同じように……と言って良いかはわからないが、不倫が問題となって国会議員を辞職した宮崎謙介氏が主夫の勧めを口にしていたと報じられたが、それも一つの考えだろうとは思う。

例えば、この連載で書いた元日経新聞編集委員の牧野洋氏は、その経済ジャーナリストとしての輝かしいキャリアを捨てて主夫となっている。それは本の執筆に専念するためだったが、本を書いても家族を養うだけの収入を得られる人は少ない。牧野氏の本は売れてはいるが、それでも家族が食べていくための収入は夫人が大学で教えて得ている。そして牧野氏は、0歳児を含む3人の子供の育児に励む。それについて牧野氏に尋ねたところ、次の様に話している。

「良かったですよ。本当に良かった。普通のレベルでは考えられないくらい子供たちとコミットできた。子供たちと同じ体験をするんです。子供にとって一番親と接したいときに一緒にいることができた」

そして夫人との信頼関係も構築できたと話している。渡部氏も安易にテレビに復帰するなど考えずに、牧野氏の言葉を参考にして欲しい。

それにしても、LIFE SHIFTと言って最大のLIFE SHIFTは、まさに今回のコロナと言って良いだろう。この「とくダネ」の出演が定期になった4月から暫くはリモート出演といってフジテレビ内の別の部屋からの出演となった。これはスタジオ内の人の数を減らすという3密対策によるもので、それはそれで面白い体験だった。

これは以前からコメンテーターを務めている毎日放送の老舗情報番組「ちちんぷいぷい」でも同じだ。別室からの出演というのは、今や違和感を覚えることも無いかもしれない。それはそれでLIFE SHIFTと言えなくもない。

もっともこの日の「とくダネ」はスタジオからの出演となった。ただ、スタジオの出演者間は広めに間隔がとられていて、その間にアクリル板が置かれている。私と小倉さんとの間には丸田さんがいて2枚のアクリル板が立てられている。だから、注意していないと小倉さんの「立岩さん」との呼びかけの内容が聞こえないことがある。実際に、一度、「はい?」と聞き返したことがあった。それを何度も繰り返したらお役目ごめんだろう。それはそれで新たなLIFE SHIFTとなる……などと言っている場合じゃない。

この新型コロナが、テレビの現場を変えただけでないことは、読者の皆さんが等しく実感しているところだろう。人との接触を減らすことが求められる社会……それは産業革命以来の社会の仕組みを大きく変えるものと言って良い……などと大げさなことを言うつもりはない。ただ、いろいろと考えなければいけないことは山の様にある。

「とくダネ」で、小倉さんにふられた話に、夜の街のガイドラインがあった。いわゆる接待の場での密の回避だ。

「立岩さん、こう厳しい状況ではお客さんだって遠のくでしょうね?」

そう問われ、「そうですね。ガイドラインだけでなく、新たな楽しみ方を考えないと、プラスアルファが無いと誰も行かなくなってしまいますね」と答えてみたものの、これもまた不発に終わってしまった。

それを気にしていても始まらないが、何かとコメントも難しいのは、コロナの責任ではないかもしれないが……。

ただ、当分の間は、新たな生活をそれぞれが模索することになることは間違いない。実は、この連載も同じだ。何人かの方にオンラインで話を聴いた。そしていざ書こうとするが、なかなか書けない。書くのは単にその人の言葉だけではないからだ。その人の語る際の、所作振る舞いや表情だったりもする。

今回、フジテレビの「とくダネ」を軸に今の私の状況を書いたのは苦肉の策とも言える。次回以降は再び、私よりはるかに魅力的な人々のLIFE SHIFTを書きたい。それをどうやって実現するか。それもまた考えないといけない。

今回の写真は、毎日放送「ちちんぷいぷい」の現場のものです。番組から許可をいただいて掲載しました。許可してくださったプロデューサー、付き合っていただいたMCの山中 真さん、撮影してくれたスタッフに感謝します 。

㉞に続く

立岩陽一郎
立岩陽一郎
調査報道を専門とする認定NPO「インファクト」編集長。一橋大学卒業。NHKで初めて戦場特派員としてイラク、クウェートを取材。社会部記者、1年間の米国留学の後、国際報道局デスクを経験するなど華々しいキャリアを築くも「パナマ文書」の取材を最後に49歳にしてNHKを辞職しその翌日渡米。現在は公益法人「政治資金センター」理事や毎日放送「ちちんぷいぷい」のレギュラー・コメンテータ、ニュースメディアへこれまで培ってきた報道の世界の鋭い目線で記事を提供するなど活動の幅は多岐に渡る。著書に「ファクトチェック最前線」「トランプ報道のフェイクとファクト」「NPOメディアが切り開くジャーナリズム」「トランプ王国の素顔」、共著に「ファクトチェックとは何か」「フェイクと憎悪」がある。
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