LIXIL 藤森義明 日本人に足りないのは、本物のリーダーシップである

“日本人で最も出世した男”と評されたこともある世界的企業 LIXILグループ 取締役代表執行役社長 兼 CEO 藤森義明氏。世界的企業GEで上席副社長を務めた男が見た世界とは──。

伝説の経営者からリーダーシップを学ぶ

 あのジャック・ウェルチがGEを率いていた時代、アメリカのGE本社で30万人企業の頂点に立つ執行役員会議メンバーのひとりとなり、上級副社長を務めていた日本人がいる。GEの130年の歴史のなかでも、アジア人としては初めてのことだった。それが、藤森義明氏だ。
 2011年、5社が統合し誕生した、住まいと暮らしの総合住生活企業LIXILを傘下に持つLIXILグループの社長に就任。巨大企業となった組織の舵取りを委ねられている。
「日本人には強さがあるんです。自信もある。勉強はよくするし、勤勉だし、まじめだし、絶対にやってやろうという気概もある。戦う場所さえ与えられれば、絶対に勝てると考えている。私自身、かつてはそんな典型的な日本人でした」
 ところが、日本の総合商社から35歳でGEに転じた時、藤森氏は大きなショックを受ける。
「日本人には徹底的に欠けているものがある、とわかったからです。それが、リーダーシップでした。リーダーシップ教育も受けていなかった。LIXILを率いることになった時、私は確認しました。リーダーシップ教育はどうなっているか、と。30歳になっても、40歳になっても、50歳になっても、リーダーシップ教育はなされていなかった。日本では、今も状況は変わっていないと知りました」
 しかし、日本でもリーダーシップという言葉は使われる。何がアメリカと日本で違うのか。
「日本のリーダーシップというのは、ポジションで管理をしていくイメージです。自分の下にいる人をいかに管理して引っ張っていくか。アメリカのリーダーシップは違う。人に対してどれだけ影響力が与えられるか、が重視される。こうしたい、こうなりたいという自分のビジョンを示し、伝え、共感を生み、人を動かしていく。それは部下に限りません。ウェルチはよく、こう言っていました。線でつながっていない人たちに、どれだけ影響が与えられるかがリーダーだ、と。権限や命令で人を動かすのではないんです。気持ちを動かすことによって人を引っ張る。日本のリーダーシップとは、まるで違うものなんです」

秒単位で相手を説得するスピーチができるか

 そしてリーダーシップは、持って生まれたものではなくて、後天的なものだと知った。
「リーダーは教育によって作れるんです。だから、教育トレーニングが大事になる。リーダーの大きな役割のひとつは、リーダーを育てることなんです」
 藤森氏はLIXILの社長に就任してすぐに、若手から幹部まで4つの段階のリーダーシッププログラムを作り上げている。全社員が受けられるわけではない。選抜された“成績優秀者”だけが受けられる“ご褒美”だ。
「GEは1950年代に巨大な研修センターを造り、リーダーシップ教育に力を入れてきました。しかも、トップマネージメントが必ず関わるんです。ウェルチも月に2回は必ず来ていました。本社から20分ほどかけてヘリコプターでやってきて、2時間くらい教壇に立つ。真剣ですよ。すると、それまで教えられた内容がひとつにカチャリと結びついていくんです。今の私も、どのリーダーシップ研修にも必ず顔を出します。新幹線で片道2時間の移動になるので、月1回ペースなんですが(笑)」
 もうひとつ、アメリカに渡って鍛えられたのが、グローバル環境におけるコミュニケーションだと藤森氏。
「もちろん英語力は大事ですが、中学生の英語レベルなら、十分コミュニケーションはできます。実際、英語を母国語としていない国から来ている人のなかには、カタコトの英語しか使えない人も少なくない。いろんな人たちが集まれば集まるほど、基礎的な英語のほうが必要になるんです。大事なことは、そうした基礎的な英語を使って、どのくらいきちんと自分の思いを伝えることができるか、です。これが、簡単なことではない」

 リーダーが語らねばならないのは、ビジョンであり、変革スピリッツであり、向かうべき先。それを伝えて共感を生み、コミットメントを得なければいけない。
「そのためには説得力が必要になる。共感が得られるだけのロジックが必要になる。しかも、わかりやすくなければいけない。実際には何十回でも、何百回でも、わかって貰えるまで、いろんな観点で話をしないといけない。繰り返しやらないといけない。100回話したとしたら、100回ともに同じパッションでできるか。それも問われる」
 しかも、伝え方にも、いろんなやり方があるという。1時間で伝える方法、15分で伝える方法、さらには90秒、トップエグゼクティブと30秒、エレベーターの中で会話するような“エレベータースピーチ”まである。
「はっきりわかったことは、まずは秒単位のスピーチができなければいけないということです。長く語れれば短いスピーチができるのではない。逆なんです」
 秒単位でどこまで人を惹きつけられるか。藤森氏はそれを徹底的に訓練したという。
「例えば、ボイスメールを使って、自分の伝えたいことを30秒にまとめて吹きこむ。最初の頃は、何を言っているのか、自分でもさっぱりわかりませんでした。でも、何回も、それを繰り返したんですね。吹きこんでは聴き、吹きこんでは聴き。自分が納得いくまで、完璧だと思えるまで妥協しませんでした」
 ボイスメールを使ったトレーニングを100回以上繰り返しているうち、やがて自分の言っていることがわかるようになった。自分がわかるということは、人にもわかるということだ。
「伝えたいことが30秒で伝えられるようになれば、1分でも10分でも1時間でも、もう困ることはないんです。人を説得するには1時間必要だと考えている人には、絶対に秒単位では人を説得することはできません。秒単位の説得のためには、訓練が必要になるんです」

変革を起こすことがリーダーの役割

 一方、ビジネスにおいても、グローバルリーダーの在り方を垣間見てきた、と藤森氏。
「これはLIXILが目指すべきことでもありますが、海外に出ていく時には、日本の技術や日本のデザインを押しつけてはいけないんです。その地の人たちのために、その地の人たちが開発し、実践する。では、その集合体がどこでベクトルを合わせていくのかといえば、企業としての理念であり価値観なんです。そしてお互いに助け合い、ベストプラクティスを共有する。そういう形にならない限り、グローバルな仕事を完成したとはいえないと思っています」
 だからこそ、組織の運営についても、グローバルに通用する文化を作っていきたいと語る。
「まずはダイバーシティ。東大生を10人集めても同じ考えしか出てきません。世界からまったく違う人材を集めたら、ひょっとするとバラバラに分解してしまうかもしれないけれど、ひとつの目標に向かわせられれば、強烈な爆発力と創造力を期待できる。これが面白いんです。そして、イコール・オポチュニティ。日本人だから、男性だから、といった理由で当たり前のように上にいくのではなく、それぞれの違いを尊重しながら、みんなが同じ土俵で戦う。さらには、競争文化。実践主義でフェアに評価される。この3つを重視した文化を作っていきたい」
 そのために、人事の仕組みを新たに作り上げたという。仕組みを変え、文化を変えることが、企業を変えることになるのだ、と。アメリカでの経験をベースに、日本で新しいグローバル企業づくりに挑んでいるのが、藤森氏なのだ。
「日本が成長していくためには、もはやグローバル抜きには考えられない時代が来ています。実際、国を開くことによって、日本は発展し、大きくなってきた。扉を開けば攻め入られる、という考え方もありますが、こちらから攻めこむこともできるわけです。最大の防御は攻めること。ただ守っているだけでは成長ができません」
 成長しない現状維持でいいじゃないか、という声も聞こえてくる。しかし、藤森氏は言う。
「周りが成長していれば、現状維持は実際には下降線を辿っているんです。現状維持にならないためにも、高い所を見続けることが必要になる。さらなる変革が必要になる。変革を起こすのが、リーダーの役割なんです」
 日本のなかだけに自分を置かず、世界の視点から見られるか。そんなグローバルリーダーを、どれだけ生みだせるか。それが日本に問われている。

Fujimori's Rules コミュニケーション3つの流儀

繰り返し伝えていく
共感を得るためには、何十回でも何百回でも、わかって貰えるまで話をしないといけない。いろんな観点から話をしないといけない。コミュニケーションの数は、想像以上に重要になってくる。

秒単位で人を説得する
長い時間をかけて説得するのでは感動も何もない。大事なことは、いかに短時間で人を惹(ひ)きつけられるか。エレベーターの中でされる秒単位のスピーチで人を驚かせられるか。そこに挑むべき。

ボイスメールで練習を
英語による“エレベータースピーチ”を成功させるには、絶対にトレーニングが必要になる。ボイスメールに吹きこんだ30秒でどこまで人を説得できるか。100回繰り返せば、間違いなく上達する。

Yoshiaki Fujimori
1951年東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、日商岩井(現双日)入社。'81年カーネギーメロン大学MBA取得。'86年日本ゼネラル・エレクトリック入社。'97米GE副社長、2001年米GE上席副社長。2011年より現職。トステム、INAX、新日軽、サンウェーブ、東洋エクステリアの5社が統合したLIXILの社長も兼務。

Text=上阪 徹 Photograph=大森 直、鈴木拓也 Illustration=AVE ATSUSHI

*本記事の内容は13年10月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい