映画『羊と鋼の森』主演、山﨑賢人が語る腕時計とは?

雑誌「ゲーテ」は「はじめての高級腕時計 by YOUNG GOETHE」と題した時計ムックを発売中。”高級腕時計が、30代男子の人生と仕事を切り拓く!”をテーマに、全56ブランド164本の時計を紹介。その表紙を飾った山﨑賢人のスペシャルインタビューを掲載する。


今はまだ時計を見る時ではない。

映画『羊と鋼の森』は、山﨑賢人演じる主人公・外村直樹がピアノの調律師を目指し、成長する過程を描く物語だ。

特別な〝事件〞が起こるわけではない。そこに描かれるのは、穏やかでどこにでもあるありふれた日常。家族がいて、仲間がいて、挫折があり、歓びがあり、ほのかな恋がある。

静かで美しい映像に観客は目を奪われるが、そのなかで主役を演じた山﨑にとって、これまでにない難しい役だったという。

「外村は自分には何も才能がないと思っている若者。彼は調律師を目指し、その仕事を好きになり、そして好きになったために悩む。この撮影中は、僕も同じような感覚になることがありました。外村をうまく演じようと考えれば考えるほど、どう演じればいいのかわからなくなってしまうんです。悩んで、迷っているうちに、リアルな人間を描く映画なのだから、このままの感情を出せばいいのかなと思って、そのまま演じていました。作中で外村が三浦友和さん演じる憧れの調律師・板鳥に『どうすれば調律がうまくなりますか?』とたずねるシーンがあるんですが、僕も三浦さんに訊きたかったくらいです。どうすれば演技がうまくなりますか?』って(笑)」

調律師を演じるのももちろん初めて。何百という作業工程のあるこの職業を自然に演じるために調律師の学校に通い、撮影前には調律師の先生とともにロケ地となった北海道・美瑛町で2泊3日の合宿も行ったという。

「ピアノって膨大な数のパーツでできているんです。それらを理解することから始めました。鍵盤の押し方、道具の使い方、音に対する感覚。調律で生じるわずかな音の違いを映像で表現するのは難しい。だからこそ調律師の演技が本物に見えなければならないんです。合宿は、周りが静かな場所で行ったんですが、繰り返しピアノの音を聞き分ける練習をしているうちに、少しずつですが違いがわかるようになっていきました」

2016年のベストセラー小説『羊と鋼の森』が待望の映画化。繊細な調律師の物語を映像化したのは、山﨑賢人出演の映画『orange』でメガホンをとった橋本光二郎監督。山﨑演じる外村の同僚として三浦友和、鈴木亮平、光石 研ら名優が結集。物語の重要な鍵を握るピアニスト姉妹を上白石萌音・萌歌という実の姉妹が演じることも話題に。

スクリーンを通してみると大人っぽく見えるが、目の前にいる山﨑が時折見せる屈託のない笑顔は、23歳の若々しさを湛えている。彼にとって腕時計とは、まだ〝憧れの存在〞だという。

「今持っているのは、以前自分で買った’60年代のヴィンテージウォッチと、兄や監督からプレゼントにもらったもの。あとは、一昨年日本アカデミー賞の新人俳優賞をいただいた時に記念にいただいた時計も持っています。でも普段は現場に入って着替えることが多いので、ほとんど着ける機会がないんです。もう少し大人になったら、自分へのご褒美として時計を1本買いたいですね」

発明王トーマス・エジソンは、自分のもとを訪ねてきた若者にこうアドバイスしたという。

「決して時計を見るな」

時間を気にすることなく、ひとつのことに没頭できるのは若者の特権だ。山﨑も今俳優という仕事にのめりこみ、時計を見る暇もないのだろう。

「今回は、三浦友和さん、光石 研さん、鈴木亮平さんなど、いろいろな年齢やキャリアを持った先輩方とご一緒できて、とても楽しかったし、刺激になりました。一緒に芝居をすることはもちろん、その立ち居振る舞いを見ているだけでも勉強になる。先輩がいてくれるから、僕は悩んで迷いながら答えを見つけていけばいいのかなと思えたんです。そういう意味で、贅沢な現場だと感じていました」

それが5年後なのか、10年後なのか、もっと先なのかはわからない。だがこのまま走り続ければ日本を代表する俳優になるだろう。その時彼の手首にどんな時計が輝いているのか。山﨑賢人は、そんなことを思わせてくれる俳優だった。

Kento Yamazaki
1994年東京都生まれ。2010年、俳優としてデビュー。ドラマ、映画、CMと幅広く活躍。’16年、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『陸王』『トドメの接吻』など話題作に出演、今もっとも注目される俳優のひとりだ。


Text=川上康介 Photograph=秦 淳司 Styling=伊藤省吾(sitor) Hair & Make-up=永瀬多壱(VANITES)


<お詫びと訂正>
『はじめての高級腕時計 by YOUNG GOETHE』Vol.1、P38下部分、映画『羊と鋼の森』の公開日に誤りがありました。正しくは「6月8日」です。読者の皆様、及び関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びするとともに、訂正いたします。