アマチュアにも勝利給! 選手たちの意識を変える【GM城彰二物語③】

信頼する先輩であり、前任者でもあった藤川孝幸の死をきっかけに、2019年、城彰二は、突然北海道十勝スカイアースの統括ゼネラル・マネージャーに就任した。所属はまだ、社会人リーグ。スタジアムはもちろん、決まった練習場さえもない。スポンサーヘの営業、自治体との連係、クラブ運営など、すべてを行わなければいけない。北海道室蘭市で生まれ、中学1年まで過ごした城の目標。それは、北海道にJリーグクラブをゼロから作ること。連載「GM城彰二物語」、第3回。

連載【GM城彰二物語】1回目の記事はこちら

「これが契約書だから、目を通したうえで、問題がなければ、サインしてください」

「勝利給って、地域リーグでももらえるんですか?」

「もちろんそうだよ」

「そうなんですか! 俺ら全部勝ちますよ、大丈夫ですか?」

「全部勝ってくれ。問題はないよ」

2019年シーズンを前に北海道十勝スカイアースの統括ゼネラル・マネージャ―(以下統括GM)として、選手ひとりひとりと面談し、契約書を交わした。

十勝スカイアースは北海道地域リーグで戦う社会人チーム。いわばアマチュアチームだ。サッカー選手として契約書にサインするという作業自体が初めてという選手も多かった。わずかに高揚した面持ちでサインする選手たちを見ていると、僕自身も少し嬉しくなった。

統括GMとして、クラブの予算立てをする際、僕は「選手ファースト」ということを第一に考えた。彼らがサッカーに集中できる環境を整えたいと思ったからだ。ほとんどの選手がアマチュアなので、クラブから給料は支払われていない。各自が日中仕事をし、19時から練習に参加し、週末のリーグ戦に備える。

今季はほとんどの選手が、クラブのスポンサー企業の仕事に就き、練習や試合を優先させてもらっている。しかし、昨季まではスポンサー企業以外で働く選手も多く、残業や休日出勤などで、練習や試合に参加できない選手もいた。

実際、試合キックオフ時には選手が9人しかおらず、前半終了間際に遅れた選手が出場するというようなことも過去にはあった。激務のせいか練習の欠席が続く選手もいた。当然社会人チーム、アマチュアなのだから、しょうがないと言える。サッカーは趣味という感覚であっても責められない。実際昨季まではそういう意識の選手も少なくなかった。

しかし、十勝スカイアースはJリーグ加盟、プロを目指すクラブ。プロ意識を持ってサッカーに取り組んでくれる選手で構成されるべきだと僕は考えた。本当にプロリーグ、Jリーグを目指すチームにするためには、選手の意識を変えなければ、いつまでたってもうまくいかない。大きな旗を掲げただけでは夢はかなえられない。だから、選手との面談で僕は何度も彼らに問うた、

「本当にJリーグを目指すクラブにする。僕らはできる限り全力で環境を整える。だから選手にも変わってもらわないといけない。楽しいだけの趣味という感覚でいる選手は必要ないんだ」

彼らの想いを確認したうえで、様々な規約を提示し、それを了承してもらったうえで、契約を結んだのだ。

試合や練習には必ず参加すること。休みが続く選手は試合では起用しない。

飲酒する機会もあるだろうけれど、これからは、十勝スカイアースの一員として「見られる」ということを忘れないでほしい。なにか事件がおきれば、契約を解除する……。

プロのクラブであれば、当然であることだが、それを明文化することで、義務や責任感も増すはずだ。
 
「結果が伴わなければ、来年もいっしょにやれるという保証はない。それでも今、力を貸してほしい」

厳しい言い方かもしれないが、僕は選手全員にそう告げた。

「それでもこのクラブに関われることが幸せだから全力でやります」

迷いなくまっすぐそう応えてくれた選手たちの純粋さに、僕は刺激を受けている。

彼らはサッカー中心の生活をしたい、そんな人生に憧れを持ちながら、たとえそれが叶わなくとも、サッカー選手として生活を送りたいと考えている。それはサッカーでお金を稼ぎたいという欲ではなく、ただサッカーが好きだという想いだけで支えられているように感じる。

もちろん、Jリーグ参入、プロリーグの一員となる夢を抱く選手も多いが、それはすぐに叶えられる夢じゃない。当然、プロならば何年も同じ場所でプレーするのは容易ではない。選手間の生存競争はカテゴリーが上がるとともに激しさを増すだろう。たとえクラブとしてその夢を実現させたとしても、年齢的に考えて、その場に立つことができない選手もいるはずだ。それでも、今、十勝スカイアースの一員として力を貸したいと言ってくれる。

チームを編成する選手のほとんどが、北海道や地元の帯広や十勝地域の選手だ。強化という意味では他地域の選手がもっと必要かもしれないが、地域密着を進めるうえでも、今は地元出身の選手で編成することに大きな意味がある。たとえ、チームを離れたとしても、十勝スカイアースのファミリーとして、クラブを支える存在になってくれるはずだから。

各地域リーグの優勝チームなど12チームが参加する大会で、北海道リーグのチームが勝利したのはわずかに1度しかない。それは昨年、十勝スカイアースが高知ユナイテッドSCに対して挙げたリーグ戦での勝利だ。それぐらい北海道と全国とのレベルは違う。道内で勝てたとしても、全国大会で上位に入らなければ、JFL入りはできないし、その先の道も開けない。

それでも、1勝できたことで、選手たちは「なにが足りないか」という前向きな課題を手にすることができた。選手たちの意識変革がチームの進化に繋がっている。小さなものであっても一歩一歩進むことの重要性を感じる1勝だった。

続く

Shoji Jo
1975年北海道室蘭市生まれ。元サッカー日本代表。‘98年フランスW杯メンバー。2006年、現役引退。’17年、現・北海道十勝スカイアースのスーパーバイザー、’19年、北海道十勝スカイアースの統括ゼネラル・マネージャーに就任。


Text=寺野典子 Photograph=杉田裕一